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ワールドサーガ   作者: 唯辻
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004 レオンvs炎の魔術師

 ローレン大陸、人間の国の近くの町、大きな屋敷の一室。

 1人の女性が、自室でワインを飲んでいた。

 見た目は、20代前半だが、黒いドレスを纏った、落ち着いた態度は、往年の女優のような魅力と風格を持っていた。

 彼女の長い赤髪は青みがかっていて、美しい水色のにも見てる。

 彼女の名前は、ウリエル。

 彼女がいるのは、人間が自治権を獲得している範囲が、100分の1にも満たない広大なロールン大陸。

 その大陸には、人間の国は2つの宗教国家しかない。

 そんな宗教国家のどちらの所属でもない、都市部から離れた田舎町に、彼女は住所を構えている。

 彼女は、周りの一帯を取り仕切っていた。

 市長をやっているとかではなく、マフィアのボスのようなものだった。

 しかし、そんな地位も彼女の力を考えれば、小さすぎるものだった。

 彼女は、元評議会の天使。

 その中でも最強の7人の内の1人だった。

 しかし、彼女は評議員という地位では満足できずに他の天使達と勢力争いをした。

 結果、強者であるウリエルに対抗しようと他の評議員が結託して、彼女を墜した。

 そして、今は堕天使という立場になり、静かに地上で暮らしていた。

 もう1人の強者であったガブリエルは、配下もおらず、勢力争いにも関わらなかった。

 周りが騒ごうが全く気にせず、力があるのに勢力を持とうとしないガブリエルの態度は、ウリエルには理解できなかった。

 しかし、敵も作らなかった彼女の態度は正解だったのかもしれない。

 ガブリエルは、そこまで考えていたのだろうか。

 いや、あの何を考えているかわからない無口な態度は、実際に何も考えていなかったのだろう。

 そういえば、妙な話を最近聞いた。

 ウリエルは、天界の状況をかつての配下を通じて得ていた。

 その報告にあったのが、ガブリエルが、人間を拾ったとかいう話だ。

 おそらくは、ただの気まぐれだろうが少し驚いた。

 小間使いを得るために人間を拾うことがあるが、彼女は手放したらしい。

 性別は男だったらしいので、拾った理由は、性的な目的だろうか。

 すぐに手放したのだから、遊びの関係と言ったところだろうか。

 しかし、彼女が男を誑かすというイメージが湧かない。

 彼女で思い浮かぶのは、純愛なイメージだ。

 彼女が、男とイチャついている姿が頭に浮かび笑ってしまう。

 そんな事あるわけがないが、見てみたいとも思う。

 そんなくだらないことを考えていると、懐かしい気配が、自分の支配している町に入ったのを確認する。

 すぐに危険に気づけるように、常に自分の町の周りには、感知系の結界を張ってある。

 その気配は自分よりも強大な力を持つ人物なので、気配を隠蔽しようと思えばできただろうが、はっきり誰か分かるほど強く気配を感じる。

 昔の上司にあたる人物だが、そいつに向ける感情は殺意しかない。

 光の王、リーン。

 当時、あの暴れん坊の所為でよく後始末に追われたものだ。

 400年ほど前に、リュウという人間のおかげでその仕事はなくなったわけだが、今でもふつふつと怒りがこみ上げてくる。

 リュウは、あの混乱以降は世界の災厄と言われているらしいが、ウリエルは彼に感謝しているくらいだ。

 敵である闇の王は、私以上にあの女に面倒な目に遭わされていた。

 噂では、闇の王は自分の面倒ごとを終わらせてくれたリュウに心酔しているとか。

 ウリエルは、流石にそこまで思わないが、彼がこの町に来たら自分の工場で扱っているワインを好きに飲んでくれて構わないくらいには思っている。

 とにかく、リーンという厄介者が来たたわけだが、何の用だろう。

 最近は、7大悪魔と遊んでいるらしいという情報が入ってきていた。

