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その日のお茶会の結果をクラウスは知らないのだが、夜に義母に呼び出されたために、きっとどこかで失敗をしてしまって、お叱りが来るのだろうな、と半ば覚悟していた。

図書室から花言葉も書かれている、そんな分厚い図鑑を片手に花を選び、義母の指示の通りに花を飾ったのだけれども、虫がいたのかもしれない。

お茶会の手順とそれから、お茶菓子の補充と、お茶の補充と、それからそれからは、おそらくお茶会で給仕をするだろう何人かの、とても見た目のよろしい人たちに確認を何度もさせたけれども、やっぱり何かがあったのかもしれない。

用意した銀の食器に、黒ずみがあったのかもしれない……

とにかく、もしもの事は数え上げればきりがなく、クラウスはそれらの責任を一身に背負っているのだ。

この屋敷で指示をするのは義母であり、それを切り回し配分し、ほかのメイドたちや使用人たちを動かすのはクラウスなのだから。

銀の食器を片付ける戸棚の鍵を持ち、様々な使用人用の部屋の鍵を持つ、というのはそういう事であり、雇われているメイドたちも使用人たちも、変な顔はしている。

こんな子供がその特権を持っているというのが、相当におかしな事であり常識ではないと知っているが故だ。

しかし、使用人たちはクラウスが自分たちよりもこの屋敷にいて長いという事実、そして入れ替わりのやや激しい屋敷にいつまでも残っている現実、そして彼女の手際の良さを実感する。

そこで彼らは、この娘が家政婦の秘蔵っ子だったに違いない、という間違った判断をしており、若干ねたんでいる部分もあった。

しかしクラウスはそれらを気にしてはいられない。彼女の仕事は忙しく、そして彼女の意外と小さな双肩にかかる責任はそこんじょそこらの使用人の比ではないのだ。

そんな彼女が、鞭うたれるのは嫌だな、お母様はそういう効率の悪い事は滅多にしないけれど、と思いながら部屋の扉をたたくと。

「誰かしら」

と当たり前の声がかけられたので、こう返す。

「クラウスです」

「ああ、入りなさい」

言われた彼女は丁寧な動作で部屋に入り、女主人が書き物をしている机の前に立った。

「お呼びでしょうか」

「ええ。あなたを褒めてあげなければならない、と思っていてね」

「褒める……の?」

「あなたが何度も手順を確認してくれたおかげで、うちのあまり練度のよろしくない使用人たちでも、つつがなくお茶会を進める事が出来ました。それにあなたが花言葉まで確認したおかげで、公爵家令嬢のお方が、非常に花言葉の取り合わせを喜んでくださって。今度あの子をお茶会に招待してくれるとの事だわ。とても名誉な事に」

確かに、辺境伯の家の娘が公爵家のお茶会に招待されるというのは、大変な名誉だ。

「あなたがあらゆる事を成功させてくれたのだから、何かご褒美をあげなくてはいけないと思って。あなたは何がいいかしら。ドレスかしら、それとも新しい靴かしら。最近あなたの頭覆いが薄汚れてきたから、その代えかしら。もっと単純に、甘いご馳走を食べるためのお駄賃かしら」

