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激震 (1)

 その年の十月、事態は急変した。えんの隣国であるちょうが、しんに滅ぼされてしまったのだ。


 燕は、趙とは和戦を繰り返し、幾度となく煮え湯を飲まされたこともある。決して友好国とは言えなかった。しかし、西方の秦との間にあって、秦からの圧力を直接に受けずにすむ盾でもあった。

 

 ところが、秦の王翦おうせんを始めとする将軍達は、趙軍を大いに破り、趙王を捕らえたうえに、都である邯鄲かんたんを占領してしまった。そして王翦は、その余勢を駆って北進し、あっという間に燕との国境付近まで来ると、中山ちゅうざんという土地に駐屯した。これに太子丹は震え上がってしまった。


 趙の滅亡は、燕にとっては迷惑至極な話だったが、実情は趙の自滅に近かった。先代の趙王には、という名の太子がいたのだが、寵愛する側室が生んだせんに位を譲ってしまった。この趙王遷が暗愚で、国を傾けてしまう。そこへ秦がしつこく攻めてくる。それを一人で支えていたのが、将軍李牧りぼくだった。老練な李牧が、秦軍を何度も退けて何とか国を守っているという状態だった。

 ところが、一昨年、趙の北部のだいという地方で大地震があり、その地方の建物の大半が倒壊するという被害を被った。大地は東西に裂け、その幅は、百三十歩ほどもあったという。それに続いて、昨年は大飢饉が襲った。それで、趙の民でさえ、もうだめだと思うようになった。

「趙が泣いて秦が笑う。嘘だと思うなら見ていろよ。地面がそのうち毛を生やす」

という里謡が趙に流行った。妙な里謡ではあるが、「地面に毛が生えると戦乱が起こる」ということが信じられており、そこから生まれた歌らしい。


 五行説ごぎょうせつを説く者たちの言によれば、民衆が悪政に疲れ果てたとき、金気きんきがその本来の性質を失い、地は毛を生ずるという。毛と言っても、草木ではない。毛のような何かである。金気の色は白に配当されるため、これを白眚はくせい、つまり白い過ちあるいは白い災いと呼ぶ。そして、天にあって金気を反映するものは金星、またの名を太白星たいはくせいという。この太白星は、兵革へいかくを司る星である。地が毛を生じ、天に太白星の輝きが狂うとき、この世に戦乱が生じるのである。


 つまり、趙の政治に疲れ果てた民衆の想いが金気の乱れを起こし、それが戦乱を呼び込み、いずれ趙は滅びるであろうという、謂わば、民の嘆きが反映された里謡だった。


 そんな中、あろうことか、趙王遷は讒言を信じて、李牧を誅殺してしまった。傍から見れば信じられないような愚行だが、国家の運命とは、案外そのようなもので決まって行くのかもしれない。唯一の支えである李牧を失った趙は、あっという間に滅んでしまった。この時、趙王遷に位を奪われた形になっていた元の太子嘉が、一族の者数百人を連れて代の地へ逃れ、ここで王位について、代王となった。


 こうして趙は滅び、秦軍は燕国の国境付近までやってきたのだが、一気に攻めてくるかと思われた秦軍がなかなか攻めて来ない。


 来る来ると恐れているものが、なかなか来ない。


 それが却って不気味で、太子丹のみならず、燕王鞠武きくぶも苦しんでいた。しかし、こちらから攻めて、藪をつついて蛇を出すようなことはしたくない。できれば、そのまま撤退してほしいが、そのような様子もない。燕は、苦し紛れに、代王嘉と手を結ぶことにした。しかし、地震で痛めつけられた土地に逃げ込んで立った王が、どれほど助けになるか知れたものではない。太子丹にとって、じりじりと焦れる日々が過ぎていった。


 そのころ、占領した邯鄲かんたんを、秦王政が訪れていた。彼にとっては、生まれた土地であり、幼少期を過ごしたのも、この邯鄲である。しかし、秦王政は、懐かしさのために故地を訪れるような男ではなかった。目的は復讐だった。


 彼の母は、趙の豪商呂不韋りょふいの愛人だった。それを父の子楚しそ、後の荘襄王そうじょうおうが貰い受けたという事情がある。そのため、母やその実家の者を軽んじ、辛く当たる者も多くいた。質子ちしであった父の子楚は、当時、それを黙らせるだけの力を持たなかった。幼かった政は、そのことを決して忘れなかったのである。

 そして、三十二歳になった今、邯鄲を手に入れるや早速乗り込み、それら当時の仇敵を皆生き埋めにしてしまった。例え何年経とうと、仇敵は絶対に許さないという、秦王の激しさを内外にはっきりと示した出来事だった。


