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東方異聞録 ~風華雪月~  作者: あんみつ
1/16

当たり前のこと

多分R-15くらいです

当たり前のことに有り難みを感じるって、とても難しいことだと思う。だって当たり前のことなんだから。存在して当然なのだから。自分にしかない能力だって、周りから見たら魅力的かもしれないけれど、本人にとっては当たり前のことだ。「○○が出来るの?凄いね!私はそんな事出来ないよ!」って言われることもたくさんあるけれど、そうやって褒めてくれる人のほとんどは「出来ない」のではなく「やろうとしない」だけだ。その人だって興味さえ持ってしまえば、それを続け、いつかは出来るようになる。問題はその興味をいつまで保てるかだ。すぐに飽きたらそれで終わり、続けば当たり前のことになる、それだけのこと。

そして当たり前になれば、そのすごさ、有り難みが薄れてくる。

次にその有り難みを感じるのは、きっとそれを失った時だろう。少なくとも私はそうだ。そういう意味では、私はもう有り難みなど感じたくはない。


呆れるほどの晴天。小鳥たちの鳴き声と風が吹く音だけが響く。西から東へ飛んでいく小鳥たちを目で追いながら、一人の人間が思案する。

「当たり前のこと、かぁ……」

ミツキ。最近幻想郷にやってきた人間だ。知的で器用で大抵のことは出来るため、周りからはよく頼られる。一度考えだしたら周りの声が聞こえなくなるのが玉に瑕だ。

「…ツキ、ミツキ!」

届いていない。

「ミツキってば!」

やっとその声を認識したミツキが振り返ると、金色の髪に赤いリボンを付けた少女がいた。

ルーミア。幻想郷に住む妖怪だ。人喰いらしいが最近は食べていない。なんでも「襲って食べるのが面倒」だそうで。

「ん?なんだいルーミア」

彼女の険しげな表情を気にもせずミツキが返す。

「なんだい?じゃないよ!魔理沙の研究手伝うんでしょ!?」

「分かってるよ」

「そのあとはアリスの人形作りの手伝い、そのあとはにとり、次は騒霊姉妹、次は…」

「なんでお前が私のスケジュール管理してんだよってか身に覚えのないやつが混ざってるぞおい」

「予約頼まれた」

「本人の承諾を得なさいよ」

「「ミツキなら急でも聞いてくれるから」って妖夢とか咲夜とかも頼んできたよ」

呆れ果てるミツキ、体力は多い方ではない。仮にあったとしても今は真っ昼間。とても今日1日でこなせるとは思えない。

「勘弁してくれよ……私は体のいい召使いじゃないんだからさぁ……」

「違うの?」

「お前私のことなんだと思ってやがる」

「そんな事より早く!魔理沙待ってるよきっと!」

大きなため息を一つついて部屋を出る。

「あ、今日宴会の準備手伝えって霊夢が!」

たった今思い出したように大声で言うルーミアに背を向けたまま二つ返事を返す。いつもの光景だ。


頼み事は断らない。私自身にやりたい事があるわけじゃないし。

というか、皆の頼みを聞く事が私のやること。それに、私の望みはより多くの知識を得ることだ。幻想郷(ここ)には妖術も魔法もある。外から来た私の常識を覆すものが溢れてる。あいつらに付き合ってやることで知れることもたくさんあるし、頼られるのも悪い気はしない。でも、それにしたってもう少しこっちのことも考えてくれたっていいだろう……


文句を言いながら魔理沙の元へ向かうミツキ。ふと見上げると、吸い込まれそうな錯覚を起こす曇り一つない天球が広がって……


「……ん?」

ミツキは、ある種の「違和感」を感じた。本当に小さな違和感だ。

「……気のせいか」

そう思ってしまうのも無理はなかった。

空がいつもより明るいなんて普通は気づかない。気づいても、それに違和感なんて感じない。暇さえあれば空を眺めているミツキだからこそ気づいた違和感だ。そんなミツキでさえ「気のせい」で片すような、小さな予兆だった。



用事を片付け、霊夢の元へ。結局皆の頼み事は1人1時間ほどしか聞いてやれなかった。魔理沙の研究も、アリスの人形も未完成のままだ。周りの間で自分が何でも屋と化しているという想定外のことに対策を講じていなかった自分をぶん殴ってやりたいと思った。皆は揃って「十分やってくれた」と言っているが、私は納得していない。私に気を遣っているようにしか見えないのだ。そういうのは本当に苦手だ。気を遣わせていることに対する申し訳なさを、必要以上に感じてしまうから。

「気遣いなんてしてない。本当に感謝している。」

頭では分かっていても、心がそれを認めない。私は誰かから信頼されるような人間じゃない。優しくなんかない。皆に嫌われたくないから御機嫌をとってるだけだ。皆の為じゃない。私は自分のことしか考えてない身勝手な人間だ。


だから、そんな笑顔は見せないで……


「……ミツキ、顔色悪いわよ?なんか嫌なことでもあった?」

私の顔を心配そうに覗き込む霊夢。視界に突然入ってきた彼女の眼に、私はほんの少し恐怖を感じた。

思わず視線を逸らす。もう慣れたと思っていたが、相変わらず人の眼を見るのは苦手だ。

「嫌なこと」に心当たりが無いわけじゃないが、私は「うーん……特にないよ?そんなに悪く見える?」と聞き返す。この演技にも慣れたものだ。

そして霊夢にはすぐに見抜かれるのも相変わらず。

「どうせ皆の頼み事聞きまくってキャパオーバーしたんでしょ。あんまりミツキに頼りすぎるなって言ってんだけどねぇ。」

前はこの演技でレミリアだって騙せたのに霊夢は毎度必ず見抜いてくる。こいつ本当は(さと)り妖怪なんじゃないか?

「まぁいいわ、ここに来たってことは手伝う体力残ってるんでしょ?さっさと終わらせるわよ」

「萃香たちはどうした?」

「買い出し。」

「あぁ……そう……」

素っ気ない答えしか返ってこない。相手が相手だし当然なんだが、もう少し心を開いてくれたらと思う。

霊夢は他のやつらとは明らかに違う。魔理沙やルーミアとは比べ物にならないほど距離を感じる。こいつといるときは大体魔理沙が一緒だったから気にしていなかったが、いざ二人きりになると何を話したらいいのか分からない。なんというか……口下手な親子が久々の休日にキャッチボールしてるあの時の空気に似てる気がする。

夕方6時から夜の9時までの労働の中、交わしたのは「あれ出しといて」「それはこっち」「ここでいいの?」そんな事務的な会話だけだった。途中で萃香たちが帰ってきて少し賑やかになったが、霊夢との会話は弾まなかった。

宴会の準備は意外と大変だった。こういった催しは本編より準備の時間が好きなのだが、それでも堪えるほどだ。そんな重労働の報酬は霊夢からの感謝の言葉だけ。最初から報酬など貰うつもりはなかったが、正直ねだりたくなるほどキツかった。

宴会は明日の午後7時から。これだけ働いたんだから、私にも参加する権利はあるだろう。騒がしいところは苦手だが、たまには皆とバカ騒ぎするのも悪くはないかな……


本作品をご覧いただき、ありがとうございます。あんみつです。初投稿なので至らない部分も多々あると思いますが、楽しんでいただけたら幸いです。

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