言われた事が徐々に身に染みてきた娘は、ぱっと顔を輝かせた。

「お姉様が、公爵家のお茶会に? お姉様が頑張ったのですね」

「まあ、あの子が頑張ったのもあるわ。でもあなたが頑張った事もあるのよ」

「わあい!」

言葉の後半を聞く事もなく、クラウスはお姉様の名誉に喜ぶ。このあたりが少女の単純でお人好しな性格を表しているようだ。

「あなたはこの屋敷の、縁の下の力持ちなのね。……何がいいかしら。あの人があなたに何かをあげると。それだけで不機嫌になってしまうからなかなか渡せなくて」

女主人の言葉に、少女は目を瞬かせて考える。

「お砂糖の塊を買うお金! あとお菓子を作るための最新式の泡だて器と、おばあちゃんが新しい木べらが欲しいって言っていたからそれを見繕う時間!」

砂糖は巨大な六柱の形で販売されているのが、常識だ。

そして最新式の泡だて器は、一風変わった針金が組み合わせられたもので、これが意外と高価なのだ。

それが欲しいと語る娘に、継母は微笑んだ。

「では、そうですね……明後日に、お前に休みを与えましょう。お駄賃もあげるわ。気に入ったものを選び抜いて買ってきなさい」

「ありがとうございます」

少女が邪気もなく笑えば、継母は頷く。

「そうだ、明日は宝石商を呼びます。時間にならなかったらいつも通りに、呼びに行ってちょうだい、あなたが呼びに行くとあの宝石商は、とても機嫌がよくなるから」

「はい、わかりました」

笑った彼女が退室したのを見届けて、継母は溜息を吐いた。

「キララがあれくらい素直ならば、まだいろいろ教え甲斐があるというのに」

それは彼女にとって事実だった。

彼女は思い出す。今日の昼の出来事を。

お茶会の前に、二人の娘の礼儀作法のおさらいをしていた時だ。

キララはもの言いたげなまなざしを向けており、継母はすぐにそれに気が付いた。

「どうしたのです、キララ」

「……お母様、礼儀作法の教本と、教えていらっしゃる作法はずいぶんと違いますわ」

「これは古い礼儀作法なのですよ。あなたの持っているだろう教本は新しすぎて、あまり役にはたたないものなのですよ」

それを聞いたキララは顔を赤くした。恥じらう、というよりも反抗していると言った方が正しい表情で。

キララのもつその教本は、成金の貴族のための教本であり、古い歴史を持つ公爵家が誇る、間違いのない礼儀作法とは大違いなのだと、義母は教えたつもりだった。

しかしキララは、継母に逆らうつもりなのかそれとも、教本の方が正しいと思い込んでいるのか、なんとも言い難い表情をとるばかりだった。



そして明後日当日。少女は砂糖を扱う店にいた。

どうやらたった今、購入したばかりらしい。

「よいくらせ、っと」

クラウスはそんな言葉を発しながら、ひょいと砂糖の塊を背負った。塊は下手をしたら骨付きの生ハムと同じだけの大きさがあり、ずしりと重量が背中にのしかかる。

普通はこんなもの、男の使用人が買い求める物だ。

だが以前それを任せていた使用人が、砂糖を一部砕いて懐に入れ、おまけに質の悪い物を買ってきた。

クラウスはそれを料理人のおばあさまから聞かされて、屋敷のお金で買い求めた砂糖なのに、と彼に問いただした事がある。

だが使用人は悪びれもしないで何がいけないのだ、という態度をとった。とんだ泥棒である。

見た目が上等の男だったために、これも父が採用した男だったが中身はとんだ野郎だったわけだ。

その男は泥棒癖がある、と以前彼が働いていた屋敷に勤める使用人から聞かされた少女はこの事を継母に報告し、男は解雇された。

その後の事は知らない。盗みを働いた男の行く末などわかり切った物だったが。

そして、ほかの男の使用人はいないのか、というと実に微妙な物だ。

というのも、ギースウェンダル家はうら若き美少女が三人も暮らしている。そして当主は滅多に帰ってこないがゆえに、女主人が家を切り盛りしている。

そんな家に力のある若い男がいる……と世間は何か邪推しやすいのだ。

