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痛いことばかりで困ります

上に下にと移動を続けていたので気付かなかったが、もしかしたら結構高い所まで登っていたのかもしれない。


空洞は狭く、あまり身動きも取れないまま引っ張られるように落下する私は、そんなことを頭の隅で考える。落下速度と暗闇のせいで視界はほぼなく、目隠し状態での落下は更なる恐怖を駆り立てた。

必死でどこかを掴もうと手を伸ばすと、岩肌に弾かれて痛みが走る。けれどそれに怯えるよりも落下の恐怖にまた手を伸ばす。何度か痛みが駆け抜けた後、唐突に底に到着した。


ぶつかる瞬間、ゴムボールを踏みつけたような感触に襲われた。

それは、私とセレナの重みにぐぐぐっと圧縮され、ぱちんと弾けて消失した。

そして遅れて着地の衝撃が来る。うぐっ!あがっ!と呻き声を上げたのを最後に二人分の悲鳴は消失した。


痛い。あちこちぶつけて全身痛が痛い。壁を引っ掻き続けた両手はずくずくと拍動に会わせて痺れるように痛熱い。

けれど。

「この腕輪!またなんかやりやがった!!!」

着地の瞬間衝撃吸収をした何かは、何度か感じた迸る熱の後発生した。その意味を私はもう学習している。


先ほどあんなに痛め付けた腕輪は結局傷の1つもついていない。

無駄だ。無意味だ。益がない。わかっているのに衝動を抑えられない私は命の恩人?ですらあるその腕輪をガスガスと踏みつけるのを止めれられなかった。いや、やめなくていい。私は心のままに行動した。


しばらく夢中で苦しい体位のまま腕輪を踏んでいたが、ふと腕輪が見えている。どころか、周囲の様子が視認できることに気付く。

(え?)

驚きて周囲を見渡すと、そこは広い空間であった。上から光が差し込んでいて明るく、見ればいくつかの穴があり、外に通じているようだった。

(出れる!?)

思わず、そちらへと駆け寄ろうとして、大きな何かに躓いた。勢いのまま転ぶ。

「きゃあっ!?」「うぐっ!」

そして上がった二人分の悲鳴。

(……二人分?)

恐る恐る足元を見るとセレナがそこに倒れていた。


「なんだか、背中が特に痛いですわ」

落下の衝撃で失神していた彼女を起こすと、全身の痛みに悲鳴を上げて、最後にそう締め括った。

言わずもがな、私が転けたときに踏みつけた場所である。私はすごく綺麗な作り笑いをする。

「きっと背中から落ちたのね。」

大丈夫?と背中を擦ろうとして、セレナにその手を叩かれた。

「触らないで頂戴。…それよりここはどこなのかしら?」

関心が他に向いたのでなんとなく安堵しながら、さっきの外界へ通ずる穴を見る。

「わからないけど…外に近づいてるのは確かね」

人が通るには少し心許ない大きさだ。途中で詰まったりなんかしたら目も当てられない。

「この穴がもう少し大きければ出れそうですのに…」

悔しそうに爪を噛んで、セレナも穴を凝視する。

通る手段を考えていると、ふと影があることに気づいた。


(……?)

目を凝らすと影が動いているのがわかった。一定のリズムで動くわけでもなく、風に揺られた何かというよりは、動物や人などの生き物のような動きだ。



―――――人!!?

思わず助けを求めようと開いた口をセレナが手で塞いだ。

「ふがっ!?」

「しっ!ですわ。」

セレナは緊張した面持ちで囁くように告げる。

訳がわからずセレナを見るが、セレナはこちらに注意を向けることなく、穴の向こうを睨むように見続けていた。

疑問符を浮かべたまま、仕方なく私もそちらに視線を向ける。


見えたのはやはり人だった。

シンプルだが質の良い外套を着込み、髭を携えた顔は四、五十代といったところか。男は強面な顔を更に険しく歪ませて、イライラと毒つくように舌打ちをした。


誰だかよくわからない。

あんな柄の悪いお友達は居ないと確信するが、なるほど。確かに助けを求めたら、因縁でもつけられて逆にピンチに陥りそうだ。

1人納得していると、叔父様ですわ、と小声で早口に告げてくるセレナの声がした。

叔父様?血縁者にしてはこれっぽっちも似ていないな、と下らない感想に思考が飛んでから

(---ええぇっ!?)

驚愕に漏れそうになった声を慌てて飲み込んだ。

件の男は顔を上げると、前方を睨め付けた。


「遅い」

苛立ったように男は声を上げた。

近付く足音が聞こえ、誰かが来たのだとわかる。人数は一人のようだった。


「すんません、今日は学生が見学に来てましてね。ちょっとトラブっちまって、バタついておりました。」

「そんな日を指定するな。人目は避けろと言ったはずだ」

「いや、何。隠すなら森と言うやつですよ」

会話の感じからして、髭の男が優位に立っているように見えた。もう一人の姿を探して目を凝らすが、狭い隙間からではうまく見えない。

「それで、黒鉛珪石ブラックシリカの取れ高はどうだ?」

男は不満顔をしていたが、時間の無駄だと言わんばかりに話を変えた。迫力が凄い。

「はいはい。まぁ、控えめに言うて上々ですわ。加工すんのにちょっと手間はかかりますがね。魔法石を掘り出す手間に比べたら易いもんですし、何より量が豊富で簡単に集まりますさかい。難点言うたら硬度が低いんで、仕上がったフェイクが脆いことくらいですかね。まぁ、ちゃんと魔法石の力を殺さず留めてますし、落としさえしなかったら大丈夫や思います。ただ、その効力はリアルの三分の一といったところかなと。」

