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採掘ツアーその1

 十数人くらいで形成されたのグループは、それぞれ移動を始める。どうやら集合場所から採掘所までは少し距離があるらしい。

「これから洞口に向かうぞー」

 元気に声を張り上げたのは、案内人の男性だ。短く刈り上げた金髪のせいで厳つい印象を受けるが、人懐っこい表情がそれを裏切っていた。案内旗を振って歩く様は陽気そのものだ。

 眉目秀麗な偉丈夫で、健康的な肌がより彼を逞しく見せている。

 素晴らしいそのご容姿はお貴族様もお好みらしく、庶民だなんだと馬鹿にしていたかの伯爵令嬢様も含め、周りに取り巻きが出来ていた。近づかないでおこう。


 道すがら令嬢は案内人を質問攻めにし、気さくな様子で案内人はそれに答える。

 セリウスという名前や23歳独身であること、普段は魔法石の採掘の仕事をしていることなど聞くともなしに聞きながら、案内人の人柄を考察する。

 話し方もわかりやすく、声も聞き取りやすく、愛想もよい。もしかしたら頭もいいのかもしれない。

 セリウスの人気は更に上がった。

 しかし。


「あ!道一本間違えてら!」

 一番最初の分かれ道でさっそく道を間違えた。わりぃわりぃと道を引き返し、次は足を踏み外して小高いそこから「わー!」とか言いながら落ちていった。

 え。固まった令嬢たちの顔はなかなか滑稽であった。


 取り巻きの数が減った。

 けれども顔は偉大である。残留した何人かの女性はやっぱりセリウスの隣を取り合いながら、楽しく談笑を続けていた。どころか、何度か転んだり木に服をひっかけたりするセリウスを、お茶目だとか可愛いなどとのたまった。すげえな。私はその強靭な心に素直に称賛を贈った。




 洞口に到着した。


 何の変哲もない鉱山の岩壁にぽっかりと大きな口が空いていた。穴はどこまでも続いていそうだが、暗闇に呑まれ、先は見えない。唯一、間隔をあけて固定されているランタンだけが、そこにある道を照らしていた。

 お化け出そう。

 ごくりと生唾を飲む私の横で、ランタンに魔法石を補充するセリウスは、手を滑らせて魔法石を粉砕させていた。一体なんなんだこのドジっ子。


「はい注目ー。」

 通常より多くの時間をかけてようやく準備を終わらせたセリウスは、手を挙げて生徒に呼び掛けた。

「これから洞窟内に入るけど、注意事項がいくつかあるから、しっかり聞いてくれ」

 先ほどより真剣度の増した声が頼りない案内人の印象を薄くした。声は良いのだ。声は。

 うっとりした令嬢達もぽっと頬を赤く染める。

 そんな令嬢達を見つめながら、説明されたのは下記の通りである。


 洞窟内は全体が岩肌でゴツゴツしており歩きにくいこと。

 湧き水で水溜まりやひどいときには小さな池が出来ていることもあるため滑りやすいこと。

 細心の注意は図るが、崩落の危険がゼロではないため、騒いだり大きな音をたててはいけないこと。

 可燃性ガスリスクがあるため、照明は必ず魔法具を使い、火気は持ち込まないこと。

 合わせて有毒ガスのリスクも否定できないため、注意が必要であること。

 そして。


「毒ガスの危険を察知するためにコイツを連れていく。」

 そう言って掲げてみせたのは、鳥籠内をピーピーと飛び回る数匹の黄色い小鳥だ。

 カナリア、というらしい。

 令嬢たちが可愛い、綺麗だと黄色い声を上げた。

 カナリアは綺麗な声で鳴き続ける。けれどそれが止まる時があるという。

 なんでもカナリアは危険察知に優れた鳥らしく、何か異常がある時だけその綺麗なさえずりを止めるのだそうだ。そのため毒ガスの検知に重宝されているという。


 へえ。と思う。面白いな、とも思う。こんな小さな体であんな大男達の命を守っているのだ。 

 私はこの小さくて愛くるしい鳥が一遍に好きになった。


 長い説明が終わって、ようやく出発する。

 中に入ると、数メートルもしない内に暗闇に覆われ、温度がぐっと下がる。じめじめした空洞内は風が吹く度不気味な音をたてた。じわりと顔を出した切迫感に全身が鳥肌だった。その時


 ガシャーン!!

