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エピローグではなくプロローグ

 準備していたテーブルクロスはリジィが代わりにセッティングしてくれたようで、きっちりとお役目を果たしていた。飾る予定だった花も、取りに来るのが遅いと心配した庭師のおじさんが気を利かせて持ってきてくれたとかでしっかりその卓上を飾っていた。

 そのおかげもあって結婚お披露目パーティーは滞りなく開催され、大成功を収めたらしい。


 件の副隊長殿はご多忙とのことであまり長居は出来なかったようだが、手作りのパーティーをとても喜んでくれたらしく、好感の持てる青年だと一気に下働き達のハートを掴んだそうだ。

 ディーノの準備してくれた料理の数々は、豪華な食材は使っていなくても創意工夫が鮮やかで、普段の食堂メニューとは比べ物にならない美味しさだった。誰もが過剰なくらいに酒を飲み、そのご馳走に舌鼓を打ったのだそう。

 そして主役の幸せそうに見つめ合う二人は、それはもうお似合いで、暖かく見守る仲間たちとひとときの団欒を楽しんだそうだ。

 日頃の疲れも吹っ飛ぶような、幸せなパーティーだったと誰もが満足してもてはやした。



 パーティーもたけなわ、時間も時間だからと片づけを始めようとした頃、そんな幸せいっぱいの食堂のドアが、ゆっくりと開かれた。

 自然と皆の注目が集まる中、小さく開いた扉からこれまたそうっと顔を出したのは、その集まる視線の強さに思わず身じろぎする遅刻者、私である。

 どうも。ヘラりと笑う私を見たその場にいる誰もが、遅い、不義理だ、何してたと非難の声を殺到させたのは言うまでもない。


 「ご、ごめんなさいっ!!」

 ぎゃあぎゃあと勢いを増す非難に、言い訳は不要と土下座を決め込む勢いで私は頭を下げる。

 ぎゅっと目を閉じて身構えていると、けれど続くはずの非難はぴたりと止まった。

 ただ落ちる沈黙に疑問符が浮かんで、閉じていた片目をちらりと開けて様子を伺うと、皆は目をまんまるにして私の後方を凝視していた。

 まるでフリーズしたように動かないその様子に、私もその視線を追いかける。そして


 「やぁ、こんばんわ。」

 私の後に並ぶ、一人の男の存在に気づいた。

 その眉目秀麗な男の顔を見た瞬間、青ざめた私とは対照的に下女達は頬を赤く染めあげる。

 彼は食堂の中をぐるりと見回すと、見惚れんばかりの笑顔で彼女たちを見つめる。途端、抱き合ったり、顔を覆ったりする下女達の、黄色い声が木霊した。

 思わず男達は顔をしかめたが、彼は涼しい顔でそれを眺める。そして、その顔を裏切らない低めの美声が、楽しそうに言葉を紡いだ。

 「こんな夜更けに楽しそうな声がするから一体何事と思ったが、パーティーでもしていたのかね?」

 彼が何のパーティーかと尋ねると、尋ねられた下女は全身を真っ赤に染めたままピタリと止まって動かなくなった。

 代わりに我先にと競うようにパーティーの趣旨を伝える複数の声に、呆気にとられる男達とは対照的に、彼はやはり爽やかに笑う。ヘイネルが結婚するとは聞いていたがこんな催しをしていたとは知らなかったと、感心するように彼は頷いた。

 

 一挙一動を見守られ食堂中の視線を欲しいままにする彼は、けれどそれすら意に介さず、自然な動作で私の腰を抱いて部屋の奥へと誘導する。

「そんな大切な日にティナ嬢をお借りてしまって申し訳なかったね。だが、こちらも日取りをずらせなくてね。あまり彼女を責めないでやってくれ。今日は遅くまで身を粉にして働いてくれた」

 そうしてフォローをしてくれるのだ。内容もわからないままこくこくと頷く下女達に、彼はありがとうと笑顔を向けた。

 私は流れるようにエスコートされ、訳も分からないままに椅子に座らされたと思ったら、耳元にそっと吐息がかかった。お疲れ様、と囁かれた音の意味を何秒も遅れて理解して、気付いた時には

