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ワールドサーガ   作者: 唯辻
9/19

009 エディvsリーン

 リード軍事学校、その近くの町。

 ウリエルは小さな女の子と歩いていた。

「ありがとね。案内してもらって助かったわ」

「これくらいなんてことないよ。お姉ちゃんって天使なんだよね?」

「そうよ」

「すごいんだね」

「まあ、ちょっとすごい事ができたりもするかしら」

「すごーい。すごーい」

 ウリエルは無邪気に意味もなく喜んでいる女の子をニコニコと見ていた。

「そういえば、名前を聞いてなかったわね」

「私の名前?ミオだよ〜」

「分かった、ミオちゃんね。ミオちゃん、そんなに簡単に知らない人に名前を教えちゃダメよ。怖〜い人かもしれないからね」

「うん、分かった〜」

(かわいいな〜、攫っちゃおっかな〜。いやいや、ダメよ、何考えてるの私。ミオちゃんのことを考えなさい。親と離れ離れになっちゃうわ。でも、親と上手くいってないかもしれなしー)

「ほら、あそこだよ」

 危ない思考に落ちかけるウリエルにミオがある場所を指して言う。

 そこは、リード軍事学校。

 リーンをこの国の人間が知るわけがないので、おそらくリーンの標的であるリュウの情報を辿ったらここまで着いた。

 リーンと一緒に帰るのは、考えてみれば難しいだろう。

 今でも天界で絶大な力を持つリーンが、堕天した自分を受け入れてくれるとは思えない。

 最初は少し動向を探るのつもりだったが、これ以上は接触を避けたい。

 リュウは、敵には容赦ないがあれで意外と温厚だ。

 特に、かわいい女子には。

 自分は、見た目なら若くてかわいい女性だ。

 身体もとても美しいと思う。

 少し相手をすれば、送り届けるくらいはしてもらえるだろう。

「そういえば、どうしてリード学校に来たかったの?」

 何気ないミオの質問にウリエルは少し驚いてしまう。

「知り合いに会いによ」

「その人も天使なの?」

「どうだったかしらね。あの人はどういう存在だったかしら」

 ウリエルも本当によく分からない。

「お姉ちゃんみたいにかわいいの?」

「うーん。見た目はかわいいわね。まあ、ミオちゃんには劣るわね」

「えぇ〜」

 ミオが嬉しそうに赤くなる。

 かわいい。

 このままでは、本当に攫いそうなので引き上げるとしよう。

「じゃあね。あなたにいい事があるようにおまじないをしておくわ」

「うん。またね」

 無邪気に笑うミオを見て再会を決心すると、目にも留まらぬ速さでリード軍事学校へ飛び立った。






 リード軍事学校、グラウンド。

「ぎゃあああああああ!」

 エディが悲鳴を上げながら転がる。

 すぐに近くには、大きな亀裂が入る。

「つまらないわね〜。もっと面白いことできないの?」

 そう言ったのは、エディに向かって斬撃を放った少女。

 光の王、リーン。

 手には、半透明の歪な剣が握られている。

 その剣は、神器シューレ。

 神から与えられていた武器である。

 リーンが使えば、山も一振りで切ることのできる剣。

 リーンは、神器シューレを猫を撫で回すかのようにエディに振る。

 そんな攻撃ですらエディにとっては恐ろしすぎる攻撃だ。

 貴重なサンプルを飲み干したエディでも逃げるのがやっとだった。

 そのサンプルは、攫った特殊な人間から搾り取ったもので、一時的にエディはその力を得る事ができる。

 エディは身体能力、肉体の強度、回復力を上げて逃げ回りながら、学校に仕掛けたシステムと同僚の協力を得て、どうにかリーンの遊び相手を演じていた。

 そんなギリギリで戦うエディを、リーンは冷たい目で見つめていた。

「舐めんじゃねえぞ。ガキが」

 エディの声と共に指輪が1つ崩れる。

 そこから出た光がクリフに作らせておいた雲に刺さる。