 反響し爆音となった衝撃音が洞内に響き渡った。ついで生徒たちもわあああ!?きゃあああ!?と悲鳴を上げる。一体何が起こったんだと慌てて生徒たちへ目を向けると

「…あ。わりぃ」

 セリウスが頭を掻いていた。見れば先まで持っていた鳥籠が転がっていた。カナリアたちはピーピーピーピー悲鳴を上げている。


 お前か。そろそろ疲れてきた私である。


 結局鳥籠を持つのを先頭集団のひとりにお願いして、セリウスのガイドツアーは続く。

 ちなみに私のセリウスに対する株は急降下を続けている。おっちょこちょいは許せたとして大好きな鳥を転がしたのは許せない。なんだあの顔だけ男。


 ………ん?

 ここを掘ったのは今から30年以上前で、当時はドリルを使ってなんたらかんたら。

 軽い調子でガイドをするセリウスを見ていると、ふと何かひっかかりを覚えた。一体なんだろうと、セリウスを凝視する。思い出せそうな気がして記憶を掘り返すが、形にならず霧散する。歯がゆい気持ちで再度潜考しようとして、しかしそのタイミングでセリウスと目が合い、思わず半眼になった視線を私は逸らした。セリウスはにっこり笑いかけてきたが、視線を逸らした私は気付かない。

 ちょっとセリウス様、と近くの令嬢が呼び掛けると愛想の良い声で、彼は説明を再開した。

「魔法石は理論上どこにでも出来るが、中でも多発する場所がある。昔、集落があった場所とかだな。ここには昔メディルセオ文明が栄えていたと言われている。」

 小難しい話だ。周りの令嬢は訳知り顔で頷いているが、私の隣に居る令息達なんかは欠伸をかみ殺していた。可愛い女の子たちも取られてさぞつまらないことだろう。

「採掘方法は色々あるが、さっき説明したドリルなんかはもうほとんど使われていない。ポピュラーなのは 岩壁切削刃を利用して掘り進める方法だな。同時に水をかけることで粉塵が舞うのを防止する。これらの粉塵が肺に入ると病気になることもあるから、マスクをつけて作業している」

 簡易マスクを掲げてみせる。それから、先のマスクより複雑な形をした重量のあるマスクも掲げてみせる。

「こっちのマスクでは防ぎきれない粉塵や、毒ガスなんかにも対応しているのがこちらのマスクだ。このマスクは重いうえにコストもかかる。作業をするにも息がしにくくなるし、基本的には使っていない。逆にこういった見学の時は安全性の高いこちらを使用している。さあ、皆もつけてくれ」

 そうして重装備のマスクを回される。受け取り、しばらく考えて私はセリウスに声をかける。

「あの、すいません」

「うん?」

 すぐにセリウスは振り返る。周りを取り巻く令嬢たちも一緒にこちらを睨みつけた。やめて。

「私も、できたらセリウスさんと同じマスクにして欲しいんですけど」

 セリウスは目を大きくする。

「…うん?こっちのマスクは軽くていいけど、しっかりとしたフィルターが付いてないぞ」

「けれど、セリウスさんたち採掘夫はそっちのマスクをしてるんですよね?私はいつもと同じ条件で知りたいです」

 生徒たちは私を得体のしれないものを見るような眼をしてくる。馬鹿がいる、と蔑む視線も見える。

けれど私は気にも留めずにセリウスの返事を待つ。

 あー、とか声を出しながらしばし逡巡していたセリウスだが、まあいいだろ、と簡易マスクを投げて寄越してくれた。ありがとう、私も簡素に謝礼した。

「じゃあ行くぞー」

 そうして深層へと足を踏み出した。






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