ダンジョン攻略というよりはただの珍道中
短めです
あれからしばらく待ったが、セリウスは帰って来なかった。
何らかの意図があって私たちから離れたのか、それともハプニングに見舞われたのか。
ランタンはセリウスが持っていってしまった為、私たちに残されたのは、この空間を彩るわずかな発光性の鉱石の明かりのみ。
道具もないため、その鉱石を掘り出すことも出来ない。
つまり、この先にも発光性の鉱石がない限り、後退しようと前進しようと、待っているのは一寸先も見えない完全なる闇。
詰んだ。
私はただ、目を閉じた。
「ちょっとティナ!貴方寝ている場合ではなくてよ!?」
横から雑音がする。
寝てるわけではないので放っておこう。
「起きなさいと言っているでしょう!?早く此処から抜け出して、事の真相を暴かないといけないんですのよ!?」
無茶振りしてくるな。こんな悪路を視界ゼロで進めるか。
「ちょっと、聞いてますの!?これ以上此処に居ても埒が明かないでしょう!?」
がんがんと揺さぶられ、とうとう私は観念して目を開けた。
「わかってるけど。そんな事言ったって、明かりもなしにどうやって進むのよ?」
ため息混じりに視線を向けると、目を見開いて固まったセレナが見えた。一拍遅れで私も固まる。
「………え?まさか、ランタンの問題に気付いてなかったの?」
指摘されたセレナの顔は、さーと音が聞こえそうなぐらいどんどんと血の気が引いていき、ついには真っ青に染まった。
「ランタンもなしにこんなぐっふぐふうっ―――!!」
そして力の限り叫ぼうとして、慌てて口を塞ぐわたしに恨めしい視線を送るのだった。学習してくれ!
「つまり、灯りが要りますわね。」
そうして最初の問題に帰ってきた。
こほん、と照れながら咳をひとつするセレナを見て、この子頭が良いのかアホなのか判断し辛いな。と大変失礼なことを考える。
「と言いましても、灯りなんてここで光ってる鉱石くらいしかありませんわね」
顎に手を当て考え始めたセレナは、見た目だけはとても聡明に見える。これに騙されるのかもしれない。
「貴方、この石を集めてちょうだい」
そして繰り出される無茶ぶり。やっぱりアホなのか。天秤は簡単に傾いた。
「あのねー。」
はあ、と大きく嘆息すると、岩肌をコンコンと拳で叩いてみる。
「無理よ、こんな固い石。せめて道具でもあればいいけど。」
「その腕輪でちょちょいっと、どうにかなりませんの?」
セレナが指し示すのは、件の呪いの腕輪だ。
「これ?これは別になんでも出来る便利道具じゃないし…」
「じゃあ一体何が出来ますの?」
「何って…」
考えて、はっとする。
この腕輪の出来ることなんて全然把握しきれてないが、あの方法ならなんとか出来るかもしれない。
「セレナ!私、石を取り出せるかもしれないわ!」
ぱっと表情を綻ばせると、セレナも期待に満ちた目を私に向けた。そして
ガツッ!!ガツッ!!ガツッ!!
私は地道に石を掘り出していた。崩落の危険も忘れてはいけない。慎重に力加減を調整しながら、恐ろしく固い腕輪を右手で押さえつけて、左手ごと振り上げる。ガツッ!!何十回ものやり取りを経て、ようやく石はごろりと落ちた。
「やったー!!」
滴る汗を拭って、私はガッツポーズをする。
一連の流れを隣で見守っていたセレナも喜んでると思いきや、
「そんな貴重な腕輪を 鉞代わりに使うなんて…」
大変呆れたご様子である。なんでだ!
こうしてお互い相手がアホ認定しているとは気付かないまま、私たちは心許ないながら、照明を手に入れたのだ。
「じゃあ、行きましょう!」
鉱石はさっきまで腕輪を包んでいた布を2つに裂いて、1人1つずつ前を照らせるように頭にくくりつけた。ランタンに比べると悲しいくらいに光量が足りないが、ないよりはマシである。ギリギリ手前の景色くらいなら見える。
「本当にこんな小さな灯りで大丈夫ですの?」
先ほどまで前に進みたいと大騒ぎだったセレナは、訝しげな顔を隠しもせずに、大丈夫かコイツ、みたいな顔をしてくる。
「これ以上の灯りなんて調達できないわ。これともここで白骨するまでお世話になる?」
けれどそういうと、ぶんぶん、音が立ちそうなくらい首を激しく横に振った。
「じゃあ行きましょう!しゅっぱーつ!」
そうして私たちは出発した。
「ちょっとっ……もっとちゃんとっ…力をお入れなさい!…っ!」
「………っ!!!!」
相も変わらず上がったり下がったりする道を今は大きな岩石に阻まれて登っている。
先に登ろうとするセレナのお尻を下から持ち上げている真っ最中だが、どんなに体型がよくても人というのは凄く重い。誰だ羽のように軽いとか言うやつ。それともこの令嬢は砲丸でも隠し持っているとでもいうのか。
「きゃあ!ちょっと、急に力を抜かないで頂戴!もっと高くあげて下さらないと私登れませんわ!」
「……っ!!」
「きゃああ!?ちょっと、急に押し上げないで頂戴!びっくりするでしょう!!」
どっちだよ!と文句を言う元気もなく、私は力の限りセレナを押し上げた。
こうしていくつもの難所を越えた頃には私はクタクタに疲れ果てていた。
「本当に不甲斐ない庶民ですわね。もっとしゃんと歩きなさい」
そうはいっても持ち上げるのも引っ張り上げるのも支えるのも、なんせフォローは全部私である。疲れないわけがない。
散々助けてもらっておいて、セレナは尊大に言い放つ。やっぱりお貴族様だと実感する。
「そうね。私は不甲斐なくて疲労困憊でボロボロな庶民だわ、偉大なるセレナ様。次はセレナ様が私を持ち上げてね」
「まあ!図々しい!私に労働をさせようだなんて!…これだから下等で不躾な庶民は嫌ですのよ」
「お前ちょっとそこに直れ!」
パーティーメンバーを間違えた。切実にメンバーチェンジをお願いしたい私である。
それからも慎重に足を進める。足場は相変わらず悪く、急な段差に足を捻らないよう慎重に一歩を踏み出すので進行は亀のように遅い。壁に手を添えながら、思わぬでっぱりに転びそうになるのを踏ん張ると、汗を拭った。危ない。慎重にいかないと―――。そう思った瞬間。
「………きゃああ!?」
「えええー!?」
突然、セレナの悲鳴があって、ぐんっと勢いよく斜め下へ腕が引かれた。踏ん張る間もなく足が宙に浮く。
遅れて焦燥が湧き上がるが抵抗する間もなく今度はがすん、と頭に何かぶつかり火花が散った。なんだなんだなんだなんだ!?
どうやら穴があるのに気付かないまま、足を踏み外したセレナが藁をも掴んで巻き添えにされたらしいと、理解することなく転がり落ちた。
かの偉い人は言ったものだ。
真に恐れるべきは有能な敵ではない。
無能な味方だと。
「あーーー!」
脳裏を過るのは思い出ではなく格言だった。




