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東方異聞録 ~風華雪月~  作者: あんみつ
9/16

優しさ

私と勇儀は友達。

じゃあ他の皆は?

今まで何も気にせず過ごしてきたが、一度こんな話題が出たら気になるに決まってる。

さとりを始め地霊殿の奴らは友達だと言ってくれた。

あとは?アリス、魔理沙、咲夜、妖夢、霊夢、紫、

妹紅

ルーミア

たった今思いついただけでもこんなにいる。

全員に確認するか?

何があったと逆に心配されそうだ。

そもそも皆はそんな奴じゃない。「当たり前だ」と返されるだけだ。気にする必要はないか。

そう言って簡単に置いておけるほど私の脳は良くできてないが。

というかその話題に気をとられ過ぎた。「私が人間かどうか」というもっと重要なことを聞きそびれた。


紫なら何か知ってるか?

私は幻想郷(こっち)に来た時のことを覚えていない。来る途中で何者かに襲われたらしく、気づけば永遠亭のベッドで寝ていた。聞いた話では、死にかけの私を最初に見つけたのはルーミアだった。意識のない私を見るなり霊夢たちを呼び、妹紅の案内で永遠亭まで連れていってくれたらしい。

人喰いがなんで人間を?と聞いたら

「自分でも分からない。助けなきゃって思った」

それ以上聞いても、その答えは出てきそうになかった。

皆が私にやたらと優しいのも気になる。ありがたいことだが、その優しさには憐れみや同情を感じるような不自然さがあった。

何か関係があるのか?

私の思い込みか?

自分一人ではいくら考えたって答えは出ない。とにかく紫の元へ行こう。



「あら、貴方から会いにきてくれるなんて、嬉しいわ」

私が勝手にそう決めつけているだけなのかもしれない。

だが、その言葉に私が違和感を感じるという事実は変わらない。

「話がある。上がっていいか?」

無意識に声のトーンが低くなる。いつも通り接しているつもりでも、心はどうしても表に出てしまう。

「ええ、もちろんよ」

紫は優しく微笑む。こいつの行動は読めないといつも警戒しているのだが、こいつにハメられたことは一度もない。

やっぱり私の思い込みか?


「藍、お茶をお願いね」

「はい、紫様」

踵を返してこっちに向かってくる一人の女性。

八雲(やくも)(らん)