そして何より、使用人の大半も美しい顔をした若い女ばかり、となれば。

男をあえて雇ったりはしない物だ。当然の流れとしてそうである。

屋敷内でただれた恋愛が起きるのを、上流階級はことさら嫌う物なので結果的に、ギースウェンダル家の男の使用人はもはや老年の庭師位だ。

そんな場所なので、力仕事や重い荷物を背負うのは力と体力のある娘となった。

美しさで雇われた使用人たちは、力仕事を嫌う。

美しさが失われる行為が嫌なのだ。

そうすると自然と、重い荷物を運んだり、泥にまみれる仕事は美しくない娘に流れていく。

クラウスは家の鍵を持つ相当な特権もちの少女だが、そういう仕事も嫌わずに行っているため、砂糖を買いに行くという仕事は彼女の仕事に変わったのだ。

彼女は片方の肩に砂糖の塊を入れた袋を担ぎながら、後買わなければいけない物、買っておきたいものはなかっただろうか、と頭の中を探る。

ない、と結論が出た。キララのための、小間使いとしての品位と節度を保った素敵な天鵞絨の帽子も買い求めた。お駄賃のあまりがかなり消えたが、クラウスは満足だ。

帰ろうと、いちのくるわの方に足を進めたその時だ。

からからり、と不思議な物が足元に転がってきた。

「……ん?」

クラウスはそれをひょいと拾い上げた。たくさんの三角形が組み合わされた、球形に近い星型で、中で不思議な色の光がきらきらとしていた。

綺麗だな、とまず思い、これは高価だろうな、と次に思った。そんな彼女は周囲を見回し、何処かの露店から転がったのか、と確認した。

しかし露店のどこも、これに類似した商品を展示していない。

失ったと慌てている人もいない。

「でも、やっぱり探さなくちゃね……」

クラウスは何となく、これをなくした人は困っているだろうと感じていた。星型は磨き上げられており、とても大事にされている証拠のようだった。

三角形たちをつないでいるハンダらしきものは年数がたち、古い色だ。細かな傷も多いのに、壊れる気配がなさそうとなれば、丁寧な扱いをされてきたのだろう。

「……でもどこに聞けばいいかな」

クラウスは呟き、周囲をもう一度見まわした。

その時だ。

「ああ、こんな所まで転がって行ったのかい!」

老婆の声が響き、一人のかなりの老年の女性が少女に近寄る。

年齢による足の悪さだろうか、ゆったりとした歩き方だ。

「お嬢ちゃん、拾ってくれたのかい、それはわたしの物なんだ」

老婆が手を伸ばす。クラウスは疑う事なくそれを渡した。

「いやあ、もう、これはすぐころころと転がって行ってしまってねえ、探すのも一苦労なんだよ。拾ってくれてありがとう、お嬢ちゃん」

「いえ、気にしなくっていいですよ」

クラウスは何も考えずにそう答えた。持ち主が見つかってよかったな、と素直に思ったのだ。

「……ふうん、お嬢ちゃんは変わった子だねえ。まあいいさ。お嬢ちゃん、これがお礼になるかわからないんだけれどね、明後日に、蛍が飛ぶよ」

蛍、と聞いたクラウスは目を見張った。

「え、蛍? 十五年に一度しか光らない、幻の虫?」

「そうそう、その蛍。明後日から三日間だけ、蛍が飛ぶよ。場所はいちのくるわのはずれの川辺さ。あそこは上等の水が流れているから、蛍が飛ぶんだ」

「本当? 何時くらいから?」

身を乗り出した彼女に、老婆が言う。

「そんなに気になるのかい」

「だって、おじいちゃんが大昔に、蛍の事について書いた日記を見せてくれたの。それからずっと、わたし蛍を見るの憧れてるんです! 絶対に見られるんですね、川辺に行けば!」

娘の言葉に、老年の女性は断言した。

「ああ、見られるとも。ちゃんとした場所に行けば、今年は絶対に蛍が見られる。こんなに喜んでもらえるんだったら、教えてあげられてうれしいよ」

「ありがとう、お婆さん!」

クラウスは笑い、女性も頷いた。

「足元に気を付けて、夜の川辺は歩くんだよ。ぬかるみに足をとられて転んだら大変だからね。時間はだいたい、夜の八時くらいから深夜十二時あたりまでが一番蛍が飛び回って絶景さ」