 今更、私に用があるとも思えないし、この先にある海の方に行くのだろうか。

 それならば、目的地は海外になる。

 少し気になる。

 海外よりもよっぽど、この大陸の方がリーンの遊び相手がいるだろう。

 追跡してみようか。

 最近は町を出ていなかったので、遠出したいと思っていたところだ。

 彼女の状況は、知っておいて損はない。

 天使は移動速度が速く、自分は中でもトップクラスだ。

 あのでかい気配なら何とか追跡くらいはできる。

 部下宛に置き手紙を適当に書き、家を出る。

 気軽に追跡しようと思ったが、まさか大気圏を超えた超上空を通り、人間の大陸であるブラストル大陸まで行くとは思わなかった。

 しかも、その後、ブラストル大陸の付近で、リーンが急に気配を消したので見失ってしまった。

 付いていくのがやっとだったので、帰り道が分からない。

 誰かに帰り道を聞こうかと思ったが、ブラストル大陸の人間は、海外のことをほとんど知らない。

 リーンと帰る方法を探す日々は、結果的に数ヶ月続いた。

 勝手に追跡したのは自分だが、リーンに関わるとやっぱりロクな事がないと思った。







 レオンはそんな状況ではないと分かっていながらも、一瞬呆然としてしまった。

 教室の中の全てが、焼けていた。

 壁、天井、床、机、椅子、そして教師、子供。

 1クラス40人の子供は、全て焼けている。

 実際は、全員なのかは見ても分からない。

 ほとんど燃えカスになっている人もいるため、何人なのかが分からないからだ。

 しかし、おそらく間違いないだろう。

「糞があぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎‼︎」

 それでも、すぐに叫びながら1番近い音のする方に向かう。

 もう6つも静かな教室を過ぎた。

 ほとんど教室は、見た教室と同じ状況だろう。

 叫んでいるのは、これらの事を行なった人物への怒りと自分の無力感への怒りをどうにか発露し、冷静に体を動かすためだ。

 教室は、一直線の廊下に並んでいる。

 とんでもない馬鹿だど、自分を責める。

 真っ先に、1番近い音のする教室に向かうべきだが、教室を1つ覗いてしまった。

 教室には鍵をかけることも可能だが、いきなり侵入されるというのは想定外過ぎたようで、扉は開いていた。

 破壊された扉は、1つだけだ。

 他の教室も気になるが、もう迷わない。

 音の元である5クラス目の教室を開く。

 さっき見た教室のように全てが焼けているが、さっきの教室にはない生きた人が1人いた。

 そこには、1人の男が立っていた。

 黒髮の黒いコート、黒い服に黒いズボンの男。

 黒いイヤリングに黒い指輪まで嵌めている。

 落ち着いた態度で、こちらに向いた男はタバコを加えていた。

「ふむ、また厄介そうな相手だな」

 そう言った黒い服の男の足元を見ると、黒焦げの女性教師らしき髪の長い死体が転がっていた。

 ここまでに得た情報から、レオンは全てを理解する。

 おそらく、この男は、いくつかのクラスの人間を易々と焼き殺し、ここで足元にいる教師と戦って殺し、今に至ったのだ。

 それを理解した後は、憤怒の感情だけが全ての思考を塗り潰す。

「ああああああああああぁぁぁぁぁ‼︎」

 叫びあげながら、その男に迫る。

 しかし、怒りに満ちていながらも戦略は間違えていない。

 この黒服の男が優秀な魔術師であることは、焼けた教室から理解できた。

 すぐに接近戦持ち込むしかない。

 強い魔術師相手では、光の魔法を発動し玉を矢にして放っても、簡単に塞がれてしまう。

 ならば、接近戦で剣と魔法を直接叩き込む。

 他の選択をしていれば、レオンはその男と戦いにもならなかった。

 それほど実力差があった。

 だからといって、逃げるというレオンには選択肢はない。

 絶対に殺してやる。

 一瞬の迷いもない動きで、距離を詰める。

 手には、魔法によって光り輝くレイピア。

