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ワールドサーガ   作者: 唯辻
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007 各地の混乱

 武装国家ティンバラ、王城の一室。

 1人の男が顔をしかめていた。

 サラサラの黒髪、綺麗に剃られた髭、歳の割にアグレッシブないつも元気な老人。

 彼の名は、ライアン。

 ティンバラの国家元首にして、賢者の1人。

 余談だが、彼はリュウにいつか一泡吹かせてやろうと様々な兵器を部下と共に開発していた。

 そんな元気な彼が、今日は気分が優れない。

 理由は、彼の国の優秀な戦闘員達と連絡が取れないことだ。

 常に連絡を取り合っている訳ではない。

 しかし、前回の作戦の報告を聞くためにあるチームに連絡を取ろうとしたところ誰とも繋がらなかった。

 不審に思って、他の戦闘員にも連絡を試みたが、かなりの者と連絡が取れない。

 今も王城にいる部下がさらに他の戦闘員と連絡を試みている。

「嫌な予感がするな。クラウディオと小競り合いをしている場合ではないかもな。賢者達が再び協力する時が来たか」

 彼らしくもない真面目な事を考えながら、部下達から上がってくる資料を確認していた。






 ロールン大陸、ブルーム山脈、そこにある城の城内。

 7、8歳くらいの長い銀髪の少女がいた。

 顔が見えないくらい深いローブを被り、その少女より高い杖を持っていた。

 先端には、黒く丸い宝石が付いている。

 彼女の名は、ワイス。

 最強の悪魔である、7大悪魔の1人。

「リーンめ。やはりここにも来ておったか」

 少女は、荒らされたばかり部屋を見る。

 ここは、他の7大悪魔の1人が住んでいた部屋。

 先日、リーンが自分を殺しに来た。

 前にも戦いに来た事はあったが、奴にとっては遊びのようなものだ。

 しかし、先日来た時は本気の殺意を持って命を取りにきた。

 奴の恨みを買った覚えはないので、おそらくは力を求めてだろう。

 悪魔は死んでも復活できる。

 しかし、一部の強者はそのエネルギーごと食べてしまうことができる。

 食べられてしまっては復活もできず、食った者のエネルギーになってしまう。

 普通は食べても、その者が悪魔のエネルギーに耐えきれず死ぬ。

 リーンなら耐えきれる強さがある。

 しかし、最強の悪魔まで飲み込むとはワイスも驚いた。

「奴の態度から嫌な予感はしておったが、本当にサマエルは食われてしまったようじゃな。おそらくは他の悪魔達も…」

 ワイスに悲しみの感情は余りない。

 悪魔に配下はいるが、徒党は組まない。

 しかし、暴れん坊のリーンが力をさらに得たというのはまずい。

 世界規模の問題と言える。

 ワイスは温厚な悪魔であり、世界が滅びることなど望まない。

「フォルネウスは無事だろうが、他はどうかのー」

 同じ7大悪魔といっても能力は様々。

 リーンに対抗できる者がいれば、できない者もいる。

 フォルネウスは、対抗できる者の1人だ。

 彼は、次元を操ることができる。

 次元を超えれば触ることもできず、感知不可能の攻撃もできる。

 逃げようと思えば、一瞬で宇宙の彼方まで跳べる。

 おそらくは無事だろう。

 ワイスも、対抗できる者の1人。

 最高位の呪術師であり、強力な呪術をいくつも使える。

 その1つに、自分の近くにいる者の分身を作る術がある。

 見た目は、本体より少し黒い以外はそっくりだ。

 分身の能力は、本体と全く同じ。

 それを複数体生み出せる。

 弱点は、敵がどんなに多くても100体しか生み出さないこと。

 後は、超遠距離まで行かれると分身が作れないこと。

 しかし、ワイスを倒せる同じ強さを持つ100人以上を集めるなど不可能に近いし、超遠距離からの攻撃はワイスなら対処も容易い。

 リーンが来た時は、リーンの分身を数十体作った。

 流石のリーンでも、自分の数十体の分身を前にワイスを殺すは不可能だった。

 それでも、リーンはワイスとどうにか距離をとって逃げて行った。

 ワイスも深追いはせず、さっさと撤退した。