 雲から直径10メートルを超える太い1本の雷が出てきて、リーンに刺さる。

 エディほどの魔術師でも自分の力だけでは作れない強力な魔法。

 離れていてもエディ自身すら死にかねない一撃だ。

 それでも、リーンは剣を軽く振っただけで雷を打ち消す。

「本当につまらないわね。そろそろ終わりかしら〜」

 残念そうなリーンの呟きにエディは焦る。

 リーンがエディに飽きて、殺しにくるかもしれない。

「仕方ねえ。これを使うか」

 エディが、切り札の準備を始める。

 高等部の校舎にある司令室にいるジニーに連絡をとる。

「ジニー、重力玉を出せ。それと電磁加速砲の用意だ」

「了解。でも大丈夫?既に魔力は結構使ったでしょ」

「大丈夫だ。あれを使うだけの魔力は残してある。」

「分かったわ。重力玉は送って、電磁加速砲の計算が完了したら言うわ」

「頼んだぜ、ジニー」

 重力玉と電磁加速砲は、賢者クラウディオの息子であるクラウンが作ったもので神器に次ぐ性能を持つ。

 直径5メートルの黒い玉が地下を通ってリーンを囲うように配置される。

 まだ地上には見えていないが、エディは接続用の指輪の効果でそれを理解する。

 リーン軍事学校から数キロ離れた山の山頂から巨大な建物が生えてくる。

 その建物には大きな大砲が付いていて、それがリーンに向く。

「何を見せてくれるのかしら?早くしてね」

「分かってるよ、かわい子ちゃん。今見せてやるぜ!」

 リーンとエディが口を歪めながら睨み合う。

「準備完了。いけるわ、エディ」

「よっしゃ、いくぜ!」

 ジニーの言葉を聞いて、エディは即座に重力玉を起動する。

 リーンを囲うようにして現れた重力玉は、囲んだ空間に通常の数十倍の重力をかける。

 エディでは効率の悪い重力魔法をここまで扱うのは不可能だが、重力玉を使う事で20秒ほどは使える。

「ん?」

 リーンの周りが重くなり、少し驚いたように声を上げる。

 エディの方は、サンプルによって向上した身体能力でそこから必死に離れる。

 同時に山頂に出た電磁加速砲が音を上げる。

 残りの魔力をほぼ全て使い切り、接続用の指輪から魔力が電磁加速砲に注がれる。

 エディから注がれた魔力が爆発的に巨大なエネルギーに変換されていき、機械音が大きく響く。

 凄まじい爆発音と共に電磁加速砲が弾丸が発射される。

 人よりもでかい弾丸が超高速でリーンの下まで一直線に向かっていく。

 エディは、重力魔法を弾が届くまでギリギリもたせる事ができた。

 リーンを逃さず、動きを制限して弾丸を当てる為だ。

 しかし、リーンはそんなものは全く気にならないという態度で、剣を上に掲げる。

 着弾。

 リーンは神器で弾を切り裂いた。

 弾は真っ二つに切り裂かれ、リーンのすぐ後ろに着弾した。

 無防備に装備や魔法を何も纏っていなかったリーンだが、弾丸が斬られれば擦り傷が付くか付かないかだ。

 リーンが切り裂いたにもかかわらず、電磁加速砲の威力は凄まじかった。

 真っ二つになった弾丸を中心に縦横1キロ以上あるグラウンドの土は完全に消し飛び、グラウンドの近くの建物も吹き飛ばされる。

 かなり距離を取ったエディもゴミのように吹き飛ばされ、大地に転がる。

 エディはサンプルによって肉体の強度を上げていたのに瀕死状態になっていた。

「ごほっ、ごほっ。ジニー、急いで人を寄越してくれ。死んじまう」

 耳につけた通信機は壊れたので、血を吐きながら緊急連絡用の歯に仕込んだ装置でジニーに連絡を取る。

「当たり前よ、馬鹿なのあなた。何よあの威力、聞いてた話の数倍はあるわよ」

「だって、言ったら設置の許可してくれないし〜」

「全く…足の速いのを救助に何人か送ったわ。それとリーンは健在よ。もう戦えないんだから速く逃げて」

「マジかよ。いけるかと思ったんだがな〜。でも、それならリーンが電磁加速砲の衝撃を殺してるはずだよな。それでこの威力とか、マジやばいな電磁加速砲」

