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前門の戦争後門のバッドエンド

はじめての投稿になります。

よろしくお願いします。

 私の名はクリスティーナ=ラクシュマナフ

 8歳の少女であり、カンターバラ王国の第一王女である。



 ここは私が前世、プレイした乙女ゲーム【龍と精霊のサンクチュエール】の世界。

 物語は主人公が16歳の時の始まり、世界を危機から救う!という壮大な使命を担う中で、それを支える5人の攻略対象と一人の隠れキャラたちと、世界も救いつつ、愛を深めていく物語だ。


 その内容についてはまだはっきりとは思い出せないが、私はその物語の中のモブ

 ・・・・・・・だったらまだよかったのだが、よりにもよって残念なことに悪役令嬢である。


 この世界の悪役令嬢は最終的に死ぬ。

 大体死ぬ。

 その手段は選り取り見取りだが、なんせ死ぬ。

 絞殺であろうと刺殺であろうと斬首刑であろうととにかく死ぬ。


 人が死んでハッピーエンドってなんだ!

 制作側には小一時間膝を詰めてコンコンと説教をしたいところだが生憎私はその事実を受け止めきれてもいない。




 なぜならその記憶は、たった今、思い出したものなのだから。






 そんな私は、荒れ狂う精神状態などおかまいなしとばかりに

 現在人生最大の大ピンチに見舞われていた。
















 ティシュフェウス大陸と呼ばれるこの世界は、古くから存在する七つの大国とそれらを囲む大小様々あるいくつもの国により成り立っている。


 大陸の中央に位置するヴィルシュタット王国はその中でも最も大きな国であり、それゆえ豊かな国でもあった


 街ではいくつもの市場が並び、時には華やかに祭事が行われ、行き交う人々も多く、賑わい、栄えていた。

 街を横断するバッハシア川の水は澄んでおり、衛生的にも行き届いたそこはまさに理想の国であった。


 そんな理想の国を手中に治めたいと考える権力者は数知れず、それゆえ度々紛争が勃発した。



 そう、そんな大国をどうにかして支配下に納めようと

 我が父、セルベウル=ラクシュマナフ国王も剣を掲げてしまったのだ。


 そもそもカンターバラ王国もかなりの大国で、七つの大国のひとつである。

 貿易をし、農業を営み、鉱石を掘り、経済を回してきた。

 しかしここ数年に及ぶ、様々な厄災、飢饉、反乱に国が立ち行かなくなってきたのである。 

 飢える国民に積み重なる不平、不満、反逆の意思。


 そうした不穏分子はやがて渦を巻き、牙を剥き、自国では対応しきれなくなっていった。




 そうして必然であるかのように

 窮地に立たされたカンターバラ王国は、愚かにも侵略という犯してはならない罪に手を染めてしまったのだ。


 しかし国力の差に加え、国の疲弊化による戦力の差が、どう作用してもカンターバラ王国に勝利をもたらすことなどあり得なかった。


 国の未来をかけ、全総力をかけて挑んだ戦争は敵国の予想を凌ぎ、なんと一年にも及んだが、とうとう王宮にまでヴィルシュタット兵が雪崩れ込み、決戦の時を迎える。

 もはや敗戦は火を見るよりも明らか。最期の決戦が今繰り広げられていた。


 そんな戦場のど真ん中。

 王宮の西側に位置する離宮の私室で私、クリスティーナ=ラクシュマナフはひとり佇んでいた。

 専属侍女が近衛兵を連れて席を外したタイミングで敵軍が攻め込んできたためだ。

 普通、王女をひとり置いていくなんて考えられない。

 気の動転していた私は気付かなかったけれど、これはもしかして敵国の間者とか、裏切りとかそういうことだろうか。

 味方ゼロ。絶望的な状況である。

 ドオン!と大きな音がして城のどこかが壊されたのがわかった。


 えーマジか。どうしよう。

 冷静になろうとしてなれるもんでもないなどというどうでもいい知識をひとつ増やし、私はオロオロと部屋を歩き回る。

 いつまで待っても侍女も近衛兵も使用人も隠密もお父様もお母様も、誰も来ない。

 一体誰が裏切り者かもわからない。待つべきか、逃げるべきか。

 8歳の幼い私にその決断は途方もなかった。新たな破壊音が響き、建物が揺れる。

 腹の底から湧き上がる恐怖に、立ち竦む以外の選択肢を塞がれていた。



「・・・・・・あ、・・・・あぅっ・・・・・あ・・・」

 カチカチと震える歯の隙間から知らず漏れ出た声も、自分のものではないようにひどく遠くで聞こえた。

 息をなんとか吸い込もうとしたその時


ドオオオーーーーーーーン!!!!!


 今までで一番大きな、雷が目の前に落ちたような激しい爆音と、体を支えていられない程の激しい揺れに襲われた。


 悲鳴も轟音にかき消される中、パニックになり、目の前がぐるぐると回り、思考は真っ白に染まった。

 呼吸すら忘れるように全身の機能が停止したと錯覚し、そうして次の瞬間には



 前世の記憶が流れ込んできた。






 そうして冒頭に戻るのである。

 ちょっとは空気読め前世の記憶!(涙)


 しかし、8歳に前世の26歳を足して精神年齢34歳になった私。ピンチで力が覚醒するのはお約束だもんね!これでなんとか、余裕が少しはでき・・・るわけがなかった!


 34歳で国の危機とか、経験年数全然足りんわ!

 誰の仕業か知らないけど、記憶を授けて救世主のつもりか!

 これでこの状況をどうにかしろとか、ただの無茶ぶりだからな!

 一体全体何のつもりだ!

 無責任にもほどがある!

 あほー!


 語彙力のなさにもはや泣き笑いのような心境で私は更なる混乱の波に呑まれていった。





 ドオン!!ーーードオン!!


 そんな現実逃避をあざ笑うかのように再度衝撃音が響き渡った。

 舌打ちしたい気持ちで、なんとか記憶を手繰る。


 確かこの大戦で私は隠れ通路から逃げて、でも出口で待ち伏せていた兵士に捕まって、捕虜になる。それでも我が国を尊重してくださった尊きヴィルシュタット国王陛下、王妃殿下の計らいにより、友好の証として第一王子殿下の婚約者として敵国に迎えられる。


 しかし後ろ暗い過去から味方になるものも少なく、陰口を叩かれ、嫌味を吐かれ、蔑まれる中でその性格は歪まされていく。

 そうして満を持して、偉大なる悪役令嬢として君臨することになるのだ。



 あかーん!


 ここで詰むのも困るが、生き永らえてどうなっても結局詰む!

 というかそんな過酷な人生に身を投じるのも嫌だ!


 気の動転した私は部屋の奥にある隠れ通路ではなく、バルコニーへと飛び出した。

 そうして目の当たりにした




 凄惨たるその戦場を





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