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東方異聞録 ~風華雪月~  作者: あんみつ
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友達

幻想郷(こっち)に来てから、私の価値観はかなり変わった。魔理沙やパチュリーの手伝いをしてるうちに魔法にも詳しくなった(だからといって使えるわけではないが)。にとりと一緒に機械いじりをしてればその知識も自然と身に付く。天文学や地学は幻想郷に来る前から好きだったし、医学や生物学は嫌というほど勉強させられた。

人生経験は豊富とは言えないが、少なくとも知識は現実世界(あっち)の奴らより多く蓄えている。

知識が多ければその分だけ冷静でいられる。些細なことに心を振り回されることはない。

あの頃はとにかく知識を得ようと必死だった。周りの期待に潰されそうな心を支えるので精一杯だった。

今は違う。知識を得るのは自分の為だ。

知識は力だ。得れば得るほど自分の地位は高くなる。


なんのために?

知識を集めてどうする?

自分の地位を高くしてどうする?

「自分はなんでも知っている」という優越感に浸りたいのか?その比較対象は誰だ?

外の奴らか?

私を散々侮蔑したあいつらか?

もう二度とその顔を見ることはないのに?

じゃあ、己の欲に忠実なだけか?

人の探究心は尽きないもの。知識欲、知らないことを知りたいと思う気持ちは一生満たされることはない。

だが私にあるのはそれだけではない。

知識欲に忠実なのは間違いないが、それとは別に「その知識を力にしたい」という思いがある。


そうだ。


お前が求めているのは「力」だ。




「……勇儀?なんか言った?」

「……は?いやなんも言ってねぇよ?」

あの後地霊殿から帰る途中で勇儀に会い、酒に付き合えと鬼が経営する居酒屋へ。私が酒飲まないの知ってるはずだが、まさか無理矢理飲ませる気じゃないだろうかと思っていたら

「んなことしねぇよ。お前に嫌われたくないからな」

気になる。何故今、私を付き合わせるのか。

今じゃなきゃダメなのか?私じゃなきゃダメなのか?

嫌われたくないって、私とお前はそれほどの仲だったか?

お前の中の私は、お前が「嫌われたくない」と思うほどいい奴なのか?

心底どうでもいいことで頭の中がいっぱいになる。

「おい、お~い……ミツキ?」

女性とは思えない巨大な手が目の前を行ったり来たりする。

「ん?な、なに!?」

体が跳ね上がる。私の反応に勇儀も驚く。

鬼が経営する居酒屋だ。周りの客もみんな鬼。豪快な笑い声と強烈なアルコール臭が部屋を包む。これだけで半分酔っているような状態になり、酔った私が余計なことを口走ったかと一瞬かなり焦った。

「お前、最近ずっと上の空だよな。初めて会った頃よりはマシだが、元気ないように見えるぞ」

「私が元気ないのなんていつものことだろ」

「いつも以上に、だよ」

「昔は考える余裕がなかっただけだ。今は精神も、お前たちとの関係も安定してる。今の私は、考え事ができるくらい心に余裕があるんだよ」

「ほんとかねぇ」

疑いに心配が混じったような顔でこちらを見る勇儀。

やっぱり気になる。何故私なんかを心配するのか。何故私に嫌われたくないと思ったのか。

「……勇儀」

「あん?」

串焼き1本を一口で頬張る勇儀。不思議そうにこっちを見ている。

「…それ私の串焼きだ」

「そんなケチケチすんなって。また今度奢ってやるからさ」

そういう問題か?

いやそれより何故そんな簡単に「ツケは今度返すから今は見逃せ」と言える?

そんな言葉誰が信じる?少なくとも私は信じないぞ。

もしそれで返せなかったらどうなる。お前私に嫌われるぞ。

嫌われたくないんじゃないのか?

なら何故わざわざそのリスクを背負うんだ。

私には理解できない。

「お前……友達少ないだろ」

「なんだ突然失礼な」

「どうせ私を疑ってんだろ?本当に返す気があるのか、それはいつなのかって」

「……だったらなんだ」

「もうちょい私を信じてくれたっていいのになぁって」

信じる?

「ちゃんと約束は守るぞ。言っただろ?お前に嫌われたくないって」

「お前の為ってのはもちろんだが、私の為でもある。お前を失いたくないっていう私の願いの為だ」

自分の為?失いたくない?

「だから約束は守る。お前とずっと友達でいるためにな」


友達?


「分からない」

「…ん?」

「分からないよ、勇儀」

「何が?」

「勇儀の言ってることが」

「……」

「なんで私と友達になったんだよ」

「なりたかったから」

「なんで?」

「お前の笑顔が見てみたいと思ったから」

「なんで?」

「お前に興味があったから」

「なんで!?」

「…………」

「分からないんだ」

「……それが普通だろ」

「知りたいんだ。教えてよ勇儀」

「私にも分からん」

「なんでだよ」

「そういうのって、感じるもんだろ。お前は感じないのか?」

「……分からない」

「分からないってこたぁないだろ。お前が私のことを友達だと思ってるかいないか、それだけだ」

「分からないんだよ!なんなんだよ友達って!何をすれば友達になれるの!?どういう関係なの!?」

「ち、ちょっと落ち着けミツキ!」

勇儀を困らせてる。それだけで私の心に亀裂が入りそうになる。

でも、これだけは知らなくてはいけない。


「教えてよ……私には、どうしても分からないんだ……」

勇儀にすがりつく。涙が溢れてくる。

勇儀が、みんなが私の友達なのか違うのか。

答えを確かめなければ私とみんなの関係もずっと不明のまま。

まるでシュレディンガーの猫だ。

私の中にみんなが存在しないことになってしまう。

だから、

「答えが欲しいんだ……」

勇儀は腕を組んで考え事をしている。私の答えを勇儀が探している。

また、後ろめたさが募る。

「……今は、分からなくていいんじゃないか?」

「…どういう意味?」

不安で体をカタカタと揺らしながら勇儀の答えを待つ。

「お前も分かってんだろ?その答えは自分が見つけなきゃいけないって。でも、どうしても分からないなら、私の答えを仮の答えにしとこうぜ」

「……?」

勇儀は小さくため息をついた。これでも分からないか、そんな風に感じた。

「つまりだ、私はお前のことを友達だと思ってる。だから私とお前は友達ってことでいいんじゃないか?」

それでいいのかな。

「ならお前はそれ以上の答えを出せるのか?」

ううん、今は出せない。

「なら、これが今んとこ一番の答えだろ?」

……うん、そうだね。

現時点で分かったのは、


私と勇儀が友達ってことだ。


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