 魔法を通せるそのレイピアは、魔法を纏わせることで、強度と切れ味を上げることができる。

 それを見た魔術師は、こちらに手を向けながら、火の魔法を発動させる。

 レオンは、それでも距離を詰める。

 恐ろしい熱量を持ったその魔法がレオンを襲う。

 レオンは即座に左腕に光の魔法の盾を発動する。

 それでも防ぎきれず、左半身が肉が剥き出しになるほど焼ける。

 盾にした左腕は、ほぼ炭化していた。

 しかし、やられてばかりではない。

 炎を左半身で受けながら、右腕から輝くレイピアを投げる。

 近距離で投げられたレイピアは、魔術師の左肩を貫き、ウデを吹き飛ばす。

 あまりに無理な体勢で投げたので、レオンはその場に転がる。

 体勢を立て直した場所は、魔術師の3メートル先。

「「があぁ!」」

 お互いの体に、地獄のような痛みが襲うが、それでも痛がっている暇はない。

 レオンは、魔術師の腕のない左に回り込みながらさらに近づく。

 もう投げるレイピアはないので直接叩くしかない。

 魔術師の右腕がレオンを追いかける。

 それよりも早くレオンが黒服の男の元に到達する。

「ちいぃぃぃ!」

「死ねぇぇぇぇ!」

 レオンが拳を魔術師の顔面に叩き込む。

 同時に魔法も発動する。

 触れた瞬間に魔術師の頭を吹き飛ぶ。

 2人が床に崩れ落ちる。

「ぐああああぁぁぁぁぁぁぁ!」

 レオンが、右手で左半身を抑えながら絶叫する。

 いままで堪えいた痛みが、戦闘を終えたことで一気に襲う。

「はあっ、はあっ、はあっ、はあっ…」

 歯を食いしばり、なんとか呼吸を整えようとする。

 勝利はしたが、これ以上戦うのは難しい。

 左腕は焼けて崩れ落ち、左半身は顔面から足の先まで大きく焼けていた。

 最後に殴りかかれたのが、アドレナリンが出ていたとはいえ奇跡だった。

 もう戦闘をするだけの動きはできない。

 それでもレオンは、どうにか相打ち覚悟で、もう1人殺せないかと考える。

 それが出来れば、多くの子供を救える。

 しかし、レオンは未だに一歩も動けずにいた。






 リード軍事学校、中等部、2年13組の教室に自分の血で真っ赤に染まっている男子中学生が立つ。

「はあ、やっと勝てた」

 足元には、軍服を着た老人が血塗れ倒れている。

 しかし、立っている男子中学生が流した血の量は、その数倍はある。

 黒髮で、柔らかい表情の少年。

 彼の名は、ユウキ。

 ユウキは、数少ない自分の魔力量に応じて自動回復能力を持つ人種の中でも、さらに希少な不死者と呼ばれる体質を持っていた。

 ユウキは魔法の発動ができないにも関わらず、異常な魔力量も持っている。

 その2つを持つユウキは、簡単には殺さない。

 実際に、軍服の老人には7回分は殺された。

 恐ろしい相手だった。

 ユウキは、ある人物から高度な戦闘訓練を受けていた。

 その人物から貰った武器を持ち、数々の場所を襲撃した実績も持つ。

 普段からレーザーを発生させる小手だけは、右腕に付けていた。

 魔法を発動できない代わりの武器だが、異常な魔力量持つユウキが使えばかなり強力な武器になる。

 その小手でレーザーを発生させながら、死を恐れぬ攻撃を軍服の老人に仕掛けた。

 しかし、老人は恐ろしい速さと動きで回避しながら、ユウキを斬りまくった。

 それでも、レーザーが老人を少しづつ削っていき、動きが鈍ったところで急所を貫いた。

 血で真っ赤に染まりながらも、勝利した。

 クラスの他の面々は、女子から男子までドン引きである。

 先生まで引いている。

 彼らを守る結果になったのに、血塗れのユウキ近寄ろうともしない。

 そんな空気に、少し嫌な思いをしつつもユウキは彼らに話しかける。

「先生、急いで脱出口開いて下さい。みんなも早く逃げて」

「そ、そうだな」

「う、うん」

 そんな彼らを確認してから、彼は他の生徒たちを助けるために教室を出た。





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