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4.7歳の誕生日と、婚約者

軽い恋愛要素が入ります。




 『セプティマ』へと転生してきてから数年後。早いもので、私は7歳の誕生日を迎えようとしていた。7歳という年齢はこの世界においての節目のひとつだ。貴族も平民も、子供が7歳を迎える時は盛大にお祝いするのが通例で、特に貴族の子供はこの時に他家へのお披露目も一緒に行うことになっている。


 そんなわけでやって来た、7歳の誕生日当日。今日の誕生日会の主役である私は、朝起きてすぐに身支度を始めた。


 会の開始は正午から。参加者は関係のある家全てなので、サリオラ王国の王都・アディシエスに住んでいる貴族だけでも100名以上、さらには王都以外の領地に住んでいる貴族を合わせると200名近くの人数が集まることになる。


 しかも今回は、サリオラ王家から国王陛下と王妃殿下、王太子殿下とその妹である第一王女様も参加されるとのこと。これはクロメンティール公爵家が王族一家と深い関わりがあるからこそ実現したことであり、通常は臣下の子の誕生日会に王族が訪れることなどまず有り得ない、という。


 そして本日の会ではもうひとつ、重大な発表がなされる予定となっていた。


 それは―――いずれはクロメンティール公爵家を継ぐことになる私、シスネ・ディア・クロメンティールと、我が国の第一王女であるルーナシルス・アド・サリオラ様の婚約発表、である。


「どうしようか…」


 自室の姿見の前で身だしなみを整えつつ、私はもう何度目かも分からないため息をついた。


 いや、別にルーナシルス王女個人が嫌いなわけではない。むしろ面識が全くないので、彼女については本当に基本的な情報しか知らないのだ。名前と立場と、今年で9歳になったということだけしか。


 それよりも問題なのは、私の意識が未だ女性である、ということだ。この数年間を男の子として生きて、この身体に慣れはしたものの…正直言ってまだ、自身が男性である、という意識が薄い。


 というのも、母親にがっつり寄った顔立ちのおかげで、全くと言っていいほど男の子扱いされないのだ。腰辺りまで伸ばした白銀の髪とも相まって、初見では必ず女の子だと思われる上に、本来の性別を知ったとしても外見が美少女なために扱いは女の子に対するそれだ。むしろ、前世で7歳くらいだった時の方が男の子扱いされていたような気がする…それはそれでちょっと悲しいけど。


「…一応、対応できないことはないのだけどね。私の意識改革を先送りにすれば」


 そう、対応自体は簡単にできる。『男装の麗人』と呼ばれていた黒宮紫苑であった時と同じく、女の子の理想の『王子様』を演じれば良いのだ。それは嫌ではなかったし、それなりに楽しんでもいたから平気、なのだけど。


 けれども。これから先の数十年、それどころか数百、数千年の歳月を共に歩んでいくことになるかもしれない相手に、自分の素をひた隠しにして接することが果たして正しいことなのか。…というか、いずれ結婚して同居することになれば自分の趣味は明らかになるし、それならば最初から素直に伝えた方が良いのではないか。でも、それでは…


「……うー、やめやめ!いま考えても憂鬱になるだけだ。こうなったら、ルーナシルス様とお逢いしてからどうするかを考えよう」


 なんだか思い悩むのが嫌になってきて、私は思考を放棄した。とりあえず、対外的な対応は『王子様』モードで行えば良いのだから、それ以降はもしルーナシルス様と個人的にお話しする機会があったら考えることにしよう。うん、決まり!