紫の式をしている九尾の狐だ。行動、思考が読めないのは主人と変わらない。

彼女がすれ違いざまに私の肩を掴んでくる。

「お前なら大丈夫だと思うが、あまり紫様を困らせるなよ」

「分かってる。私もそこまで子供じゃないよ」

藍と関わる機会はそんなに多くはない。そのため、ある意味紫よりも怖い。平静を装ってはいるが、彼女の世界はどうにも慣れない。


「それで、話って何かしら」

いつもの飄々とした態度でこっちを見る紫。その瞳に、私の心が見透かされているのではないかと怖くなる。

だが、そんな事で躊躇う必要はない。これは私の問題だ。心を見られていようが今は関係ない。

「……紫」

私の声をじっくりと聞く。

「私は……何なんだ?」

「……どういう意味かしら」

紫の表情が少しだけ険しくなる。

「そのままの意味だ。私は何者なんだ?」

「何者って……ミツキでしょ?それ以外の何があるのよ」

そうだ。私はミツキだ。

だが、私の知っているミツキとは限らない。

「私は、本当に私の知っている私なのか?ここに来る前の私なのか?」

「どうしてそんな事を私に聞くのかしら」

「紫なら何か知ってるかもって思ったんだ。私のことを気に掛けてくれてるし。」

「貴方は貴方よ。自分のことは自分が一番分かってるんじゃない?」

分からない。

だから相談しに来たんじゃないか。

「声が聞こえたんだ」

「声?」

あの時、頭に響いた声。

「お前が求めているのは力だって、ハッキリ聞こえたんだ」

「……!」

紫の表情が一瞬だけ曇ったのを私は見逃さなかった。

「何か知ってるなら教えてくれ」

「何故そんなに知りたいの?」

知りたいという欲は抑えられない。

たとえ、それで何かを失うことになったとしても。

「自分のことが分からないって、怖いんだよ。だから知りたい」

「知らなくていいこともあると思うわよ?」

「自分のことならいずれ知る時がくるだろ。それなら今知っておきたい」

「……」

考え込む紫。初めて見た気がする。

「…本当にいいのね?」

「そこまで言われて今更引き下がれるか」

「……分かったわ」

呼吸を整える紫。その様子に、私も心の準備をする。

「ミツキ、貴方は……」





「人間じゃないの」




薄々感じてはいた。

地底の妖怪たちの言葉に対し、あらゆる可能性を考えていた。

勿論、その可能性も。

だが記憶に全くない。故に、一番可能性が低いと思っていた。

冷静に考えればそんなことはない。ルーミアが見つけた時の私は、既に満身創痍だった。私の命をこの世に留める為に、何かしらの措置がとられたことは間違いない。

しかし、どうやって?

ショックよりも理解の不足で言葉が出ない。

「ルーミアが見つけた時の貴方は、既に一刻を争う危険な状態だったわ。あの子が見つけていなかったら、貴方は今ここにはいない」

「意識を失っていた貴方を霊夢たちが永遠亭まで運んだのよ」

それは知ってる。記憶にないが、永遠亭の医師、永琳から聞かされた。

重要なのはその先だ。

「治療はすぐに行われた。でも、血が足りなかったの」

「血か……でも今私がこうして生きてるってことは、適合者がいたのか?」

疑問はまだある。ここまできたら全部ぶつけるしかない。

「来たばかりの私に血を提供するような奴がいたのか?それで私が人間じゃなくなったってことか?」

「察しがいいわね。今にも死にそうだった貴方に、ルーミアの血を輸血したの」

あり得ない。質問の答えが返ってきても、そこから新しい謎が出てくる。

「私の血液型はA型。それ以外の血は受け入れないはずだし、そもそもルーミアは妖怪じゃないか。凝固反応どころか輸血という行為自体馬鹿げてる」

「でも、貴方はその馬鹿げた行為に助けられた……そうでしょ?」

言葉に詰まる。こればかりは紫の言うとおりだ。

「永琳も最初は驚いたそうよ。解決の糸口が見つからない永琳に「私の血を」って名乗り出たのがルーミアだったの」

「それで助かったのか?妖怪の血を受け入れたのか?私の中で何が起きた!?」

質問が止まらない。いや、止めない。

そうしないと理性を保っていられない。今の感情を表に出したら紫に迷惑がかかる。

自分が知りたいと言ったんだ。それだけは避けねばならない。

しかし頭では分かっていても、行き場のない感情が声と顔に出てしまう。

「それは永琳にも分からないみたい。妖怪の血を受け入れた人間は初めて見たそうよ」

「だから貴方にはルーミアの血、宵闇の力があるわ」

「待ってくれ!何故それを教えてくれなかった!なんで黙ってたんだ!」

「言えるわけないじゃない!」

紫の言葉に怒気が混じる。

「……ごめんなさい。でも、貴方に余計な感情を与えたくなかったの」

そうだ、落ち着けミツキ。

こっちに来た時、私はまだ高校にも上がっていない年齢だ。そんな奴に事実を伝えられないと思うのは当たり前のことだ。

これは、紫たちの優しさなんだ。

「いや、謝るのはこっちの方だ」

重い空気に耐えられない。まだ知りたいことはたくさんある。

「じゃあ、私が聞いた声は……?」

「貴方には強い執念がある。何にそこまで執着してるのか、私たちには分からないけれど……」

「私の中にあるルーミアの闇の力が、私の闇と結びついた?」

「断定はできないけれど、その可能性は十分あるわ」

「貴方はルーミアの血を受け入れて半妖になった。だからルーミアと同じ闇の力が使えるはずなのよ」

今まで気づかなかったのは何故なんだ?

何故今になってあの声が聞こえたんだ?

「……最近、過去に関わることをした?」

「ん?ああ……さとりに心を見てもらったんだ。それが関係してるのか?」

「貴方の闇はルーミアとは違う。あの子のような自然の闇ではない、心の闇が力になってるのかもしれないわ」

「今になって顕著に表れたのは、過去を思い出して執念が強くなったからか……」

「……随分冷静ね」

正直頭の中はパニック状態だ。この短時間で得た情報が多すぎる。だが、それを表に出して解決するようなものじゃない。

整理に時間が掛かる。とにかく理解しようと必死の私を、紫は心配そうに見つめている。

「ねぇ……ミツキ」

「ん?」


「一人で抱え込まないで」



心の殻が割れる音が聞こえた。

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