「ありがとう、カンテラを持って行きます」

少女はそう言った後、どん、と誰かにぶつかった。

とっさに体勢を立て直し、お婆さんを探そうとした彼女の視界から、老婆はたちまち消え失せていた。

しかし、人通りがとても多い道だった事もあり、人の中に紛れて見えなくなっただけだろう、とクラウスは判断し、浮足立った足取りで屋敷に戻って行った。

屋敷に戻り、その門構えの前に立った時だ。背後からがらがらり、と馬車の車輪が回る音が聞こえてきた。

音はこのあたりで止まるらしく、速度を落としている。

振り返った彼女は、その馬車が超高級な一級品、すなわち王家の物だとすぐに気付いた。

扉に描かれた紋章がそれを示していたのだ。

王家の権威を現す獅子の横顔に翼なのだ。

翼は基本的に使者を意味する紋章の一部で、王家の使者だと明確に明らかなその馬車が、門の前に留まる。

クラウスは王命の知らせかもしれない、とすぐさま門を開けようとした。

使者に対する礼儀の一つだ。迎え入れなければならないと思ったのだが、そこで使者が下りてくる。

「ここはギースウェンダル辺境伯の町屋敷で間違いないだろうか」

丁寧なお辞儀の後に問いかけられたクラウスは、ばさっとスカートを掴んで一礼をとった。

礼儀作法をまるで知らない、しかし礼儀は知っている少女の頑張った挨拶に微笑ましいと思ったのか、使者が言う。

「ここで間違いないだろうか。辺境伯の屋敷は美しい邸宅なのだな」

「はい、きれいですよね。自慢なんです」

家を褒められるという事は、少女の成果が褒められたという事だったので、うれしくなった少女は笑っていた。

そんな彼女に、彼は手紙の入った美しいバインダーを取り出す。そこから手紙を抜き取り、少女に渡した。

「これを女主人殿に届けていただきたい」

「これはお返事の必要な物でしょうか」

「王命であらせられるがゆえ、必要はないですよ」

「わかりました、奥様に伝えておきます」

クラウスはそう答えて、使者が去って行くのを見届けたのち、門を開いて屋敷の中に入って行った。





「どうしてクラウス、あなたって子は何も考えていないの!」

クラウスはいきなり言われた言葉と、それから続いた悲鳴のような声に息をのんだ。

使者がもたらしたのは、明後日に王宮で王太子の妃を選ぶための舞踏会が行われるという情報と、招待状だったのだ。

だがキララもクラウスも、その舞踏会に出席する事は出来ないと、奥方が判断した。

それは二人がデビュタントを済ませていないから、であったのだが……

誕生日も過ぎたキララは、デビュタント前だからという事だけで、その場に行けない事に思う事があるようだった。

「これじゃあ私はいつまでたってもただの召使のままだわ! お父様がいたら、こんなひどい仕打ちはしなかったわ」

「当主様がいても、デビュタント前だからだめだって言ったと思うよ……?」

クラウスは、社交界に出ていない娘が妃選びの場に参加できない、という事を当たり前だと思うのだ。

だって子供も妃候補にしたら、とんでもないロリコンである。

お妃は子供を産まなければならない場合が、多いのにロリコンなんて、本末転倒だ。

しかしそう言った事を言う前に、キララのすみ切った緑の眼から涙がこぼれた。

「な、泣かないでよお姉ちゃん」

少女はぼろぼろと大粒の涙を流す、自分の姉の痛々しい姿に痛ましい表情となり、その肩を抱いた。

「大丈夫だよ、王子様じゃなくても、きっと素晴らしい男性が、お姉ちゃんが社交界に出られるようになったっているって」

「でもクラウス、王子様はこの国には三人しかいないのよ! そして今の女王様の息子は一人だけ、ウィリアム様だけなのよ? ほかの王子様は前王陛下の妾妃のお子様たちだけれど、皆、あまり褒められた性格じゃないってきくわ」

「王子様じゃなくったって、素敵な格好いい男性は世界にいっぱいいるよ、お姉ちゃんがすごいのも、きれいなのも、絶対分かっている人はいっぱい現れるって」

「そんな未来は、このままだったら一生こないわ。お義母様が私を社交界に連れて行く事すらしないんですもの! こんなぼろを着て、どうやってデビュタントパーティで恥をかかないでいられるの?」

「……おと」

お父様、と言いかけた少女はそれも、自分に許されていないと思い出し、言いなおす。

「当主様が、秋のデビュタントパーティのドレスを、きっと用意してくれているんだよ。ギースウェンダル領は貿易の中継地点だから、素敵な絹がたくさん届くって聞いたもの。きっとそれを吟味して、この夏に採寸をとって、お姉ちゃんは世界一綺麗な令嬢として社交界に出られるよ」

クラウスが、知らない社交界や貴族の世界の事を、何とか思い描きながら慰めていた時だ。

「クラウスさん! 聞いたわよ! キララお嬢様の援護も何もしなかったんですってね!」

マーニャとサラが、クラウスをキララからはがし、突き飛ばす勢いで遠ざけた。

遠ざけられたクラウスは、よろめいて尻もちをついた。

その姿勢のまま、睨み付ける小間使いたちに問いかける。

「援護って……どうやって? 奥様の決定を覆せる身分じゃないよ、わたし」

「それでもよ! あなたキララお嬢様と長い間一緒にいたのに、あんな厭味ったらしい年増の、昔の美貌を振りかざす嫌な女のいう事を聞いて、キララお嬢様のために働こうとしないじゃない! この不忠もの!」

「いつもお姉ちゃんとなれなれしく呼んでいながら、肝心なときには何も役に立たないのね!」

クラウスは口を開き、何も言えないまま黙った。

「この、役立たず! あなたみたいな役立たずがどうして、今までこの屋敷にいられたのかしら!」

「……二人とも、やめてちょうだい」

マーニャとサラがさらに、キララを思うために、クラウスに罵倒を浴びせようとすれば、それをキララが制止した。

「クラウスは、精一杯やっているもの。それに、この子をそんなにひどくののしらないで。この子は大事な私の」

「キララお嬢様が優しすぎるんです! ここはがつんと、自分とキララお嬢様の身分の差を理解させなければ」

マーニャが声を荒げた時だ。

「そこで騒ぐんじゃないよ。ああ、ちょうどよかった。手伝っておくれ、何しろ今回は言った料理女中が、料理なんてろくすっぽできない役立たずでね。当主様は顔と人物証明書ばかり大事にしているから、ろくな人間が入ってこない。教えたら教えたで、厳しいだの鬼だの悪魔だの」

ぶつぶつと言いながら、厨房に続く使用人部屋に現れたのは、料理人の老婆である。

彼女はクラウスを見つけると、その腕を引っ張りながら連れて行く。

マーニャの言葉が終わる前に、クラウスは厨房に入る事になった。

「さて、野菜の皮むきとそれからウサギをさばくのと、色々仕事は多いのさ」

老婆は言ったが、クラウスは厨房の人間の数が、明らかに足りないので目を見張った。

厨房は料理人頭の老婆の領域であり、クラウスが介入できる世界ではないのだ。

そのため、よほどの事が無い限り口は出さないのだが。

「朝と今とで、明らかに人数がおかしいよ、おばあちゃん」

「ああ。昼に大事な香辛料の瓶を、軒並み壊した挙句、無事な物を盗もうとした馬鹿を叩きだしたのさ。そうしたらそいつが悪くない、とやたら庇う馬鹿ばかりでね。そんな馬鹿入らないから、とっとと蹴りだして追い出したのさ」