 そうと決めてしまえば、元々楽天家の気がある私の復活は早かった。目の前にある姿見で服装の最終チェックをしてから、長い白銀の髪を後ろで弛めの三つ編みにして、濃紺の細い髪紐で結わえる。ちなみに私の現在の服装は、白を基調とした軍服みたいな正装だ。豪奢な装飾は主に金色と銀色で、左胸にのみ深い青色の薔薇が咲いている。


 鏡に映っている姿は、線は細いけれど乙女の理想の『王子様』としては及第点ではないだろうか。というか、我ながら7歳児とは思えないような冷えた美貌だ。今はまだ女性的な涼やかな目元も、きっと成長するにつれてキリリと鋭くなるのだろうことが容易に想像できる。こうして見ると、以前母上が言っていた「瞳が父上似」というのもあながち間違ってはいなかったように思えた。


「初対面で、ルーナシルス様を怖がらせないようにしなくては」


 何故か表情筋があまり動かないので、満面の笑みは難しいけれど…目元を弛めての微笑なら、少しは優しそうに見えるはずだ。そう思って、むにむにと両手で口角を上げつつ笑顔の練習を繰り返していたら、ノックのあとにクレインが部屋に入ってきた。


「シスネ様、大変お美しゅうございます」

「ありがとう。そろそろ時間かな?」

「はい。ご準備はよろしいですか?」

「うん」


 頷いてから、クレインを伴って部屋を出る。会場であるホールの手前で両親と合流して、私は大勢の来賓客が集っている会場内へといよいよ足を踏み入れた。






*






~ルーナシルス視点~



 わたくし―――ルーナシルスは、お父様とお母様、そしてお兄様と共に馬車に揺られながら、本日初顔合わせとなる婚約者について考えていた。


 シスネ・ディア・クロメンティール。今日で7歳となる彼は、王族の血筋特有の白銀色の髪を持つ大層美しい少年、らしい。我が国の宰相であり『導師』でもあるセヴェリス・ゼス・クロメンティール公爵を父に、サリオラ王国魔術師団第1師団師団長を務めるアルカエリス・エル・クロメンティール公爵夫人を母に持つ。


 そして、シスネは…優秀すぎる両親から余すことなく非凡な才を受け継ぎ、さらには7歳にして他を圧倒するほどの実力を身に付けているという。これは、城内ではかなり有名な話だ。


 彼の扱う武術や魔法は既に大人顔負けで、持ちうる知識の量は膨大で。ただし、本日が初披露目なので、彼の人格などについての噂はほとんど聞いたことがなかった。


 いったい、どんな人なのだろう。あまりにも才能溢れる噂ばかりを耳にするものだから、私の中でのシスネ少年の印象は、「浮世離れしたなんだか怖い人」、という漠然とした不安そのものとなっていた。


 そんな不安が表情に出ていたのか、向かいに座っていたお母様が「大丈夫よ」、と私に微笑んだ。


「ルーナの婚約者となる人は、とても素敵な人だと聞いているわ。そうなのでしょう?ソル」

「はい、母上。宰相殿に頼んで様子を見に伺いましたが、お噂通りとても優秀な方でした。見目も麗しく、少し話した限りでは人格的にも問題はないかと」


 お兄様――ソルディアーノ・ユジェ・サリオラ、愛称はソル――の、シスネを称賛する言葉に、私は驚いてしまった。


「お兄様がそこまでおっしゃるなんて…シスネ様は、そんなにも素晴らしい方なのですか?」

「ああ、私にはそう感じられた。いずれルーナの夫となる男だから、けっこう厳しい目で見てきたつもりだが。礼儀正しく柔らかな物腰で、教養も深いようだったから、少なくとも話していて退屈するようなことはないだろう」

「そうなのですか」


 …とりあえず、話が続かなくて気まずい思いをするようなことにはならなそうだ、と思った。それに礼儀正しい人ならば、もし私と性格的な相性が悪かったとしても、無視をしたりだとかはなさそう。


 というかむしろ、わりと気難しい所があるお兄様が絶賛するほどなのだから、私の勝手な想像よりもずっと良い人なのかもしれない。そう思ったら幾分か不安が和らいで、少しの余裕すら出てきた。