「本気で殺しにいくべきじゃったかもな。」

 フォルネウスとワイスは、リーンにすら対処できる存在だ。

 しかし、無敵ではない。

 400年ほど前に、自由気ままな7大悪魔の統括であった闇の王なら2人にも一応の対抗手段を持っている。

 闇の王と魔王が組まれたら、おそらく勝てない。

 しかし、絡め手が得意な闇の王では、脳筋スタイルの光の王と真っ向勝負では少し武が悪い。

 もともと世界は、魔王と闇の王、神と光の王の対立によってバランスをとっていた。

 魔王と神が不在な今、リーンが世界にどんな影響をもたらすのだろうか。

 ワイスはいつの世も、呪術を使って世界を覗きながら自分の呪術の研究をして、静かに暮らしているだけだった。

 たまに少ない友人と会う以外は、基本的に引きこもっていた。

 そんなワイスにとっても、世界が滅亡してしまうのは惜しい。

 ワイスは、関わりたくなかった世界に接触を持とうとしていた。

 それはリュウが暴れた400年ほど前、それ以来の事だった。








 リード軍事学校、中等部、1年のフロア。

 リョウコは、電磁場を発生させながら逃げ回る。

「これは、私では勝てませんわね」

 追ってくるのは16、17歳に見える、長い銀髪の、無表情の少女。

 白いパーカーを着て、黒いジーンズを履いていた。

 彼女は、人造人間ロゼ。

 反発能力を使って自身の体を飛ばし、リョウコを追う。

「なかなか早くて面倒…」

 ロゼは抑揚のない声で言うと、手でピストルの形を作りリョウコに向ける。

 指の先から弾丸サイズの衝撃が放たれ、リョウコの肩に当たる。

 リョウコは、バランスを崩すがそれでも進む。

 リョウコの戦闘スタイルは、体の周りに硬い膜を発生させ、電磁場で加速し敵を叩くというのもだ。

 しかし、ロゼの反発の能力の所為で近寄ることができない。

 ならば、逃げて味方を見つけるしかない。

 さらなる敵と会うかもしれないが、他に手段がない。

 自分が把握している1年部には、ロゼに勝てる者はいなかった記憶がある。

 リョウコは2年部に望みをかけて、階段まで行き駆け上がる。

 登りきったところで、再度リョウコに衝撃が襲う。

 今度は全身に衝撃が走る。

 吹き飛ばされ床に転がるが、どうにかまだ動ける。

 しかし、リョウコは体をかなり痛めており、もうロゼに後ろを向けて逃げるのは無理だ。

 リョウコは、ロゼと正面に向き直り、防衛と回避に徹する姿勢をとる。

「残念。鬼ごっこ、もうおしまい?」

 ロゼが無機質な声をリョウコにかける。

 リョウコはそれを無視して決意を口にする。

「さて、少しは時間を稼がせて貰いますわよ」

 リョウコは、覚悟を決めた顔をする。

 それは、ロゼを倒せる援軍が来るまで、時間を稼いで見せるという決意の表情だった。

 ロゼはそれを嘲笑うかのように小さな笑みを浮かべ、再度手でピストルの形を作りリョウコに向ける。

 硬い膜を張ったリョウコでも、ロゼなら近づけば瞬殺できる。

 しかし、ロゼは主人であるローガンに好きにやれと言われている。

 リョウコをいたぶり殺すのも一興だろう。

 ロゼの指の先から見えない衝撃が、リョウコに向かって何発も放たれる。

 リョウコが身を構える。

 そこに、少年が手足からレーザーを放ちながら飛んで来る。

 少年がリョウコとロゼの間に割って入る。

 ロゼの放った見えない衝撃を何発も浴び、倒れそうになるがすぐに持ち直す。

 それは黒髮の少年だった。

 重厚そうな機械仕掛けの黒いコート、機械仕掛けの服、機械仕掛けの小手、機械仕掛けのグローブ、機械仕掛けのズボン、機械仕掛けのブーツを纏う少年だった。

 その少年は、装備を整えたユウキだった。

「大丈夫かい?そこの人」

 ユウキは、ロゼの方を向きながらリョウコに言う。

「ええ、大丈夫ですわ。わたくしはリョウコ。あなたのお名前は?」

「僕はユウキ。こんな格好だけどここの生徒だよ。」

「理解しましたわ。そこにいる女性は侵入者の1人です。どうかご助力願えませんか?」

「勿論だよ。リョウコさん。でも…」

「ええ。かなり強いですわ」

 2人は、ロゼを見る。

