013 襲撃の終幕
リード軍事学校、初等部、屋上。
黒い瘴気を纏い両手に長剣を持つ幼女と、8枚の翼を持つ天使が戦っていた。
「なんて強さなの!私と本気で張り合うなんて!」
「殺しきれない…私もまだまだか」
絶叫する天使、ウリエルは飛び回りながら複数の天使の聖剣を操る。
天使の聖剣は、天界に存在するものだけが扱える技の1つで、使用者が作り出す魔力の塊の武器。
通常は1つの武器をを作り操るのだが、其の者のレベルによって威力も数も変わる。
ウリエルは、16本の矢のような形状にして高速で何度も敵に襲われせる。
天使全体の中でも最高クラスの聖剣だが、相手はそれを剣で受けながら迫ってくる。
その相手の幼女、シエラは自分の力を全て解放して本気でウリエルに斬りかかる。
1つ目は聖人、真の聖騎士とも呼ばれており、特定の訓練を積むことで、神の守り手として力を得た人間である。
2つ目は勇者、勇者候補とも呼ばれており、その才能を覚醒させ、人の守り手として力を得た人間である。
3つ目は魔人、魔界の者達の力を得た者で、大概は者は死ぬか、理性を失った化け物になる。
それらの資格を得ているシエラは、世界全体を見ても最高クラスと言える動きで、両手の剣を振るう。
さらに魔人の魔力を纏いなから、それをウリエルに毒のように流し込む。
「まさか、今日だけで理性のある魔人を3人も見るなんてね。くう〜〜、効くわね!悪魔の魔力!」
「ぐっ!こんな相手と互角なんて…やはり、真の勇者にもなるべきかも」
2人の実力は互角。
お互いに傷をつけ合うが、致命傷を負わせるには至らない。
埒が明かないと感じたウリエルが、遥か上空にむかって飛んで行く。
シエラも魔法で足場を作れるが、飛行能力で勝る天使から一旦は距離を取る。
「ねぇ、見逃してくれないかしら?もう、帰るからさ」
「仕掛けて来たのはあなたの方でしょ。でも、あなたと戦うは私も避けたい。それにしても、どうして襲って来たの?」
「優秀そうな子がいたから、傷を負わせて天使にしようかと思ったのよ。そこの男の試運転も兼ねてね」
そう言って、シエラに瞬殺されたバートンを指す。
彼にとっては散々な1日であった。
「でも、無理みたいね。私が配下にできるような存在じゃないわね、あなた」
「そんなの当たり前。もっと力を付けて、次はあなたを殺す」
「マジで怖いわね。できれば、仲良くできないかしら?」
「私の不利益にならないなら大丈夫。利益になるように努めて」
「は、はい、分かったわ…でも、私はリュウに用事があんるだけど」
「なら、ここから動かないで」
「りょ、了解」
ウリエルは、引きつった顔で答えるとバートンの元に降りて傷を癒す。
戦意がないことを確認したシエラは、中等部と高等部の方を眺める。
「今の私だと危うい相手がまだいる。もっと力を付けていかないと」
今日、シエラは強い存在をいくつも目にした。
そして、当たり前のように世界最強を目指す決意をするのであった。
リード軍事学校、グラウンド。
「はぁ〜。そろそろ、全て消そうかしら」
リーンは、飽きていた。
小汚い老人の後に出てきた少女に期待を寄せていたが、大したことはなかった。
小汚い老人、エディが己の力を使い切った一撃の数倍の攻撃が何度も飛んで来るだけだ。
人間の力としては面白いが、油断しなければ擦り傷も付かない。
期待を寄せていた少女、アリシアはエディと比べものにならないほどの力を持つが、リーンにとってはドングリの背比べだ。
アリシアが力を使い切るほどの攻撃をしないと、本当の意味でリーンに通じることはない。
しかし、電磁加速砲では弾丸の強度は魔力であげられるが、これ以上の威力を上げると周りに被害が出てしまう。
「かなり負担ですが、やるしかありませんわね」
グラウンドの近くにいるアリシアはそう言うと、電磁加速砲を発射させる。
「またなの?あれも壊そうかしら」
つまらなそうに言うリーンに、弾丸が飛んでくる。
また砂が舞っても嫌なので、剣を振って遠くにあるうちに完全に消し去る。
「さてと、終わりにしようかしらね。あら?」
リーンの頭上に4つの重力玉が重なっている。
「人を舐めすぎるとどうなるか、私が教えてあげますわ」
アリシアは、重力玉に本気で魔力を流し込む。
凄まじい重力が、リーンを襲う。