 こうして、言わば母の敵を討ったのだが、それが素直に母への愛情からなのかは、周囲の者も解しかねていた。母である太后が、問題の多い人だったからだ。最大の問題は、太后の愛人であった嫪毐(ろうあい)が、太后の威勢をかさにやりたい放題を尽くし、挙句に叛乱を起こしたことだった。嫪毐の叛乱を鎮圧した後、秦王政は、母である太后を都の外へ移してしまう。その後、諸外国への対面もあり、今は太后を都の中に住まわせているが、和解がなったのか否か、未だ側近も測りかねる状態にある。


 その心の裡で、愛情と憎悪がどう絡み合っているのか、それがさっぱり読めない。しかし、それが一旦外に現れると、今回のように激烈極まりない。秦王政とは、そういう君主であった。側近くに仕える臣下にとって、これほど恐ろしい君主はいない。しかし、恐怖だけで国をここまで強くすることは出来ない。他所の国の出身者が、卿や宰相に取り立てられるのが当たり前のこの時代、能力のある者は、国の枠にしばられない。だから恐怖のみで支配するような君主の下に、有能な臣下は集まるはずがなかった。ところが、秦王政の周囲には、有能な官僚や軍人が次々とあつまってきた。その政治が、恐怖のみでないことの何よりの証しであった。


 結局、趙が滅亡したその年は、秦本国で太后が崩御ほうぎょし、農業も不作であったようで、燕への本格的な進攻はなかった。しかし、秦王政の復讐劇は漏れ伝わり、太子丹は、心底恐怖した。秦王政が邯鄲に居たころ、自分も同じくそこに居たのだ。特に辛く当たった覚えはないが、優しく接したわけでもない。その時代に恨みを買っていないとも限らない。ましてや、自分は、秦から逃亡した身。もし、燕が征服され、秦王政に捕まれば、何をされるかわからない。そう思うと、恐ろしくて恐ろしくて仕方なかった。


 先ほどから居室に籠っていた太子丹は、一人、恐怖の発作に耐えていた。じっと座っていたかと思えば、突然立ち上がり歩き回る。背中にも胸にも、ぐっしょり汗をかいている。汗で冷えた体は、がたがた震えだす。とまらぬ震えに、さらに恐怖が増す。


――荊軻、荊軻。もう荊軻に行ってもらうしかない。


 痺れたような頭で、そう考える。しかし、田光の一件で、侠者の扱いの難しさは、身に染みている。しかも、荊軻とは、時期の判断は任せると約束をしてしまっている。


――催促して荊軻を怒らせてはまずい。


と別の不安が頭をもたげる。同時に、また


――しかし、秦軍は、すぐそこまで来ている。もう一日も早く決行してもらわねば。


とも思う。そう思う側から、また別のことを思う。


――しかし、私の言葉で田光先生は……。


もう何度、この堂々巡りを繰り返したか解らない。繰り返すたびに、ますますぐっしょりと汗をかき、肌着が冷たく張り付いて不快この上ない。

 とうとう耐え切れなくなった太子は、自室を飛び出して、荊軻の屋敷へ急いだ。


 荊軻の自室へ駆け込んできた太子は、髪はほつれ冠は傾き、憔悴しきっていた。既に秦軍の動向を聞き及んでいた荊軻は、さもありなんとの思いで太子を迎えた。

「太子様、さあ、ひとまずお掛けになって、落ち着きなされませ」

そう言うと、太子を抱きかかえるようにして牀に座らせた。

 太子は、荊軻の袖に縋ってくる。

「荊卿。秦兵は、もう国境まで来ております。今日明日にも易水えきすいを渡って来るかもしれません。そうなれば、今後も長く足下のお世話をしたいと願っても、とうてい叶うものではございません」

 必死に掻きくどく太子に、荊軻は優しく笑いかけた。

「解っております。太子様のお言葉がなくとも、私の方から拝謁はいえつを願おうと思っておりました」

 太子は、それを聞くと、一気に緊張がほどけたらしく、茫然とした様子になってしまった。荊軻は、太子の横に腰掛けると

「どうぞ、ご安心下さい」

と言いながら、太子の背をさすった。


 暫らくそうしていると、太子も、ようやく落ち着いてきたようだった。それを見計らって、荊軻は、改めて切り出した。

「今、私が秦へ行きましても、軽々しくは、秦王は私に親しみますまい。そこで、私に一つ策がございます」

 ひとまず恐慌状態が治まった太子は、策という言葉に反応して、荊軻のほうに顔を向けた。


 荊軻は続ける。

「太子様が匿っておられるはん将軍ですが、秦王は彼を捕まえるために、金千斤と一万戸の食邑を懸賞としております。そこまでして求めている樊将軍の首。これを秦王が欲さぬはずはございません。これに加えて、肥沃な督亢の土地を献上するとなれば、秦王は喜んで私に謁見を許すでしょう。されば、太子様にお許しを頂いて、樊将軍の首と督亢の地図を携えて秦に参りたいと存じます。それでこそ、これまでの太子様のご恩に報いることができるというものです」