 そうなると、気になるのは。


「…シスネ様は、どのようにして剣を振るうのでしょう。というか、一番得意な武器種は何なのでしょうか?お兄様はご存知です?」

「はあ、ルーナは相変わらずだな。まあそう言うと思って、色々と聞いてはきたが…」

「ふむ、やはりルーナが興味を持つのはそこだったか。相手に興味を持つこと自体は悪いことではないし、少しくらいは良いが、程々にしておくのだぞ?」

「そうですよ。いくら気になるからといって、いきなり決闘を持ちかけたりしてはいけませんよ?」

「むう、さすがに初対面で決闘なんて挑みませんわ」


 家族揃って、いったい私を何だと思っているのか。確かに私は身体を動かすことが好きで、魔法よりも武術、特に剣術や槍術、体術が大好きだけれども。ほんの少し、いやそこそこ好戦的なのは認めるけれど、初対面の婚約者に決闘を挑むような戦闘狂では断じてない。


「それよりもお兄様、お聞きになったことをお教えくださいませ」

「シスネ殿の得意な武器種、だったな。一番得意なのは刀だそうだが、大体の武器はひと通り扱えるようだった。実際に訓練をこの目で見させてもらったから、間違いはないだろう」

「刀、ですか。なかなか珍しいですわね。扱いが難しい武器だと聞いたのですけれど」

「そうだな。…ああ、そういえば」

「?」

「シスネ殿は刀術が一番得意だと言っていたが、二番目に得意なのは槍術だそうだ。高度な≪錬成魔法≫の使い手でもあるらしく、自作したというとても美しい刀や長槍を持っていたぞ」

「まあ!」


 それは朗報だ。私が一番熱心に訓練しているのは槍術だし、≪錬成魔法≫で自分の武器を作るのだって私と一緒。これは何としても、シスネ様と仲良くならねば。


 私が内心でそう決意している内に、馬車はクロメンティール公爵家の前に到着した。そしてお兄様にエスコートされながら、私は意気揚々と会場内に足を踏み入れた。


 会場では、予定通り既に誕生日会が始まっていた。私達王家の者は、こういう催しには途中から入場することが多い。今回もそのパターンで、主催者であるクロメンティール公爵に挨拶をしてから、国王であるお父様が来賓客達に壇上から挨拶を述べる。


 そしていよいよ私も、本日の主役であるシスネ様と対面して―――思わず、感嘆のため息をついてしまった。


 背中側で弛く三つ編みにした白銀色の長い髪と、涼やかな蒼い瞳。透けるような白い肌と、薄く色付いた小さな唇。一見すると少女のような端麗な顔立ちに、華奢な体躯。どこをとっても、完成された芸術品のような存在に、私は見惚れた。


 それに、立ち振る舞いも堂々としていて美しかった。彼の胸に飾られている青い薔薇は、彼自身を象徴しているかのようだ…


 そんな感じで呆けていた私は、お父様に紹介されたことで慌てて居住まいを正し、挨拶を述べた。



「初めまして。私、ルーナシルス・アド・サリオラと申します。シスネ様におかれましては、7歳という節目を無事迎えられましたこと、心よりお祝い申し上げます」

「ありがとうございます。改めまして、シスネ・ディア・クロメンティールと申します」


 そう言って、シスネ様は小さく微笑んだ。その柔らかで可憐な微笑みを直視してしまって、ぶわりと頬に熱が上がる。どうしよう、ドキドキしすぎて胸が痛い。


 というか、確かこのあとすぐに婚約発表がされるはずなのに、果たして私は大丈夫なのだろうか。少ししてからお母様に壇上へ行くよう促されるも、すでに緊張して身体が動かない。やはり大丈夫ではなかった。


 どうしよう、と途方に暮れかけた時。シスネ様が「失礼します」、と言い置いて、そっと私の手をとった。緊張に冷えていた指先が、温かな手に包まれて…張り詰めていた意識が緩むのを感じた。


