会いたい
「……紫様、ミツキに何を言ったのです?」
「今まで隠していた秘密を教えただけよ」
藍は紫を睨む。
「隠しとおすと言ったのは貴方ではないですか。何故そんな事を?」
「あの子が知りたいと言ったのよ。遅かれ早かれ知ることだし、まぁ問題ないでしょ」
「あれが問題ないように見えましたか?振り返りもせず全速力で逃げていきましたよ?」
紫は頬杖をつきながらため息を漏らす。
「あの子なら大丈夫だと思うけど……」
「根拠は?」
「あの子、理解力だけは並外れているのよ。とても未成年とは思えないくらい。だから、私の気持ちも分かってくれてるわ」
そう言いつつも、紫の表情は曇ったまま。
「まだ何か不安なことでも?」
藍は紫に聞く。長年式をしているだけあって紫のことはよく知っている。
「あの子の闇がどう動くかね。出来ればあの二人も幻想郷に来てもらおうと思ったけど、ことが落ち着くまでは止めておいた方がいいかもしれないわね。」
「あの二人って……」
「ユキとフウカ……ミツキの一番の理解者よ」
言えなかった。
自分が思ってること。
何故だろう、いつもならなんの躊躇いもなく話せてたのに。
今までが上手くいってたからかな。本音を言って、今の関係を変化させたくないと思ったのかな。
気にする必要なんかないのに。
言いたいこともまともに言えない。これだけでも結構苦しいのに、なんでそんな環境を作ったんだろう。
こうなるのは分かってたはずなのに、なんで皆と仲良くなんかなったんだろう。
「人は独りじゃ生きていけない。仲間を求めるのは当然のことだ」
また君か。
「随分落ち着いているな。さっきまで半泣きで私にすがってたくせに」
独りになれば冷静になれる。やっぱり私は独りの方がいいのかもしれない。
「それでいいのか?」
分からない。
「なら私に任せろ。お前の理想の環境を作ってやる」
くどい。
「お前があそこで踏み留まらなければ良かったんだよ。もっと心に正直になれ」
私は考えてから行動するタイプなんだよ。
「じゃあ姉さんたちはどうする?二度と会えなくなるんだぞ」
二度と会えない?
「しかもお前はもう人間じゃない。寿命だって本来の数倍延びてるんだ。自分が死ぬまでの数百年、姉さんたちに会えない苦しみに耐えられるのか?」
…………。
「会いたいんだろ?」
「言葉を交わして、もう一度信じたいんだろ?」
止めろ。それ以上言うな。
「それとも、復讐したいのか?」
止めてくれ。
「あの時、自分を見捨てた姉さんたちに」
止めて……。
「これがお前の望んでいることだ」
違う。
「違わないね」
お前なんかに理解されてたまるか。
「何度も言ってるだろ、私はお前だ」
「さあ、お前の望みはなんだ。当ててやるよ」
「「姉さんに会いたい」」
「……!」
「ん?どうしたの紫?」
真っ昼間の博麗神社。相変わらず参拝客はいない。
何かに気づいた素振りを見せる紫に霊夢が聞く。
「誰かが博麗大結界をすり抜けた……!」
博麗大結界。現実世界と幻想郷を隔てる結界。
強力な霊力で張られており、自力で抜けられる者は限られている。
「どうせぬえとかじゃないの?」
「違うわ、ぬえの妖気じゃない」
「じゃあ誰よ」
「分からないわ、とても小さな気だから……」
口ではそう言いつつも、紫は薄々感づいていた。
ついさっきあんなことがあったばかりだ。
「マズイわ……霊夢、早く準備して!」
「はあ?なんの準備よ」
「ミツキが外に出たわ!急いで連れ戻すの!」
「お、おい!ミツキが外に出たってのは本当か!?」
「一体どうやって……」
神社にわらわら集まる少女たち。噂が広まるのは早い。
「この際ミツキが抜けた方法は関係ないわ。とにかく連れ戻すことを優先するの」
焦りを見せる紫。
「でも、ミツキは元々外の人間だろ?何か問題あるのか?」
「ミツキはもう人間じゃない。それにあいつの闇は外で植え付けられたものよ。いつ爆発するか分からないわ」
支度を済ませた霊夢が顔をだす。
「じゃあ霊夢、ミツキを頼んだわよ」
「待って、私も行く!」
霊夢が外の世界に続くスキマを通ろうとしたその時、ルーミアが後ろから声を掛ける。
「……遊びじゃないのよ」
「分かってる!私がミツキを連れ戻す!」
「だったら私も連れてってくれ」
今度は妹紅。
次々と名乗りをあげる少女たち。
「……そんなに連れていけないわ」
この光景をミツキに見せてやりたいと思う霊夢だった。