「だめだ、だめだ」

 太子は、激しく首を振った。

「荊卿、それだけはだめです。樊将軍は、秦王に追われて天下に身の置き所が無く、困り果てて私を頼って来られたのです。それなのに、私の都合で樊将軍を裏切るようなことは出来ません。土地ならどれほどでも割譲いたしましょう。事が成るならば、燕一国を引き出物に差し出してもかまいません。しかし、樊将軍はいけません。いくら荊卿のお言葉とはいえ、それだけは、それだけは、どうしても従うわけにはまいりません。どうか別の策をお考えください」

 太子がそう答えるだろうと、ある程度予想していた荊軻は、あえてそれ以上争うことはしなかった。しかし、太子が承諾しない以上、樊於期を捕縛して首を刎ねることはできない。


――樊将軍には、自分から首を差し出してもらうしかあるまいな。明日にでも、出向くとしよう。


荊軻は、腹を括った。


――しかし、樊将軍は殺せないのに、俺を死地へ遣るのは気にせぬのかな。


俯く太子を眺めながら、多少皮肉な気分になった。


――あるいは、曹沫のようなことが、本当に出来ると思っているのか。秦王を脅して占領地を返す約束を取り付けて、その上で生きて帰ってこられると、本気で思っているんだろうか。いやいや、むしろ、決して無理ではないと信じ込みたいのだろう。そう信じれば、俺が死ぬも生きるも、俺自身の力量次第と言うことになるからな。それで自分の責任はごまかせる。いずれにせよ、こんな時代に太子として立つには、心根が優しすぎるということだな。


 そう思うと、むしろ太子が哀れでもあった。


 あくる日の午後、荊軻は、早速樊於期はんおきの住む館へ出向き、面会を求めた。対座した樊於期は、絵に描いたような武将だった。中肉中背の荊軻が見上げなければならない大男で、肩や胸の厚みが衣服の上からでもはっきりわかる。顎にはこわひげが黒々と密集し、大きな鼻の上には、大きな目がぎょろりと光って荊軻を見つめている。

 今から、この男に

「その首をくれ」

と言わなければならない。まったく笑いたくなるような非常識な話だった。


――ここが勝負だ。


 荊軻は、そう己を叱咤して、樊於期に語りかけた。

「単刀直入に申します。秦の、樊将軍に対する仕打ちは、大変惨いものです。父君母君や、ご一族の方々は、みな処刑されてしまわれたと聞き及んでおります」

 樊於期が歯を喰いしばって怒りに耐えているのがわかった。他人の心の傷を抉るようで、荊軻にとっても忍びがたかったが、その怒りを引き出すために、敢えて最初にこのことに触れたのだった。

「さらに、将軍の首を購うために、金千斤と食邑一万戸の報奨を懸けているそうです。将軍は、これをどうされる御積りでしょうか」

 樊於期は天を仰ぐと太い息をもらし、大きな目から、ぽろぽろと涙をこぼしはじめた。

「この於期は、そのことを思う度に、骨の髄まで痛みが走る。しかし、悲しいかな、どれほど考えても、どうしたら良いのかさっぱり思いつかぬ。武辺の者とはいえ、何も思いつけぬ自分が悔しくてならぬのです」

 樊於期は、涙を拭いもしない。

 荊軻は、すかさず答えた。

「ここに、一言で燕の憂患を解決し、将軍の恨みを晴らす方策がございます。どうでしょう。お聞きになりますか」

 樊於期は、ぐっと大きな身を乗り出してきた。

「是非、お聞かせ下さい。一体どうすれば良いのでしょう」

 分厚い体躯が圧迫感すら感じさせる。荊軻は、一呼吸、間を置くと、樊於期を真っ直ぐに見据えた。

「将軍の首を頂戴したい」

 思いがけない荊軻の言葉に、樊於期は目をむいた。荊軻は、かまわず続ける。

「将軍は、秦王に憎まれている。私が、その将軍の首を携えて秦まで行き、秦王に献上します。そうすれば、秦王はきっと喜んで私に謁見を許すでしょう。そのとき、私が左手で秦王の袖を掴み、右手でその胸を一突きにします」

 荊軻は、話しながら、胸を突く仕草をしてみせた。

「そうすれば、将軍の恨みは晴らされ、燕が侮られた恥も雪がれます。如何でしょう。将軍に、その意思はおありでしょうか」

 荊軻の言葉を聞くや、樊於期は立ち上がった。そして、片肌を脱いで右肩を露にすると、左手で右腕を強く握った。太い腕に、筋肉が隆々と盛り上がる。

「それこそ、私が日夜歯軋りしながら求めていた方策だ。荊卿の教えによって、今ようやく答えを得ることが出来ましたぞ!」

 そういうと、樊於期は、いきなり剣を抜き放ち、自らの首筋を切り裂いた。荊軻の眼前で、激しく血がしぶく。どっと仰向けに倒れた樊於期の体から、みるみる命が失せていくのがわかった。あっという間の出来事だった。


