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東方異聞録 ~風華雪月~  作者: あんみつ
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気遣い

なんとか片付けを終わらせて無事帰還。

疲れがどっと押し寄せる。正直楽しめなかった。

いつものように家で物思いにふけっていた方がよほど有意義だったかもしれない。

すぐさまベッドで横になる。昨日の朝6時から28時間、一睡もしていない。仮眠くらい取らせてほしいものだ。

今日は予定など何一つない。丸1日布団の中で過ごしてやる。

皆も気遣ってくれたようだ。ルーミアの言う「予約」も全くこない。申し訳ない気持ちもあったが、たまにはその気遣いに甘えたっていいだろう。明日からまた期待に応えればいいだけだ。今はとにかく眠りたい。




金縛りというのをご存知だろうか。

目を覚ますと体が全く動かない、アレ。

なんでも霊的なものではなく、ストレスが原因で起こるのだそうだ。

私も何度も掛かった。ということは私もストレスを抱えているということなのだろうか。心当たりはあるが、その記憶は全て外の世界のものだ。幻想郷にいる今の私にはなんの関係もない。

でも、最近金縛りによく掛かる。知らないところでストレスを溜め込んでいるのだろうか。そうだったら手のつけようがない。原因が分からなければ、策も立てられない。

最近寝不足気味だ。一度金縛りに掛かると、数日間は金縛りに遭うかも、という恐怖のせいで寝られなくなる。運良く眠れても、今度はいつも見る夢に襲われる。

脳裏に焼きつく眼、声。まるで呪いに掛かったように、いつも同じ夢ばかり見る。





「私は、なんでここにいるの?」




「私は、なんで痛みを感じるの?」




「私は、なんで生まれてきたの?」




「こんなに痛いなら、生まれてこない方がよかったじゃない」




「そうでしょ?」




「ねぇ、そうなんでしょ?」




「痛い」




「苦しい」




「つらい」




「助けて……」




「助けて」




「助けて!!」




思わずベッドから飛び起きる。

息が苦しい。正常に思考が働かない。

すぐ隣に誰かがいることに気づくのも、いつもより遅かった。

ルーミアだ。その小さな手を私の手に添えながら、ルビーのような真っ赤な瞳で心配そうに私を見つめている。

「大丈夫?」

大丈夫に見えるか?という本音を必死に抑え込む。

「あぁ……大丈夫。起こしてくれたんだね。ありがとう」

余程動揺していたのだろう、ありがとうという言葉が驚くほど自然に出た。

私は他人に感謝はしない。自分が誰かに頼み事をする事がないからだ。限りある貴重な時間、奪われるよりも奪う方がつらい。だから、自分の用事は誰かに押し付けたりしない。自分のことは全部自分で解決してきた。

気づけば私は、ありがとうが言えなくなった。

必要のないものは使わなくなる。使わなくなれば、いずれ使えなくなる。

これもまた、当たり前のことだ。


ルーミアを部屋に帰す。起こしてもらったありがたみより、彼女の睡眠を妨害してしまった後ろめたさの方が大きい。心の中で何度も彼女に謝りながら風呂場に向かう。体もパジャマも汗でびしょ濡れだ。まとわりつく生地が不快感を増幅させる。シャワーを浴びてパジャマを洗って……

先のことを考えてはため息がこぼれる。仕方ない、一つ一つ片付けていこう。


脱衣所でパジャマを脱ぐ。風呂場に入り、シャワーを浴びる。

暖かい。汗まみれの体が軽くなる気がした。

重力に従って雫が私の体を伝い、滴る。

私は自分の体を見つめる。

身長178cm。高いか低いかは性別による。私はかなり高い方だ。

腰まで届く紫の髪。染めてはいない。地毛だ。

くびれた腹。

膨らんだ胸。

細い手足。

その全てにつけられた、無数の古傷。

とっくに完治したはずなのに、視界に入る度にズキズキと痛む。

目を背けた。シャワーはもう十分だろう。さっさと出よう。


部屋に戻るとルーミアがいた。うなされていた私が余程心配だったのだろうか、私の顔を見るなり「一緒に寝よう」と言い出した。

午前3時半。

中途半端な時間だ。いつもの私ならその気遣いに甘えていた。いつもなら。


眠れない。眠れるわけがない。あの夢にうなされるのが眼に見えてる。

夢を見るのは基本的にレム睡眠、眠りが浅い時だ。ノンレム睡眠、深い眠りに入れば夢は見ない。それに今はルーミアがいる。独りじゃないという安心感で、いい夢が見れるかもしれない。

でも、私にはできなかった。

怖かった。あの夢にうなされ、ルーミアを起こし、ルーミアに起こされ、心配されるのが。

これ以上彼女に迷惑を掛けるわけにはいかない。このまま朝まで時間を潰す方が得策だ。

まだ日は出ていない。夜風にでも当たってこようと玄関に向かうと、後ろからルーミアがくっついてきた。いくらなんでも心配し過ぎだ。

「一人にしてくれないか」

「……ダメ」

珍しいな。いつもなら私の意見を尊重してくれるのだが。

「ミツキ、どっか行っちゃいそうなんだもん」

私の居場所はここにしかない。君たちに追放されない限りそんな事はあり得ないのだが。

「……分かったよ」

ルーミアと二人で散歩することに。

一人になりたい時に限って必要とされる。

嬉しさと煩わしさが衝突する。

やっぱり人付き合いは苦手だ。

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