「参りましょう、ルーナシルス様」

「…はい」


 そのまま、シスネ様にエスコートされてお父様が待つ壇上へと上がる。そこでシスネ様と私の婚約が正式に発表されて、会場中に拍手が鳴り響いた。


 とはいえ、やはり全ての人が祝ってくれるわけではないので、様々な感情を込めた視線がびしびしと刺さってくる。一番分かりやすい感情は嫉妬で、これはおそらくシスネ様に想いを寄せている少女達からのものだろう。ただし、私が王家の者だからか、ここで表立って不満を口にする者はいない。


 それでも不快なものは不快で。つい俯きそうになった時、シスネ様が一度離れていた手を再び握ってきた。ハッと彼の顔を見やると、彼は優しげな微笑みを此方へ向けていた。


 それから、私にしか聞こえないような声で囁く。


「大丈夫ですよ」


 …私を安心させるために言ってくれたのだろう、その言葉を耳にした瞬間。私は唐突に理解した。



 ―――ああ、恋って落ちるものなのだな、と。



 ルーナシルス・アド・サリオラ、9歳。2歳年下の婚約者に、あっさりと恋に落ちました。コラそこ、ちょろいとか言わないでくださいませ!






*






~シスネ視点~



 誕生日会での婚約発表のあと。私は正式に婚約者となったルーナシルス様を連れて、会場を出て応接室へと移動していた。国王陛下や父上に、別の場所での休憩を許可されたからだ。


 ルーナシルス様も緊張されていたようだし、これで少しでも休めると良いのだけど。そんなことを考えつつ彼女にソファーを勧め、自分も対面に座ってベルを鳴らす。いつもの如くすぐにやって来たクレインに飲み物を頼んでから、改めてルーナシルス様の様子を窺った。


 …ふむ。初めて目にした時も思ったけど、本当に綺麗な子だな。ハーフアップにした長い髪は私と同じ白銀だけど、つり目がちな大きな瞳は鮮やかな紅で、まるで宝石のようだ。作り物めいた美貌なのに、どことなく活発そうな表情のおかげか、私よりもずっと生き生きしているように見えた。


「…あの、シスネ様。どうかなさいましたか?」

「え?…ああ、すみません。ルーナシルス様の美しさに、つい見惚れてしまいました」

「ふあっ!?…あ、ご、ごめんなさい、変な声を出して…」

「こちらこそ、驚かせてしまったようで申し訳ありません」


 無難な言葉を返しながらも…ルーナシルス様の反応に、私は内心で萌え転がっていた。なにこの可愛い生き物。ちょっとクサかったかなー、なんて思っていた台詞に、ドン引くどころかあんな可愛い反応を返してくれるだなんて。


 少し前まで「私の意識は女性だからな」なんて考えていたくせに、既に「いやもうこんな可愛い女の子となら恋愛できるのでは?」とか考え始めている辺り、私は現金な奴だと思う。


 でもこうなったら、少しでも早くルーナシルス様と仲良くなりたいな。何と言っても婚約者だし、これから何度も逢う機会はありそうだけど。せっかく二人きりなのだから、このチャンスを逃す手はないだろう。


「もしよろしければ、私のことはシスネと呼び捨ててもらえませんか?出逢ったばかりではありますが、私はルーナシルス様ともっと仲良くなりたいのです」

「!…わ、私も、シスネさ…シスネと仲良くなりたいです。それでしたら、私のこともぜひルーナとお呼びくださいませ。敬語も必要ありませんわ」

「わかりました、ルーナ」

「敬語も、必要ありませんわ」

「…ああ、わかった。これで良いかな?」

「はい!」


 ルーナシルス様…ルーナの妙な気迫に押し負けて敬語を取っ払うと、彼女はとても嬉しそうに笑った。いちいち可愛いな、もう。知り合ってすぐで何だけど、ぜひこの子を着飾らせたい。彼女がいま着ている上品な薄桃色のドレスもとても似合っているけれど、もう少しフリルやレースを追加しても良いと思う。あと、髪飾りとかのアクセサリーをもっとこだわってみたい。


 可愛い女の子+可愛い服やアクセサリー=最強。これ絶対。私がそんな方程式を脳裏に描きつつ軽くトリップしていると、もじもじしていたルーナがなにやら意を決したように「あの!」と口を開いた。