ひひひ、と魔女のように笑う老婆は実際に、蹴りだしたのだろう。

「なあに、あたしゃ追い出されても大して怖くないのさ。息子の嫁あたりが、仕事が忙しいから料理位は出来る手伝いを欲しがっているしね。こういう場所で長い間働いていたってのは、平民にとって箔がつくから、後の仕事にも困らない。ひひひ。当主様も長年勤めてきたあたしには、多少遠慮があるからね。慣れない料理女中だけで、当主様の舌に合う料理なんて出せる物か」

「そうだね、今度は、技術を見られるように、当主様に交渉した方がいいよ、もう……十何人も蹴りだしているんだから」

「そうさね、奥様の紹介したやつだけにしてみるかね」

そこまで言ってから、老婆は鍋をかき回し始める。

少女はその脇で、野菜の皮むきやら泥落しやらと、雑用を始めた。

これらは手があれる、と若い料理女中が実は嫌いな物ばかりで、新しく入ってくる女中たちは手を抜くのだ。

彼女が洗っていれば、脇で老婆が言う。

「本当に、おかしな話だよ。まったく」

「何が?」

「この家の直系の令嬢ともあろうものが、下働きと同じ仕事を行って、毎日毎日汚れ放題で、なんてさ」

「仕方のない事だよ」

クラウスは、それが自分を示している、とわかっていたので、静かに答えた。

「それよりも、お姉ちゃんを慰めたいよ……あんなに泣いているお姉ちゃんは初めて見た」

「慰める? どうしたんだい。キララお嬢様が」

「明後日に、王子様の妃を決める舞踏会があってね、それに出ちゃいけないって言われて」

「そりゃあ、まだまだ社交界に正式に出ていないような、子供が出たらいけないという考えだろうに」

「だよね……なんて言ったらいいんだか」

「成人しなかったらお酒を飲むのもたばこを吸うのもよろしくないだろう? 同じものさ、デビュタントなんてね」

とても具体的でわかりやすい言葉に、クラウスは苦笑いをした。

お姉ちゃんもそれはきっとわかっていて、でも舞踏会に出たかったのだろうから。




翌日はそれこそ、死にそうなほど、彼女にとって忙しい日となった。

というのも、ドレスにオーヴァードレスを組み合わせる事、などを一日中行ったからだ。

そのための衣装箱の上げ下ろしは、全てクラウスが行った。

いつも行う家事の半分以上を、彼女はほかの使用人に任せる事となり、そして。

「まさか一日で、五人も仕事を辞めるなんて……」

彼女はぼやいた。ぼやきながらも、五人が行ったあれそれこれを思い出す。

「一人目、高価な白い陶器のお皿を割った……二人目、掃除を怠けて恋人と語り合って、奥様の呼び出しを無視した……三人目、時間になっても食事を運ばなくて、悪びれないで落としたものを配膳しようとした……四人目、お義姉様たちのドレスをぬすんで、お姉ちゃんに回そうとした……これが一番ひどい五人目、奥様がおととい、宝石商のおじさんから買った宝石の飾りを紛失した」

一人目は、賃金から弁償するという運びになる予定だったのだが、そんな事は出来ない、病気の母が……といいわけをしたのだが、クラウスはそれが嘘だと知っていた。彼女の母は逞しく、さんのくるわでパンを焼いていたのだから。ちなみに昨日、にのくるわで、その母がパンを片手に売り歩いているのを見たのだ。

高価な物を弁償する気もなく、嘘を吐く。その時点で使用人としては問題大ありで、人間性にも問題があるとクビである。きちんと、第三者の視点で書かれた人物証明書を見た彼女は、顔を真っ青にしていたが、義母がこの家の印璽を使用したので、偽造もできないだろう。

二人目は、叱責を受けるや否や泣き出し、そのまま屋敷を飛び出した。

ちらりと見えた恋人とのあれそれを見る限り、恋人がかなり危ない男のようだった。

三人目は、事の顛末を愉快そうに、いい気味だというように厨房で喋り、そのせいでおばあちゃんの怒髪天を突き蹴りだされた。おばあちゃんが丹精込めた料理を台無しにして、そんな物を主に食べさせたのだから怒られて当然。