「ぐっ‼︎‼︎」
あまりの圧力に、リーンすら体制を崩す。
ここに来て初めて、リーンは戦闘を意識する。
それほどの強力な魔法だった。
「重力玉にあんな使い方が?」
「ない事もねえよ。かなりの技量が必要だかな。」
校舎の中からモニターを眺めるジニーとエディがそれを見て感心する一方で、リーンも驚いていた。
まさか、ただの人の身でここまでの力を見せるとは思わなかった。
しかし、その攻撃はリーンに戦闘のスイッチを入れてしまった。
「褒めてあげるわ人間!そして、死ね!」
リーンが上に剣を振ると、重力玉は全て切り裂かれる。
続いて、アリシアに向かって剣を振る。
その一振りは、巨大な斬撃となってアリシアと高等部の校舎がある方に飛んでいく。
方向にあるもの全てを消しとばすほどの攻撃であった。
「ふふ、これはヤバいですわね」
魔力をほぼ使い切ったアリシアでは、おそらく自分の身も守れない。
「ははっ…ジニーちゃんと死ねるなら悪くないかな」
「嫌!嫌!嫌!嫌!最悪よ‼︎」
「俺、泣くわ…」
エディとジニーは死を悟って、若干おかしくなる。
他にも、高等部にいる斬撃に気付いた者は皆が死を悟っていた。
「申し訳ありません、皆さま。じゃあね、アリス」
アリシアすら死を覚悟する。
それ程の一撃の前に、人くらいの大きさの魔法陣が開かれる。
そこから、幼女が現れる。
両手に剣を持ったシエラだった。
シエラは手をクロスしてから、両手の剣を大きく振る。
それは光り輝く巨大な斬撃となって、リーンの斬撃を切り裂く。
「ありえませんわ…」
思わず、アリシアは目を見開く。
「うわあぁぁぁぁぁ、すげえぇぇぇぇ!」
「なにあの子?!」
エディとジニーも歓喜と驚きの混ざった声を上げる。
リーンの攻撃を裂いたシエラは、地上に降り立つ。
服が若干焼けているが、魔力で体を覆っていたのでほぼ無傷だった。
「ふう、何気無い一撃でこの様か。神器も欲しいところ」
落ち着いた様子で立つシエラを、リーンは歓喜の視線で見つめていた。
「はははははははは!これは楽しそうね!」
リーンは笑顔で、シエラに向かってさらに剣を振ろうとする。
しかし、それは目の前に出て来た男に止められる。
リーンの剣を目の前で剣で受け止めたのは、引きつった笑顔を浮かべるリュウだった。
「おいおい…俺より美味しいところ持ってったあの子誰だよ」
「あら、リュウ。久しぶりね」
「ああ、そうだな。だが、会いたくなんてなかったぜ、リーン」
「寂しいこと言うわね。なんでよ?」
「こうなるからだよ!」
その言葉をきっかけに2人は激しい斬り合いが始まる。
山を切り裂くほどのリーンの剣を、リュウも剣を振るって抑え込む。
それでも衝撃は、大きく校舎を震わせるほどのものだった。
「楽しいわね、本気で斬り合あるなんて久しぶり。でも、そんな剣で受けきれるの?」
「そんな剣って、、、いい剣だよ、これ。色々と使えるんだぜ」
「そのようだけど、神器はどうしたの?」
「また今度見せてやるよ。お前を殺す時にな。」
「あら残念。あなたはここで死ぬのに」
リーンはそう言うと、空に飛び上がって行った。
リュウは追いかけずに、空を見据える。
「どういう意味だ?いくらお前でも、そう簡単には殺らせないぞ」
「見せてあげるわ」
リーンの元に上空から1000を超える影が集まってくる。
その場にいるものは全員が釘付けになる。
それは、世界の終末を思わせるほどのエネルギーを感じさせた。
「なるほど。俺だけじゃ、話にもならんわ…」
リュウが冷たい汗を流しながら言う。
1000を超える影の正体は、全て天使だった。
複数の階級の天使が居たが、評議員クラスだけでも、40を超えていた。
「余興はここまでよ。これから私が世界を塗り替える。初めはあなたよリュウ。400年前にそれをしたあなたが相応しいわ。ここで消えて無くなれ」
その場にいる、皆が絶望に包まれる。
リュウだけでなく、ここにいる全てのものがこの世から消え去ることを意識する。
そんな中で、一番の標的であるリュウは未だに強い瞳でリーンと天使たちを見つめていた。
「あなたの絶望する顔を見たかったのに、残念ね。死を恐れないのか、自分だけは逃げ切れると思っているのか分からないけど、無理よ」