「シスネは、刀術や槍術が得意だと伺いました。あと、≪錬成魔法≫が得意だ、とも」

「?…うん、確かにその通りだけれど」

「その、魔法でご自身の刀や槍をお作りになっている…と、聞いたのですけど…」


 ああ、なるほど。もしかして、≪錬成魔法≫で作られた物を見てみたいのかな?≪アイテムボックス≫に愛用している刀や槍は入れてあるけれど、さすがにここでそれを取り出すのは…待った、そういえば他にも魔法で作った物があった。というかいま身に付けている。


「ルーナは、≪錬成魔法≫に興味があるのかい?」

「え?」

「それなら、少し待っていて」


 そう言いながら、左胸に付けていた青薔薇のブローチを取り外す。実はこれ、私が≪錬成魔法≫で作って≪付与魔法≫を掛けた魔導具なのだ。


 魔導具とは、物に≪付与魔法≫によって魔法を込め、予め定めた条件によって魔法の効果を発動させる道具のことだ。≪錬成魔法≫を使わずに作った物にも魔法は込められるけど、魔法で一から作り上げた物の方が効果の高い魔法を込めやすいので、私はいつも後者の方法で魔導具を作っている。


 で、件のブローチには、魔法攻撃を受けたら≪対魔法結界≫を展開するよう魔法を組んだのだけど。どうせなら、と追加で≪対物理結界≫と≪状態異常回復≫の魔法も組み込んだ。


 突然目の前で≪付与魔法≫を使い始めた私に、ルーナは呆然としている。唇が少し開きっぱなしになっていて、とても可愛い。


 やがてブローチに魔法を込め終えてから、今度は≪錬成魔法≫でブローチの留め具部分を変形させて、ブローチではなく髪飾りとして使用できるように加工する。そうして出来上がった青薔薇の髪飾りを、ルーナの片手にそっと載せた。


「これは、私が≪錬成魔法≫で作った魔導具なんだ。いま髪飾りに加工したから、もし嫌でなかったら使ってくれると嬉しい」

「え!?あ、あの、これ、くださるのですか?」

「ああ、そのために作り直したのだから。…もらってくれる?」

「は、はい!…その、ありがとうございます。嬉しいです…」

「どういたしまして」


 あー可愛い。真っ赤な顔で嬉しそうに微笑むとか、反則すぎる。というか私、ルーナと二人っきりになってから「可愛い」しか言ってないね?まあ仕方ないか、実際ルーナは可愛いのだから。


 そんなことを考えながら上機嫌でにこにこしていると、私の顔をちらりと見上げたルーナが何故かさらに頬を染め上げた。彼女の紅い瞳はみるみる潤んで、「はふぅ」、と熱のこもった吐息を零す。


 えっ、もしかして体調不良?そう思って慌ててベルを鳴らしてクレインを呼び出したけど、彼は至極冷静にルーナの様子を窺ってから言った。


「大丈夫ですよ、シスネ様。ルーナシルス王女殿下は体調不良ではございません」

「そうか…慣れない場所で、疲れてしまったのかな?」

「……ええ、おそらくは。少しお休みになれば回復するでしょう。私がお傍についておりますから、シスネ様は一度会場にお戻りください」


 言われて、気づく。そうだ、そろそろ戻る時間だった。ついでにルーナが此処で休んでいることも伝えてこよう。


「じゃあクレイン、お願いね。…無理させてごめんね、ルーナ。ゆっくり休むんだよ」


 部屋を出る前に、ソファーでぐったりしているルーナに声をかけて、その上気した頬を片手で撫でる。それからさっと身を翻して、私は足早に会場へと戻ったのだった。






 ―――そんなシスネを見送ったクレインが、


「全くもう…どうしてシスネ様はああも無自覚なのか…」


 疲れたように小さく呟いたのは、追い打ちを掛けられてダウンしていたルーナシルスだけが聞いていた。






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