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東方異聞録 ~風華雪月~  作者: あんみつ
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愛と距離

ミツキがいなくなって、もう5年が過ぎた。

周りの様子は何一つ変わっていない。小学校から一緒の子もクラスにいるが、いつも通り他の友達と楽しそうに言葉を交わす。

私はクラスに馴染めなかった。虐められているわけじゃない。ただ、人との関わりに意味を見いだせなくなっていた。思えば、ミツキもこんな気持ちだったのかな……

「ユキ、ユキ!」

私の名を呼ぶ声がする。

「……なに?」

煩わしさから、思わず素っ気ない態度をとってしまう。嫌われるかと思ったが、視界に入ったのは私を心配そうに見つめる友の顔だった。

フウカ、幼稚園からの友達だ。ほとんど幼馴染と言っていい。小さい頃は私とミツキとフウカの3人、いつも一緒だった。あんなに仲良しだったのに、ミツキがいなくなってからは会話が激減した。フウカの顔を見ると、ミツキがいない虚無感が増す。

最初は怒りだって覚えた。最近のフウカはミツキのことをキレイサッパリ忘れたかのように笑っている。大切な人を失って、何故そんなにも笑っていられるのか。理解できなかった。許せなかった。

でも、考える時間は腐るほどあった。5年もあれば誰だって忘れる。その人の存在は忘れなくても、その人を失った悲しみはいつか忘れる。私がいつまでも引きずっているだけなのだ。

「また、ミツキのこと考えてたの?」

「……いけないの?」

「もう、諦めたら?」

なにそれ。

「……どういう意味?」

立ち上がって胸ぐら掴んで怒鳴り散らしたい衝動を抑え、あくまで冷静を装う。

「その……きっと、もう会えないと思うの。あれだけ探しても見つからなかったし、もし会えたとしても、ミツキはきっと私たちのこと……」

嫌っているから。

だから諦めろって言うの?本人に会って、想いを聞いたわけでもないのに?

ミツキはそんな子じゃない。ミツキに会ったわけでもないのに、あの子の気持ちを勝手に決めつけないで。

「だから、その……ユキがいつまでも寂しそうにしてるのは、私も嫌だから……」

なら私に関わらなければいいじゃない。私のことなんて忘れればいいじゃない。

もう、なんでこんなにイライラするの?

「ごめん。ミツキのことはどうしても忘れられないの」

「……」

「嫌われててもいい。ミツキに会いたいの。ミツキの傍にいたいの。」

フウカに本音を話すのは久しぶりだ。一度ミツキのことを話し出すと止まらなくなる。

「今度こそミツキを守りたいの。だってミツキは……」


私の、大切な弟なんだから。




何故だろう。突然姉さんのことを思い出した。思い出したくない、忌々しい記憶だ。なのに、寂しさが募る。あんな裏切り者が恋しくなる自分に腹が立つ。

今頃あの二人はどうしてるだろう。私のことなんてとっくに忘れて、私の分まで幸せになってるのかな。

「ミツキ?」

また意識が飛んでいた。透き通る声で我に帰る。

アリスだ。この前未完成で終わった人形を作っている。今日こそ完成させたいと迅速かつ丁寧に指を動かす。その手つきには少し焦りも感じたが、さすがアリス、思わずみとれてしまう職人技だ。

私の手が止まっているのが気になったのか、表情は少しだけ険しかった。

「なんだい?」

「また考え事?」

「悪いな」

「悪くはないけど、そんなに考え事ばかりだと何考えてるのか気になるわ」

「アンタには関係のないことだ」

突っぱねた態度でアリスの表情は更に険しくなる。嫌われたくはないが、自分の過去を知られるのはもっと嫌だ。

分かってほしい。決してアンタが嫌いなわけじゃないんだ。

「関係ないかもしれないけれど、私に出来ることはあるでしょ?貴方にはなんだかんだ助けられてるし、いつでも相談に乗るわよ?」

その言葉がまた重くのしかかる。

言葉に詰まる。声が喉で引っ掛かる。音が出ない。

「……紅茶でも淹れようかしら」

空気に耐えかねたアリスが家に戻っていく。彼女がドアを閉めるのを確認し、喉に詰まってたものをため息として一気に吐き出す。

一人になったことで気は楽になったが、それによって自分がアリスを煩わしく思っていることを認識し、また気が重くなる。

違う。私はアリスを嫌ってなんかない。

アリスは私の友達なんだ。


私はアリスの友達なんだ!


「ミツキ、ミツキ!」

我に帰る。息が苦しい。自分が過呼吸になってることさえ気づかない。

目の前にはアリスの顔と灰色の空があった。右の上腕から腰、左の前腕にかけて、人の温もりを感じる。アリスに抱きかかえられているようだ。


抱きかかえられている?

状況が整理出来ない。足元を見ると、さっきまで私が座っていた椅子が頭をこっちに向けて倒れている。

「アリス、私は……」

「びっくりしたわよ。外見たら貴方が倒れていたから……」

気を失っていたのか。

「大丈夫?立てる?」

正直苦しいが立たないわけにはいかない。まだ人形は未完成だ。

フラフラと立ち上がり、机に向かって足を出す。

力が入らない。結局アリスに支えられてやっと戻れた。

紅茶で気分を落ち着かせ、また縫い針に手を伸ばすが、アリスに止められた。

「今日はもう帰って」

なんでだよ。

「お願いだから休んで」

今日完成させるんじゃないのかよ。

「あとは私がやるから」

私がいないと終わらないんじゃないのかよ。

「お願い……だから……」




なんでお前が泣くんだよ。


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