――なんという直情径行か。


 逡巡する相手をどう説得するか。それを考えていた荊軻は驚かされた。そして同時に、


――なるほど。


と得心した。


 樊於期が、何故秦で罪を得たのか。荊軻はその理由を知らなかった。秦では嫪 毐の乱の前年に、秦王の弟が叛乱を起こしている。樊於期は、その叛乱に加担していたのではないかという噂もあった。その頃の秦は、若い秦王政が、なんとか実権を握ろうと苦心していた時期で、国内の乱れから噂が飛び交い、はっきりしたことは荊軻にもわからなかった。太子丹を通して面識を得てからも、踏み込んで訊ねることはしなかった。

結局、具体的な事情がどうあれ、樊於期の直情径行が原因だったのだろう。自らの価値観に従い、感情の趣くままに真っ直ぐ進もうとする臣下を、秦王政は許さなかったのだ。樊於期の両親や一族を尽く刑戮することで、他の臣下にも、己の意思を強烈に見せつけたのに違いない。荊軻には、そう思われた。


 この二年余りの間、荊軻は、自分が殺そうとしている男、秦王政について考えていた。秦王政とは、どういう男なのか。様々な噂話から、見たことのないその姿を想像してみようとしたこともあった。しかし、上手くはいかなかった。今日はじめて、その内面を垣間見ることが出来たような気がした。


 樊於期の首は、その剛力によって、半ばまで断たれていた。荊軻が止めを刺すまでもなく、樊於期の命は絶えている。荊軻は、家僕を呼んで、太子に知らせるように命じた。昨夜のこともある。太子には、この有様をそのまま見せ、納得させたかった。


 間もなく太子が駆けつけて来るだろう。日が傾いて寒々としてきた室内で、荊軻は一人待った。樊於期の屍を見ていると、田光のことを思い出さずにはいられなかった。


 田光と樊於期、どちらも荊軻の目の前で自刎して果てた二人だが、その死に様の何と異なっていることか。田光の死は静かだった。譬えてみれば、花が散るように死んでいった。樊於期の死は激しかった。火山が火を噴き上げるような激しい死だった。


――死に様は、つまり生き様であるか。


そうした感慨を抱き、遠からず訪れる己の死に思いを馳せてみた。


――わからぬな。


 荊軻は薄く笑った。他人の生き様や死に様は見えても、自分が如何に生きているのか、如何に死んでいくのか、それは見えなかった。或いは、余計なものが見えすぎて、静かだの激しいだの、そういう一言で単純に割り切れないだけなのかもしれない。冬の日はさらに傾き、室内はますます冷えてゆく。しかし、樊於期の屍の前で暖を取ろうという気にはなれなかった。


 夕暮れの冷気が、荊軻の肩や足に滲みてきた頃、太子がようやく駆けつけてきた。太子は、昨夜ほどではないにしろ、かなり取り乱した様子だった。足早に部屋に入ってきて、そこに樊於期の骸を見出すと、いきなり取りすがって泣き始めた。

「樊将軍、樊将軍。何とされました。何故このようなお姿に……」

 部屋の戸口からは、従者や家僕たちが、おろおろしながら様子を窺っていた。

 太子は、荊軻をきっと睨んだ。

「荊卿、これはどういうことですか。昨夜は」

 太子が言いかけるのを制した荊軻は、入り口に向かって手を振り、従者や家僕をさがらせた。

「太子様。これは、樊将軍のご意志でございます。私は、樊将軍に申し上げました。足下の首一つで、足下の恨みは晴らされ、燕の憂いも解けると。将軍は大変喜ばれ、何のためらいもなく自刎なさいました。これは、樊将軍のご意志なのです」

 荊軻にそう言い切られると、太子は、それ以上詰問することもできず、うなだれて泣き続けた。

 そうして一刻も経っただろうか。

「もうよろしいでしょう。お立ちなされませ」

 荊軻はそう言って太子をさがらせると、骸の手から剣を取り上げた。そして、片膝をつくと、その剣を於期の首へ振り下ろした。

 頸骨を絶つ、くぐもった音が、ガツッと響いた。樊於期の骸は、床に仰向けに横たわっていたため、一度で完全に首を落とすことは出来なかった。荊軻は、丁寧に切断しおえると、その首を、両手でそっと掲げた。

 季節は冬に向かっているとはいえ、秦は遠い。

 この首は、これから函に納められ塩に漬けられて、秦まで運ばれていく。荊軻を秦王に近付けるために。そして、自らの恨みを晴らすために。

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