そして、食べ物を粗末にするという点から見ても、おばあちゃんが怒る要因であり、蹴りだされるのをかばう事は論外だった。

四人目五人目は、もはや言うまでもない。

上位の身分の相手の物を、盗むなど言語道断、使用人が行ってはならない物の筆頭の一つだ。

「奥様厳しい顔で、警邏に突き出してたもんな」

あの二人はそうそう、表の世界に顔は出せないだろう。

綺麗な顔なのに、人生が台無しだろうな、と思うクラウスは、可愛そうだとは思わない。

「盗むのはやっぱりよくないもんね」

言った少女は、よいせと立ち上がる。

キララを慰めなければ。義姉二人と、継母は王宮に向かってしまった。

そして、サラとマーニャもいるかもしれないが、それでも慰めて教えて諭す人間な必要だ。

そんな思いから、小間使いの部屋の扉をたたいたクラウスは、物音が一つもしないので怪訝に思った。

「お姉ちゃん、眠っているの?」

やたらに静かだ……と思ったクラウスは、手を握り締めてから扉を開いた。

すると。

「あれ、結界を張ったのに、入れる人間がいるもんなんだね」

たくさんの銀の腕輪をはめた、いかにも背中に羽の生えた男性が、椅子にちょこりと座っていたのだ。

寝台の上では、マーニャとサラが熟睡しており、キララがその男性と相対している。

「……誰?」

見知らない人間には気をつけろ、まして人間以外だったらもっと気をつけろ、というのは常識だ。

とっさにクラウスが視線をまわし、キララの前に出たのは当然だった。

「……お姉ちゃんに何かするつもり? サラさんもマーニャさんも、起きられないのかな?」

少女の観察力に、男が笑う。

「領域の中では許された人間しか起きていられない、当然でしょう。さて、正体は何かと言えば、キララが知っているよ」

「お姉ちゃんが?」

「クラウス、彼は名付け親の妖精様なのよ」

キララの言葉に、少女は目を見開いてからこういった。

「驚いた、お伽噺だとばっかり」

「普通は滅多に、名付け親にならないからね、妖精の言葉には力があるから」

からからと、驚かせた事で上機嫌になった名付け親の妖精が笑う。

「さて、キララ、誕生日のお祝いがまだだったから、数カ月遅れの誕生日の贈り物をしにきたんだよ。何がいいかな」

彼が笑った時、キララが口を開いた。

「今日から三日間ある、王宮の舞踏会に行きたいの。……運命を変えたいの」

「運命を?」

「この屋敷で、召使にされて一生を終わらせる運命から」

「ふうん。いいよ。それじゃあ、三日分のドレスが必要だね、それからそれから、馬車に馬に、宝石も必要だ。ああ、ドレスのための靴だって!」

言った妖精が立ち上がり、腕輪を鳴らした。幾重にも重なる金属音が、反響して“魔法”を引き起こす。

クラウスが止める間も何もなく、キララの姿は一変する。

小間使いの、上質だが流行おくれの衣装が、今流行の、銀色にきらきらと輝く青いドレスに。

髪留めが、磨き上げられた銀の髪飾りに。

髪型もかっちりと、動きやすいようにまとめられたものではなく、美しく結い上げられて、銀の粉まで散らされている。

靴も、見事な絹の靴だ。

その姿を見たクラウスは、小さく呟いた。

「お母さまそっくり」

彼女が言うのももっともで、着飾ったキララは、肖像画の中で最も美しい、母を若くしたような姿だった。

「まあ……まあ!」

鏡に映った自分を見たキララが、はしゃいだ声をあげる。

「これで舞踏会に行けるわ!」

そう言ってくるりと体を回した姉に、クラウスは忠告をしようとした。

「だ……」

だめだよ、お姉ちゃん、未成年が花嫁選びの舞踏会に行ったら。

言おうとした唇は何も言えない。

そして、妖精が言った言葉にまた驚く。

「この姿だったら、誰も君の正体はわからないよ。君はあらゆる人たちから覚えられるのに、正体だけはわからない! これならこの家が恥さらしだなんて言われないし、君も怒られる事はない」