「ふん。フェイクでもなんでも使えるならそれでいい。それで?」

「収集も加工も問題ありません。金銭的にもリアルに比べればかなり安く上がってますし。余った魔法石の横流しも滞りなく。…指示通りですわ」

「純利益は?」

「1㎏で四枚くらいやないかと。以前の収入と比べたら見劣りしますけど、利益率で言えば高いくらいでしょう。」

「あと一枚は増やせ。削れるところはすべて削れ。」

「はあ!?いやいや、旦那。これでもこっちだってカツカツでやりくりしてます。リスクだって背負しょってます。これ以上はいくらなんでも」

「黒煙珪石の割合を上げるなり、人を減らすなり頭を使え。話は以上だ。報酬はいつもの手筈で届けさせる。」

「ちょっと待って下さいや!黒煙珪石をこれ以上混ぜると効力が更に落ち込んで最悪足が付く可能性だってあります!人手だって常に足りてませんし!運送費だって上がる一方です!…旦那!!」


足音と共に会話は段々と小さくなり、やがては聞こえなくなった。後に残ったのは沈黙だ。去ったか。

見つからないように出来るだけ身を潜ませていたが、改めて穴を覗くと既に人影も見つからなかった。


安堵とも困惑ともつかない溜息が出た。





気になる話をしていた。

今回の問題のキーとなりえるほどの会話だったと思う。

会話の意味を咀嚼しながら、私はチャルチシュヴァラ卿の話を思い出す。


「確かに状況として、赤字手前なのは矛盾しない。だけど収入額の落ち込み方が尋常じゃない。魔法石1kgに換算して大金貨5枚は差額が出てる。一体何がどれだけ混ざったらそんなに価値が下落するのかな?」

「魔法石の質も悪いなんてもんじゃない。こんなのを売ってるだけでもあり得ないのに、値上げ?笑えない冗談って好きじゃないんだよね」


異常なくらいの魔法石の価格低下。そして品質低下。混ぜ物の可能性。

…黒煙珪石は、一体何に使われる?魔法石の余剰と言っていた?横流しと、言っていた?


問題点を挙げたいならば、矛盾を探せ。

魔法石の採掘量は変化がなかったはずだ。なのに余剰が出ていると言っていた、矛盾。

収入額は大金貨五枚ほどの減少。けれど、純利益が四枚と言った。何が四枚?金貨?銀貨?

わからないが、利益は出ているということだ。赤字にはならない。矛盾。

黒煙珪石を混ぜる、と言っていた。魔法石に混ぜ物をしているとして、その話だと考えるのは安直だろうか?

そうだ、彼は、何と言っていた?


フェイクは脆いが―――

チャルチシュヴァラ卿が落とした魔法石は簡単に砕けた。

効力はリアルの三分の一。それは、魔素の減少を意味していないか。


考えれば考えるほどそうとしか思えない会話だった。

これは本当にアタリかもしれない。

早くここを抜けて、早く彼に伝えなくては。



焦燥のままに顔を上げるのと、何かに押さえつけられて、勢いのまま背中を壁に打ち付けるのは同時だった。

衝撃にぐっと息が吐き出され、背中に痛みが走る。

喘ぐように息を吸い込む間もなく、ザスッと鋭い音が鼓膜を震わせた。

頬にピリッと痛みが走った。髪がはらりと舞うように落ちるのが見えた。キラリと光を反射するダガーが、逃げ場を塞ぐように顔の横に突き刺さっていた。


けれどそれらに構うこともなく、私の目は前を凝視する。

押さえつけてきた、その相手が鼻先も触れそうなほど近くで私の顔を覗き込んでいたからだ。

「…聞いちまった?」

朗らかで、明るい声がした。少し前まで優しく気遣ってくれていた声だ。

眼前でにこりと笑う顔だって、さっきと同じ、人好きのする顔だ。

なのに。

「何をするの?」

動揺した声は掠れて上擦った。


突き刺したナイフと、壁へと押さえつけられた腕によって顔を動かすことも出来ない。

ぴたりと密着した彼と、壁の間に挟まれて身動きも取れない。

そして正面には彼の顔。


退路は完全に塞がれていた。


「今の、聞いたかって言ったんだが」

今まで見ていた顔で、まったく異なる行動を取る彼が不気味で、どう返事をしていいのかわからない。

「お願いだから、どいて。これじゃあ話も出来ないわ」

「埒が明かねえな。同じことを何度も聞くのは好きじゃねえんだが」

「奇遇ね。私もごめんだわ。ねえ、退いてくれる?」

「俺の質問が先だ。…まぁ、答えたくないなら答えなくてもいい」

ザッと音がして、顔の横に刺さったダガーが抜かれる。

ガラガラと小石の落ちる音がした。


冷たい色をしたダガーが、緩慢な動作で。ゆっくりと首元に突きつけられた。

「…なあ。聞いたか?」

声の温度が下がった。

それはまるで最終勧告のようだった。





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