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「Hänsel und Gretel」
「Hänsel und Gretel」
まるでネグリジェのような下品なレースをあしらった赤いワンピースを風に遊ばせながら彼女は裸足で歩く。
何度も傷付いてもう死なせて呉れと叫んだ彼女を懸命に抱きしめた夜はまるで悪い夢だったのかもしれない。けれど出会った頃より痩せて骨張っている姿に、僕は目頭が熱くなった。
どうしてこんな事になってしまったのだろう。
僕達は常に僕達自身の幸せを願い最善の道を選択してきた筈なのに、少しずつずれて、いつの間にか獣道に入り込んで引き返せない所にまで来て仕舞った。
「あ、ねえ、見て 、 花が咲いてる」
「 うん、 少し摘んで、あの人にみせてやろう ね 」
ただただ美しい笑顔が一杪でも長くあれと、手を握るだけの僕も、裸足なのだ。