悪戯が大好きな妖精の得意技だよ、とちゃっかり笑った彼が、手を差し出す。

「さて、名づけ子ちゃん。馬車は外に待たせてあるから、そこに行って、運命を変えておいで。三日間、違ったものを用意してあげよう」

「ありがとう、名付け親の妖精様!」

キララが顔を輝かせてから、はっとしてクラウスを見やる。

「私の妹は……」

「その子は駄目、というか無理。名づけ子じゃないんだもの。妖精は、縁のある子にしか奇跡は渡せないのさ」

「行ってきなよ、お姉ちゃん」

クラウスは、ほかに何も言えなかった。

止めたら、妖精の贈り物を無碍にする。それも、誕生日のお祝いという、とても大事な物を。

妖精の気分を損ねてはならない、というのはこの大陸の常識だ。

損ねた後が恐ろしく、キララに何かが起きては大変である。

「クラウス……」

「それでさ、素敵な男性に見つけてもらって、縁をつないできなよ」

「あなたは」

「わたしは、今更だもの、別に何も起きなくてもいいんだ。行ってらっしゃいお姉ちゃん」

馬車に乗っていく姉を見送りながら、クラウスは呟いた。

「本当に、どうしようもないね」

「おやまあ悲観的だ」

「……だって、お姉ちゃんに良識をいう事も、あなたの気分を害さないで止める事も、心の底からお姉ちゃんの幸運? を喜ぶ事も出来ないんだから」

「それだけ君が、人間の世界に浸っているってわけだ」

妖精が腕輪を鳴らしながら笑う。

「君は蛍が見たいんだろう、キララがそんな事を言っていた。そろそろ出かけなければ、蛍も帰るよ」

その言葉にクラウスははっとして、言う。

「そうだった」

舞踏会の間だけ許された、夜の外出。蛍を見に行く事。

そのために彼女は、片手にバスケットを持っていたのだ。

「ありがとう、戸締りしたら行く」

彼女は最後の部屋であった、小間使いの部屋の戸締りを確認し、妖精に一礼する。

「そろそろ僕もお暇するよ、じゃあね」

いうや否や妖精はぱちん、と消えて、あたりはとても静かになる。

それを見て、今日だけで人生分魔法を見た、と思いながらクラウスは、屋敷を出た。

蛍が待っているのだから。



いちのくるわの川辺は、しんと静まり返っていた。

その中でさあさあと、川の流れる音だけが響いている。

クラウスはそのあたりまで走った後、その光景に声を上げた。

「嘘じゃないんんだ、本当に蛍って光るんだ……!!」

彼女がそんな事を言うのも、無理はない。

その世界は、まるで異世界の光景だったのだから。

薄緑の光が乱舞し、飛び回っているのである。

その瞬きはあたりを明るくし、その川辺は普段とはまるで違う光景を見せている。

なんて綺麗なんだろう、としか、クラウスは言葉が思いつかなかった。

「なんて綺麗」

彼女はそんな事を呟いた後に、川辺に座り込んだ。

汚しても問題のないクッションを敷いて、その光の幻想的な踊りを見つめる。

「これがこんなに小さい虫だなんて、信じられない位」

独り言は誰も聞いていないから、独り言なのである。

少女はかなり長い間そこに座り、その輝きと瞬きを見つめていた。

「鳴く蝉よりも、鳴かぬ蛍が身を焦がす……誰の言葉だったっけ」

少女はどこかの誰かが言った、そんな言葉を小さく呟く。

蛍は雄しか光らなくて、雄が雌に愛を乞うているのだ、と言う話も思い出したのだ。

「運命の相手に見つけて欲しくて、男の人が一生懸命になるのかあ……」

なんだかそれは、人間の世界の縮図とは大きく違うな、とクラウスは考えた。

この世界と社会で、運命の相手に見つけて欲しい、とがんばるのは女性なのだから。

男性の方が身分が高く、社会的な地位が高いこの国では、女が男を選ぶのではなく、男が女を選ぶのだ。

それ故に女たちは自分を磨き、男に見つけて欲しいと願うのである……

そのため、この、王子の妃を決める舞踏会はおかしな事ではない。

王子が妃を選ぶのであり、妃になりたい女子たちは自分を磨き上げて見つけて欲しいと訴える。

「蛍の世界の王子様って、きっといないんだろうなあ」

少女は言いつつ、指を伸ばす。

何かに惹かれたのか、蛍が一匹彼女の指にとまった。

そして、瞬く。

その蛍を顔の近くに引き寄せ、クラウスはふふふ、と笑った。

「このすてきな世界を独り占め、なんてすごい贅沢だね。お母様にお願いして、本当によかった」

いつの間にやら、彼女には蛍が何匹も止まって光を放っていた。

少女が身動きをしないために、植物と同じ扱いになったのだろう。

「綺麗だなあ」

少女はまた同じ感想を口にして、バスケットの中の水と木製のコップ、コーディアルを取り出した。

その時だ。

がさりと音がし、蛍が現れた何者かの動きにつられて飛び立つ。