「今日はこれでお暇するよ。いいパーティーを」

 彼は最後までマイペースに、颯爽と部屋を後にしていた。



 結局私を待っていたのは非難ではなく質問攻めだったのである。








 そんな、すったもんだした日の翌朝。


 今日こそは本来げじょの仕事に勤しもうと、短い睡眠時間では抜けきらなかった疲労と筋肉痛に軋む体に鞭打って控室へ入った私は、待ち構えていたうっすらと見覚えのある男に呼び止められた。

「上官がお待ちです。ご案内しますので、どうぞご移動をお願いします」

 淡々とした口調で言うが早いか私の意思も関係なく連行しようとするその男に、私は机に噛り付いて抵抗する。

「すいません、がっ、…私は、今からお勤め、がございますっ…同行は、出来ませんっ、ので!どうぞお引き取り、下さいっませ…っ!」

 私の腰に両手を回して、無理やりにでも連れていこうと引っ張る男に必死に抵抗しながら、息も絶え絶えに丁重にお断りする。けれど男の力はますます強くなる一方だ。

「無駄な抵抗はっ、お止め下さい。上官の、命令はっ、絶対ですっ!」

 私はその男が龍神の部下だと確信を持った上で全身全霊をもって申し出を断る。絶対に連れて行かれなどしないと、熱い意思を滾らせて。

「離して下さい!人さらいー!」

「いい加減に我儘を言わないで下さい。諦めてこちらへ来てください」

「絶対いや!そこには破滅しかない!」

「訳の分からないことを言ってないで、さあほら観念して、その手を離して下さい」

「なんでこの前は散々焦らしたくせに、今日はこんなにすぐに呼び出すのよー!」

 結局翌日の筋肉痛を悪化させるだけのつまらない抵抗は、かの部下の剛力によって武力鎮圧された。




 暴君の部下はやはり暴君である。

 そんな世の理をひとつ学んだ私は、投げ捨てるように押し込まれた部屋で、逃走ルートをひたすら考えていた。

 出入口は一つしかなく、その扉の向こうには暴君2号が控えているはずだ。ならば窓か。窓しかない。

 けれどここは二階だった。飛び降りたら無事では済まない。下に木があったらクッションになって助かるとかいうお約束があったけど、あれ本当に現実でも発動するやつなんだろうか…いや、待てよ。

 そういえば昨日洞穴で落ちた時、腕輪がなんかよくわかんない作用を起こしてクッションを作ってくれてはなかったか。

 これはいけるかもしれない、とごくりと生唾を飲んだ私は窓までの距離を計る。走れば五秒ほどで辿り着くはずだ。

「…で、昨日返り討ちにした隠密はうちの手の者だったって訳。…聞いてる?ここ驚くとこだと思うんだけど」

 けれど、本当にまたクッションが出るだろうか。発動条件がわからない今、あれが都合のいいエアバックだと思い込むのは楽観視が過ぎる気もする。それにまずは、目の前の暴君1号の注意を五秒ほど逸らせる方法も考えなくてはいけない。

「……。これって普通に考えて、裏切り者が居るってことだよね?だから、次はそっちを洗わないといけないワケ。単純でしょ?」

 うーん。あ!UFO!とかいう古典的な奴しか出てこない。っていうか、この世界に未確認飛行物体とかあるのかな。むしろモンスターとかの方がいいかもしれない。ゲームの最後の方で出てきたし。どうせなら凶悪な奴がいいよね。でもあんまりモンスターの名前とか覚えてないな。どうしよ。

「…何が何でも聞く気がないならこっちにも考えがあるからね。龍神舐めてたら痛い目見るよ?それとも何の説明もなく現地に放り込んだ方が良いのかな?説明があるだけありがたいと思うけどね俺は」

 もしくは精霊とかの方がいいだろうか。確か大昔に精霊の友達がいるとか言ってたっけ。多分一方的な友達だろうな。私なら悪魔とは絶対に友達にならない。


 そうして全力をもって抵抗した私は、その日以来、夢枕に悪魔が立つという災難に見舞われるのだった。





長くなりそうなので分けました。

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