 ロゼが無表情でこちらを見ているが、2人を逃す気はないようだ。

「僕は不死者なんだ。囮になる。君は逃げて。」

「了解しましたわ。強い味方がいましたら、こちらに来るようにご助力願ってきますわ」

「うん。よろしくね」

「はい」

 リョウコは、ロゼとユウキを背に足早に去ろうとする。

「逃がさない…」

 ロゼは、指から衝撃を放つ。

 今までとは比較にならないほどの威力を持つ衝撃。

 ユウキは、自らそれに飛び込む。

 装備を纏っているにも関わらず、ユウキの肉体が粉々に弾け飛ぶ。

 肉体が完全に液体になる。

 あまりの事に、リョウコも少し振り返る。

 それでも、装備の骨組みとユウキの骨格だけは健在だった。

 その骨格は人工物のように加工されていた。

 瞬時に、装備とユウキが復活する。

 ロゼは、驚いて少し止まってしまう。

 リョウコもかなり驚くが、ユウキの無事を確認するとその場を立ち去る。

「不死者と言うのは本当みたい。それに骨と装備もかなりの素材。神器に近いの堅さ…」

 ロゼは、相変わらず無表情で言葉に抑揚がないが、驚いているようだった。

 神器は、神や魔王の所有していた武器。

 ロゼは、さっきの攻撃でユウキを本気で消し飛ばそうと思った。

 遠距離の破壊攻撃としては、ほとんど本気。

 それに耐えるということは、神器に近い硬さだということ。

 しかも、ユウキの装備と骨は作られた物のようだ。

 神や魔王ですら神器はもう作れない。

 ユウキの装備は今作れる物の中では最も固いものかもしれない。

 考え込んでいるロゼに向けて、ユウキがレーザーを放つ。

 かめはめ波の姿勢だ。

 手のひらに開いた両手の穴からレーザーが合わさり、ロゼに向かって放たれる。

 見た目は、まさにかめはめ波だった。

 その威力は、両手のひらから合わさったことで爆発的に増していた。

 その合わさったレーザーはユウキによって絶妙に調節されている。

 危うさも持つレーザーだが、それでもロゼに向かって真っ直ぐ飛んでいく。

 しかし、そのレーザーはロゼの1メートル手前で止まっている。

 ホースから放水された水が壁に当たるように、見えない壁にレーザーが遮られる。

「これもなかなかの威力…」

「これでも全く効いてない。なんて強さなんだ」

 ユウキには他にも手はあるが、勝てないだろうと確信する。

 無駄に魔力は消費できないので、ユウキはレーザーを止める。

 そのタイミングで、ロゼがユウキに向かって突進する。

 瞬時に距離を詰めたロゼは、ユウキに殴りかかる。

 ロゼの右腕のパンチを、ユウキのレーザーで加速した左腕が受ける。

 今度は装備の骨組みとユウキの左腕が骨ごと吹き飛ぶ。

 ロゼ直接殴りかかれば、神器以外のものは全て破壊可能だ。

「そんな馬鹿な。クラウスさんの装備が壊れるなんてありえない」

 驚くユウキ向かって、更にロゼの左腕のパンチが飛んでくる。

 今度はユウキは防御せず、拳が顔面に当たる。

 ユウキは、自分の顔を吹き飛びながらも逃げる。

 顔面が復活したユウキがぼやく。

「あんな啖呵切ったのに情けないけど、クラウスさんの装備を壊すわけにはいかないしな」

 この辺りには、もう生徒はいない。

 ユウキが粘ってもすぐに装備と自身の骨格を破壊され、復活もできないかもしれない。

 ユウキは、逃げるために手足からレーザーを本気で放つ。

 ロゼはそれでも追ってくる。

 ユウキは壁を突き破り、外に出る。

 ロゼに追いつかれないように上空に上っていく。

「逃げられた…」

 ロゼは残念そうに呟く。

 ロゼは、リョウコとユウキ逃げられた事に憤怒する。

 何処かにイライラをぶつけてやる。

 そう思っていると、1人の凶々しい大剣を持った少年が目の前に現れる。

「3年もかなり死んでたが、2年の方が酷いな。やっぱ役に立つ教師は高等部にしかいねーか。まあ、敵も強かったしなー」

 邪悪な笑みを浮かべて、ロゼを見る。

「これはまた、かなり強そうじゃねーか」

 凶々しい大剣を持った少年、リアムはそう呟いた。

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