そしていただく、ありがたくないお告げ
毎日仕事に追われる身としては、睡眠時間は貴重である。
寝たと思えば朝になっていて、寝た気がしない日もあれば、ゆっくり眠れたと充足して目覚める朝もある。けれど最近は眠りの質が悪いのか、寝ている時間の割に終始眠い日が続いていた。イザベラお母様は何も言ってこないが、もしかして睡眠時無呼吸症候群とかだろうか。イビキ凄い?元王女としてそれはどうなんだと頭を抱えたくなる私である。
…本当は別で、心当たりがなくもないのだけど。そんなわけはないと私は断固認めない姿勢だ。
今日こそは充足した眠りに落ちますように。
奮発して購入した睡眠効果のあるポプリを枕元に忍ばせて、私はそっと目を閉じた。
気付けば私は真っ白な空間に居た。
最初は霧の中にいるように白ぼんやりとしていた視界が、時間と共にはっきりとクリアなものになっていく。そして今日も、私は豪奢なソファに腰かけていて、机を挟んだその向かいのソファにはクレアが同じように座っていることに気づくのだ。
クレアは悠々たる態度で寛いでいて、また会ったね、と不気味に笑うと、また昨日と同じ説明を一方的に繰り返す。今をときめく魔法石関連の話題だ。曰く
今明らかになっているのは、魔法石の劣化が黒鉛珪石の混入によって人為的になされていること。
混ぜ物で全体量を増やすことで、余剰となった魔法石はどこかへ横流しされていること。
魔法石の高騰を目論み、それにより利益を得ようとしている者の存在。
そしてそれを指示しているのはヘーメヴァン伯爵の叔父にあたるナハル殿だということ。
淡々と事実を述べ、次は自身の見解を口にする。これは俺の推測だけど、と前置いて
単純に考えれば、魔法石の質が下がっても、出荷量を制限することで値段を高騰させて、利益を得ようとしているってことだよね。そして余った魔法石も横流しすることでも金を生む。
それだけなら結構杜撰な計画に見えるけど、時間をかけて丁寧に隠蔽工作を図り、慎重に事を進めることで不審さが露呈しないようにしてる。事実、きな臭いと思いながらも未だ尻尾が掴めていないのが現状だしね。
果たしてこれはただの金儲けの為のカラクリなのかな?こんなリスクを負ってまで利益を追求するとは恐れ入るけれど、これがただの強欲だったらむしろありがたいよね。他の思惑がないと言い切れるのかな?
魔法石関連でいえば、ラウリニス侯爵家にあった魔法石。あれって今出回っているものより更に酷い劣悪品だよね。ティナが一つ持って帰ってきてくれたから成分については今調べてもらってるけど、そもそもそんな出来の悪い石どうするつもりなんだろ?あれじゃあいくら流出量を絞ったところで魔法石の価値が暴落するのは目に見えてるし、価格崩壊を起こしかねない。あんなのが主流となれば、魔法具での生活を根底から揺るがしかねない。
さて、次だ。
それとは別に、毒ガスを生成するとされているフェアリーストーンが秘密裏に収集されて、どこかへ横流しにされてるってこともあったよね。え?知らない?昨日も言ったはずなんだけどね。装飾品という名目で売買に出されてたんだよ。
フェアリーストーンは国で管理することが大前提の結構な機密が絡む石なんだけど、存在しないという届け出がされてる場所で見つかったってことは、それだけで懲罰ものなんだよね。けどあそこ爆発して崩壊しちゃったじゃん。おかげで証拠がどうしても充分じゃない。
まぁ、それはそれとして。
男達の話からあの石で毒ガスが生成されてると仮定して、使うタイミングはいつだろう?個人的な交渉で使うにはあまりに危険だしコストが嵩む。それならもっと大きな影響力を考えた方がしっくりくるよね。つまり、何か組織的な存在がバックにあると考えていいんじゃないかな?