「そうね。それよりリーンはまだ動けるみたいだし、速く逃げなさい」

「ああ、そうするわ」

 エディはボロボロの体を引きずるながらリーンから距離を取り、救助を待つことにした。

 その一方、リーンは魔力も装備も纏わず無防備だったので着ていた制服が消し飛んでしまった。

 裸でいるわけにもいかないので、簡易的な白い服を作る。

 見事な1撃だったが、命を脅かすには遥かに程遠い。

 それでも、リーンはただの人であるエディが、ここまでの力を見せてくれたことに喜んでいた。

「ふふふふ。やるじゃない。すぐに殺さないでよかったわ」

 満足そんな顔で言うと、次はどんな遊びをしようかと考え出した。

 もう1人くらいエディ以上の強者がいてくれると嬉しい。

 そんな願いに応えるかのように、車椅子に乗った少女がジニーのいる部屋に到着する。

「これは予想以上の怪物のようですわね。さてジニー先生、エディ先生の迎撃システムを貸して頂けますか?」

 戸惑うジニーに車椅子の少女、アリシアは話しかけた。





 リード軍事学校、校舎の外れ、ごく一部の人間しか知らない緊急通信室。

 リョウコは、有線の受話器を握り連絡を試みる。

「もしもし、ジン様ですか?」

「ああ、リョウコさんですか。緊急のようですね。どうしましたか?」

 相手は警察のトップ、ジン。

 黒に近い茶髪の30代後半の落ち着いた男。

 警察の黒い制服を着ている。

「よかった。リード軍事学校に大規模な襲撃ですわ。すぐ人を寄越して下さい」

「なるほど、そういうことですか。実はその付近の街全体を覆った大規模な通信妨害が起こっていまして、おそらくは学校から外部への連絡を断つのと同時に、他に目を向けさせるのが狙いでしょう」

「計画的ですわね。でも今は推測よりも行動をしなくてはなりませんわ」

「もちろんです。すぐに人を送ります。あなたの様子から察するにかなりの事態のようですし、送れるだけ人を送ります。準備が完了したら私も行きます。」

「ありがとうございます。お待ちしております。」

「掴めている情報はありますか?」

「狙いはここにいる人を殺すことのようなのと、敵が精鋭揃いということぐらいでしょうか」

「分かりました。あなたはあなたの身を第一に考えて行動して下さいね」

 それだけ言うとジンは、受話器を置いた。

 そして、部下の1人に電話をかける。

「もしもし、ブラットくん」

「あー、ジンさん。どうしました?」

 相手は、ブラット。

 オールバックに固めた少し長い黒髮の20歳代前半の男。

 身長は少し高めで手足は筋肉で太い。

 黒いジーンズを履き、白いシャツに黒い革のジャケットを羽織って、ネックレスやピアスを着けた飄々とした男。

「君はリード軍事学校の近くにいましたよね」

「はいはい、いますよ。この辺は電波通じますねー。」

「そのようですね。それとは別にリード軍事学校に大規模な襲撃がありました。あなたは先兵として敵を殲滅し、情報を集めて下さい。我々が到着したらまた連絡します」

「ちょっと、何すかそれ。あの学校がですか?ヤバイですね。あと、なんで俺だけ?扱い酷くないですか?」

「文句があるんですか?ブラットくん」

 静かだが圧力のあるジンの声が聞こえた。

「いえ、ないです。すぐ行きます」

 ブラットは電話を切ると行動を開始する。

 ブラットは若手ナンバーワンの実力で、警察全体を見てもトップクラスの強さがある。

 ジンは実力のあるブラットを特別に目をかけてシゴいていたので、ブラットはジンに逆らえない様になっていた。

「毎度酷いよなー。ジンさん」

 ブラットはぼやきながらも急いでリード軍事学校に向かって走り出した。

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