「そうじゃねえさ。これはここでの決戦もありそうなんでな。腹をくくってたところだ」
「無理よ。流石にあなたでも、話にならないわ」
「ああ、俺だけじゃな」
「どういうこと?」
リュウの隣に影が見えたかと思うと、そこにフードを被り杖を持った幼女が現れる。
「リーン、お前の思い通りにはいかんぞ。儂がお前を殺してくれるわ」
「ワイス…」
リーンは顔を歪めながら、ワイスを睨む。
「やはり、あなたが最大の障害ね。引きこもってればいいものを」
「起こしたのは、お前じゃろうが!」
「さて、やるか?」
リュウが強い視線で、リーンに問う。
「やらないわ。予定が狂ってしまったもの。あなたを絶望と共に殺したかったのに…決戦なんてするつもりはなかったもの。でも、次はやる気満々で来るわよ」
「ああ、嫌だけど覚悟はしとくよ」
2人の間で一時休戦の合意がされると、リーンは天使達と共に天空に去っていこうとする。
「逃がさんぞ!」
「は?」
ワイスが杖を掲げて、分身を作る用意をする。
「おい、やめろ!」
ワイスはリュウを無視して、リーンの分身を作る。
100体のリーンの分身が、リーンと天使に襲いかかろうと飛んでいく。
それを見たリーン本人が、100体に分裂する。
「は?まさか悪魔の力か?」
「なんじゃと!これは、まるで闇の王のような…」
リーンが分裂すると同時に分身体が100分の1に弱体化する。
「ワイス!相変わらず、空気を読まないわね!やれ!」
リーンの指示で天使達が攻撃の準備をする。
「まずい、神の雷だ。地上に落ちる前に止めろ。」
リュウが周りの者に呼びかける。
神の雷とは、天界にいるものが扱える技の1つで、魔力を凝縮して爆弾を作って放つ技。
リーンの1人だけは、悪魔の力を凝縮させる。
「おい、ワイス!」
「分かっとるわい!」
ワイスは空に浮いた分身体を弱体化したリーンから、リュウに置き換えて魔法で飛ばし盾にする。
リュウ本人は、自分の持つ神の力で回復力を上げて、一番に強力なリーンの悪魔の力が凝縮した攻撃に突っ込む。
リュウ本人と分身体が、神の雷が炸裂する。
「ぐああぁぁぁぁぁ‼︎‼︎‼︎」
リュウが自信を盾にして、攻撃を受け止める。
分身体も多くの攻撃を受け止める。
それでも、抜けてくる攻撃がかなりある。
シエラが飛び回りながら、複数の転送の魔法陣を作って跳ね返し、何度も相殺をする。
アリシアも、なけなしの魔力を使い切り、電磁加速砲を撃つ。
リアムが傷付いた身体をなるべく大きくして、決死の特攻をする。
ユウキがレーザーを撃ちながら、身体を盾にする為に突っ込む。
リード軍事学校の怪物達が身体を砕きながらも、天使の雷を止める。
ほとんどの攻撃が地上に落ちる前に止めらる。
10分の1以下まで抑えられた、天使の雷が地上に落ちる。
校舎が吹き飛び、地上に大きな穴がいくつも開く。
高等部、中等部が吹き飛ばされて、中にいた人が投げ出される。
「なんじゃこりゃ〜!」
「何なのよ、これ?」
肩から血を流すショーンと、腕に火傷を負ったヒストリアが出てくる。
2人は持ち前の身体能力で崩壊する校舎から出てくる。
アリスとアレン、ココとコニーは先の2人に守られる形になっていたので、ほとんど無傷だった。
「ちょっと、触んないでよ!」
「ぎゃーー‼︎‼︎刺すな!」
「ありがと、兄さん」
「いいから、頭を低くしろ」
男性2人が女性陣を庇うが反応は違うものだった。
「流石だな、ケイラ」
「助かるぜ、ケイラ」
「はいはい、分かったわよ」
生徒会3人組は、ケイラの物理魔法で難を逃れていた。
他にも30人程が投げ出される。
初等部だけは、屋上からウリエルが守っていたので無事だった。
空を眺めると、リーンと天使達は姿を消していた。
崩壊が収まり、飛んでいた人達も地上に降りてくる。
リュウは地上に降りると、隠しておいた神器リジルを地面に突き立る。
その剣から学校を包み込むほどの光を放つ。
襲撃者達の洗脳が解かれる。
「闘いは終わりだ!全員大人しく帰れ!まだ、やりてえ奴は俺が相手をしてやる!」
リュウは頭上に剣を振ると、空が一瞬で快晴になる。
洗脳が解かれ、戦意をなくした襲撃者達は各々消えて行った。
「クソっ!逃げられたか!」
「アホか!」
リュウは、ワイスに地面に埋まるくらいの勢いで拳骨を入れた。