守る為に
何が起こった?
身体が動かない。でも、暖かい。
この温もりはなに?
「これが人の温もり。今まで私が独り占めしてたものだよ」
人?誰かいるの?
「見えないのかい?」
え?
「ミツキ……」
聞き覚えのある声。
「もういいの」
懐かしい匂い。
「つらかったよね……ごめんね……」
何度も感じた温もり。
「ア"ァ"……」
「貴方は誰よりも優しい子。人の幸せの為に動いて、人の悲しみに泣く優しい子なの」
「もう大丈夫よ。今度こそ、お姉ちゃんたちが守るから」
「あぁ……」
「ごめんね。こんなに素晴らしいものを独り占めしてたんだよ、私は」
みんな私を嫌うのに。
「でも私は、君と一緒にいたいな」
どうして?
「君は私だから」
「やっと分かったんだ。君が……私が望んでるもの」
やめろ……来るな………!
「ふふ……そういう割には逃げたりしないんだね」
なんだその顔は……!
なんでお前が、そんな笑顔を作れるんだよ……!
「なんでだろうね?自分でも分からないよ」
来るなって言ってるだろ!
「少しだけでいいんだ。私の我が儘に付き合ってよ」
なんだよ……
なんで、私を抱きしめるんだよ……
「君が欲しがってたものじゃないのかい?」
違う!私は……!
「私の望みは君の望み、だろう?」
「ふふ……闇のくせに、結構暖かいね」
「ありがとう。全部……全部私の為なんだよね」
やめろ!私に優しくするな!
「私が苦しまなくていいようにって、頑張ってくれてたんだよね」
「もう十分だよ。あとは私に任せて」
やめて……
「素直になっていいんだよ。ここにいるのは私だけ」
「誰も君を傷つけたりなんかしない」
………………………本当に?
「うん。もし傷ついても、私が君の傍にいるから」
信じられないよ。
「信じなくていいよ。君が私をどう思っていても、私の想いは変わらないから」
………そっか。
「………ミツキ?」
纏っていた闇が消える。
力が抜ける。ユキ姉さんに抱えられる。
「ミツキ!」
「姉……さん……やっと、会えた………」
「………うん」
「ごめん、なさい…また……迷惑、掛けちゃった………二度と掛けないって、言ったのに……」
「ううん……そんなの、いいのよ………」
ユキ姉さんが私を抱きしめる。
フウカ姉さんが私の頬に触れる。
「姉さん……あったかいな………」
「貴方もよ、ミツキ……」
「私は……姉さん、たちの……自慢の、弟に……なりたかった」
「ずっと……ずっと、姉さんたちの……弟でいたかった」
「なに言ってるの?貴方はずっと……今までも、これからも私たちの弟よ。もう二度と離れないから、また3人で一緒に……」
「ううん……それはダメなの……」
「え……?」
「私は……ここにいちゃ、いけないから。帰らなくちゃいけないから」
「どうして……?一緒にいられないの?」
「大切な人……いっぱい、できちゃったから」
「……そっか」
「姉さん……あと、一つだけ……」
「なに……?ミツキ……」
やっと言える。面と向かって、胸を張って。
「私……ユキ姉さんも、フウカ姉さんも………」
「大好きだよ」
「お姉ちゃんもよ」
「誰よりも、あなたを愛してる………」
「あ、やっと起きたのね、ねぼすけさん」
永遠亭。
迷いの竹林を抜けた先にある月の民の家。永琳が務める診療所でもある。
「永琳……ってことは、ここは幻想郷?」
「聞いたわよ、外の世界で随分暴れまわったらしいじゃない」
そうだ。私はあいつらを……
「まぁ、幸い誰も死んではなかったらしいけど」
「え……あれで誰も死んでなかったのか?」
「ええ、気絶こそしてたけど全員軽傷で済んでたそうよ。あなたが底なしのお人好しだからかしらね」
なんだそりゃ。
まぁいい。とりあえずことは収まった。あとは私がみんなに謝らないと。
特に妹紅だ。闇に囚われていたとはいえ、私は彼女を一度殺した。誠心誠意謝らなければ。
許してくれるよね、多分……
「どうだろうな、いくら親友でも人殺しを許しはしないだろ」
まだいたのかお前。
「いていいって言ったのはお前だぞ?」
すっこんでろ。多重人格とかまたややこしくなんだろが。
「半妖で性同一性障害で多重人格って個性強すぎだなお前」
どの口が言うか。
「そう言うなよ。相棒」
その呼び方止めろ王か。
いつもの日常が帰ってくる。うるさい奴が一人増えたが、平凡で幸せな日々。
ただ、欲を言えば……姉さんたちと、もっと一緒にいたかったな。
数日後。
私は紫に呼び出された。
あの一件に関しては謝罪したし、ちゃんと許しも得たはずだが……
「あら、ちゃんと来てくれたのね」
「なんだ用って」
紫はニヤニヤしながら近づいてくる。
なんでそんなに嬉しそうなんだよ。
「ちょっと遅れちゃったけど、誕生日のプレゼントをね♪」
「私の誕生日なんて覚えてたのか」
「しかも20歳でしょ?これはお祝いしなきゃ」
紫って意外とこういうの好きなのか?
「……で、なんだプレゼントって」
「気になる?」
「そういうノリは好きじゃない」
「はいはい、これよ」
「どうせろくでもないもんだ…ろ………」
言葉に詰まる。
紫のプレゼントは、今までで一番の贈り物だった。
当たり前のことにありがたみを感じるのは難しい。だって当たり前のことなんだから。次にそのありがたみが分かるのは、失った時。
だから私はありがたみなど感じたくはなかった。
でも……一度失った「当たり前」をもう一度手に入れた時、失った悲しみを全部塗り替えるほどの大きな幸福で満たされる。
私は、紫からもらった3つの贈り物を、両腕で思いっきり抱きしめた。