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東方異聞録 ~風華雪月~  作者: あんみつ
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ひかれあう心

「ミツキ……?」

「え?」

私の顔を見てきょとんとするフウカ。

「どうしたのユキ」

「今、ミツキの声が聞こえたような気がしたの」

「え……何も聞こえなかったよ?」

空耳?

違う、何かが。

「ユキ?」

「……こっち」

フウカの手を引く。

「ち、ちょっとユキ!?」

確証も何もない。

だが、ミツキがこの先にいる。そんな気がする。

まるで誰かに操られるように身体が外へ向かって歩きだす。

ミツキ……待ってて、今行くから。


心のままに進んだ先にあるのは、勉学に励んだ懐かしい校舎。

ここにミツキが?

「ユキ、ユキ!」

「なに?」

「どうしたの急に!説明してよ!」

心に従うのに必死でフウカのことを全く考えていなかった。

「ここにミツキがいるの」

「……ホント?」

きっといる。

そう思うと自然と足が速くなる。

校庭が少しずつ見えてきた。

ミツキ、会いたかっ




「なに、これ……」


校庭に転がる無数の人体。

その真ん中にぽつんと立っている影。

人型のシルエット。

左手には真っ黒な日本刀。

影が形になったかのように全身が黒く染まり、その闇が右手に鋭い爪を形成している。

本来目がある部分には紫の炎が揺らめく。

一言で表すなら、まさに「化け物」。

思考が止まる。フウカも目の前の地獄を呆然と眺めている。


化け物がこっちを見る。

目があった瞬間背筋が凍りつく。

殺される。生物の本能が「逃げろ」と言っているが、足がすくんで動けない。

そうこうしてるうちに化け物はすぐ私の目の前で刀を振りかざす。

「ゴアアアアアアアアアアア!!」

化け物の咆哮が脳を揺さぶる。何故か懐かしさを感じた。走馬灯ってやつか。

ミツキ……死ぬ前に貴方の顔が見たかったな。

フウカ、ごめんね。私のせいで貴方まで死ぬなんて。

今度は3人ずっと一緒。いつまでも幸せでいられたらいいな。

ミツキ……フウカ……











「エ"ェ"……ア"ァ"……」


呻き声?

目を開ける。まだ死んでいないようだ。

目の前にはカタカタと震える刀。

紙一重の距離で化け物が固まっている。

「ネ"ェ"……サ"ン"……」


今なんて?

「ュ"キ"……ネ"ェ"……サ"ン"……」

ユキ姉さん?

最後にこの呼ばれ方をしたのは5年も前だ。

私を姉さんと呼べるのはたった一人。

あの子の名を呼ぶ。




「……ミツキ?」

化け物は固まったまま動かない。

「ミツキ、ミツキ!返事して!ミツキなんでしょ!?」

「ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"!!」

私の声に反応して叫ぶその声は、もうあの子のものにしか聞こえなかった。

「ミツキ!目を覚まして!お願い!」

必死に語りかけるが届かない。気づけばまた刀が振り下ろされようとしていた。

せっかく会えたのにこんな形でお別れはしたくない。

「ミツキ!ミツキ!」

お願い、誰か……ミツキを助けて……



ギィン!

金属同士がぶつかる音が聞こえ、目を開ける。

銀髪の少女とメイド服の少女が、二人がかりでミツキの刀を受け止めている。銀髪の少女の周りを、半透明の白い球体が尾を引きながらふよふよと漂う。


「くっ!こいつ……なんて馬鹿力よ!」

「二人共、早く逃げてください!」

逃げる?

どうしてミツキから逃げなきゃいけないの?

「あいつはもう、あんたたちの知ってるミツキじゃないわ」

赤いリボンをつけた少女。手には何故か祓串が握られている。

「ど、どういうこと?」

フウカも戸惑いを隠せない。

「今は話してる場合じゃないわ。魔理沙、二人をお願い」

「へいへい」

魔理沙と呼ばれた少女は渋々と私たちを箒に乗せようとする。

「待って!貴方たち誰なの?ミツキをどうする気なの!?」

「私たちはミツキの友達だ。あいつを連れ戻しにきたんだよ」

今度は赤いモンペを穿いた少女。すぐ横には金髪の少女もいる。

皆、ミツキの友達なの……?

「ああ、だから悪いようにはしない。安心してくれ」

「ユキ、行こう」

フウカが私の手を引く。

「いや!ミツキの傍にいるの!」

もがく私を無理矢理箒に乗せて少女が飛び立つ。

景色が遠のいていく。


私たちは、魔理沙からミツキのことを聞いた。

魔理沙たちと一緒に元気にしてたこと。

友達がたくさんできたこと。

もう、人間ではないということ。

信じがたいが、変わり果てたミツキを実際に見ている。

でも、そんなの関係ない。人間だろうが妖怪だろうがミツキはミツキ。私の大切な弟。

「じゃあ、私はあいつらに加勢してくるから」

魔理沙はそう言って飛び去ってしまった。

「……ユキ」

「ん?」

「あの化け物がミツキって、本当なのかな……」

「私のこと姉さんって呼んでたもん」

「そっか……」

不安げな表情を見せるフウカ。

「ミツキが怖いの?」

「そんなこと………ううん、怖い。怖かった」

「私も」

「でも…」

会えて嬉しかった。それはフウカも同じ。

もっと一緒にいたいと思うのも同じ。

「ユキ」

「うん」

顔を見合わせる。

やることは一つだ。

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