人が集まって毒ガスを使おうなんて逆賊か、戦争か、侵略か、革命か。あまり穏やかなものではないと思うね。ほんとろくでもなくて笑っちゃうよね。
それで、これを指示していたのが誰かって話なんだけど。あの爆発の前に親切にも内情を教えてくれた男達がキーパーソンになってくるよね。俺は見覚えもなかったけど、以前別の件で動いていたハルが、あの男達を知っていたんだ。だからすぐにラウリニス侯爵の手の者だとわかった。それで何かしでかす前にふんじばりたいんだけど、証拠がなくて問い詰められない。昨日侯爵家へその証拠を探しに行ったけど、セリウスもティナも目ぼしいものはみつけられなかったみたいだね。家族にも隠していたラウリニス侯爵は離れにそういった危険なもの一切を隠していたみたいだから当然だけどね。ハルも情報収集が甘いよね。おかげでティナ達は無駄骨だったワケだけど。
…あぁ。ハルのことだから、俺を巻き込もうとして、わざとそんなことしたのかもしれないね。今その可能性に気付いたよ。だとしたらほんとやな男だよね。…ん?何か言いたそうだね。ティナ。俺は善良で誰からも愛される神様だと自負しているけど、何?
まぁいいや。話を戻すけど、乗せられたんだとしたらすっごい不本意だけど、ティナ達が帰った後、離れの方を探りに行ってきた。その時にプロの殺し屋みたいな奴に襲われたんだよね。返り討ちにしたけど、あそこに怪しいものがあるって言ってるようなもんじゃない?探ったら、案の定何人か怪しい人物の名前が出てきた。それが、この国の重鎮の名前だったりしたからさあ大変。
そろそろ嫌な雰囲気になってきたでしょ?
問題がだいぶ深刻化してきたよね。
さて、さくさく話を進めちゃうね。
そういえば馬車の中で、セリウスが交渉官だって聞いてたよね。またセリウスにでもちゃんと聞いたらいいと思うけど、交渉省っていうのは国内外で執り行われる取引とか接待だとかの調整、実施を取り仕切る機関なの。そういう教育は受けたかな?色々な部門に枝分かれしてるんだけど、この中で諸外国との交渉を主としているのが外交部。セリウスも表向きはそこに分類されてる。で、さっき言ってた怪しい人物ってやつに、その外交官の何人かが該当したってワケ。
…つまり、国外が絡む、間者か裏切り者の可能性があるってこと。
部署から考えても国際問題に発展しかねない由々しき事態だよね。貿易関係も浚ってみたけど、特に怪しいと思われる国は3つかな。それぞれに間者を放ったけど、ナハル殿とその手の者の顔を把握してる者がいない。特徴を伝えるのは簡単だけど、確実性に欠けると思わない?本人を知っている人物の有無が今後重要となってくる。
ティナ、この前見たって言ってたよね?
…え?手下の顔は見てない?でも声は聞いたよね?
セリウスも見たはず?そうだね、もちろんセリウスにもこの件には当たってもらう。だけど、彼はそもそも外交部に在籍しているから、どうしたって先入観を持たずに事に当たることは難しい。先入観のない新しい目で、別の角度から物事を捉えることで見えてくる真実があるかもしれないでしょ?
声は、聞いたよね。
もう予想は着いたかな?最短でいえば、半月もしない間に他国に訪問する予定がある。さすがに同行してっていうのは可哀想だから、それまでの間に外交部で怪しい人物を探ってほしい。早く始めた方がいいよ。間に合わなければ、外交に同行するしか手がなくなる。そしたら一カ月は帰って来れないかもね。旅行だと思えば楽しく過ごせるんじゃない?周りを全部疑いながらの旅路なんて、疲れるだけだから俺はお勧めしないけど。
さて、この説得も今日で何回目だろ?いい加減俺もつまんない説明ばっかりで飽きてきたんだよね。ティナも飽きない?寝不足は肌の大敵らしいよ?
今日こそは色よい答えを期待してるね。さぁ、もう空が白じんできた。短い睡眠時間で悪いけどいい夢を。おやすみ。また、明日。
レム睡眠もノンレム睡眠もあったもんじゃない睡眠妨害に私が屈するのは、それから何日もしてからのことである。強情とか言うな。