ばあっと無数の蛍が光りながら飛び立ち、その誰かを照らした。

「……なんて言う光景だ」

誰かはその儚くも美しく、そして魂を強烈に揺さぶる景色にそんな事を言った。

クラウスも、自分以外に現れた誰かの声につられて、コップとコーディアルの小瓶を両手に持ったまま、立ち上がった。

彼女につられてもやはり、蛍が飛び回る。

少女自体にも蛍がとまっていたため、その蛍も光りながら飛び立った。

「……あなたは誰?」

相手が何も言わず、立ち尽くしていたのでクラウスは問いかけた。

蛍の光で、相手の姿はよく見えたのだ。

そのため余計に娘は、相手の正体をはかりかねた。

だらしなくゆるめられた、クラバット。上着を来ておらず、肘までまくり上げられたシャツの袖。

これまた弛んでいるとしか言いようのない、ズボンからはみ出されたシャツの裾。

ズボンすらまくり上げられており、衝撃的な事に裸足だ。

裸足で片手に、ブーツを下げている。

明らかに、足音を消すための手段なのだ。ブーツの靴底よりも、裸足の方が密やかに動き回れる。

物盗り? でもこんな所にわざわざ?

娘が訳が分からなくなるのも、無理はなかった。

「……おれの事かい」

青年はそんな事を呟いたので、クラウスは相手を見ながら頷いた。

「そう、あなたは誰?」

ざっと見回して見れば、彼の身なりがかなり高価な事はすぐにわかった。

シャツは白いし、ズボンも白い。さらに金の縁取りがある。

品がよく、そしてとても趣味もいい、しかし値段は目が飛び出るような物だろう事が、伺える身なりだったのだ。

彼女はそれらを見回して、とある結論に至った。

どこかのお金持ちの貴族の、次男坊か三男坊だ、と。

彼女の中の常識として、みっともない格好をするのは、家の跡を継がない次男坊か三男坊と決まっていた結果である。

「わたしは、クラウス。あなたの名前は?」

娘はここでも、自分の素性をきちんと名乗らなかった。

ギースウェンダルの姓を、少女は父から許されていなかったのだから。

「……プローポス」

彼は一瞬ためらった後に、そう答えた。

そして、ゆっくりとした足取りで、クラウスに近づいてくる。

敵意や害意はなさそう、と少女はその足取りや動き方を観察しながら思った。

そして、二度目に驚いた。

「あなた、とっても綺麗な顔をしてるんだね」

近づいた男の見た目が、衣装に負けないほど整っていたからだ。

いくら蛍の光の下でも、見える世界には限度がある。

相手の衣装が白いから、衣装は反射しかなりよく見えたが、顔はしっかり近づかなければ、わからない。

「人相見のおじさんが大絶賛しそうな顔」

クラウスの身も蓋もない感想に、彼は目を瞬かせた。

その仕草から、少女はまた気づく。

「あなたの名前、その目から来てるんだね」

「……」

なぜそう思うのか、と視線が問いかけてきたので、少女は答える。

「目が真っ赤だもの。知ってる? プローポスって、古い異境の言葉で”火の眼”って意味なんだよ、あなたの目はそれくらい赤くて綺麗。石榴石の色で、すばらしいって言われてるパイロープもそれが語原なんだって、宝石商のおじいさんがこの前教えてくれたんだよ」

自信たっぷりに、人から聞いた知識をしゃべった少女は、彼が呆気にとられて彼女を見ている事に気づく。

「どうしたの? もしかして、わたしの事が幽霊か何かだと思ってるの? そりゃ、こんな所に一人でいたら、そんな事思うかもしれないけど」

普通、川辺に一人でいる女性なんて身投げした女の幽霊、と洒落を言ったクラウスは、相手を見返す。

「今日はね、特別な日なんだよ、蛍が飛んでいるんだもの」

娘の言葉に、彼が彼女から視線を引きはがし、辺りを見回す。

「この、美しく光る陸の星が、蛍なのか」

「陸の星! すてきな言い換え方だね、わたしそういうの好きだよ、今度人に蛍の事を話す時は、そうやって自慢しよう」

彼の言葉がとてもすてきだと思い頷いていると、彼が問いかけてきた。

「君は、蛍が出るからここに?」

「うん。街でそれを教えてくれたおばあさんがいてね、だって十五年に一回しか飛ばない、夜光虫だよ? 今回を逃したら、きっと一生見られないと思って、お義母様におねだりして、外出許可をもらってきたの」

これを見逃すなんてもったいない、といわんばかりの彼女に、プローポスが言う。

「確かに、見逃すには惜しい光景だな」

「そうそう。あ、座る? クッション二つ持ってきたの。一枚だとお尻痛くなっちゃうかもしれないな、と思って」

少女は彼の手を引き、バスケットに入れられていた二つ目のクッションを渡した。

「お菓子とコーディアルと、薄める水もあるんだよ。一緒にどう?」

「警戒はしないのか」

「え?」

クラウスは彼を見返し、彼は少女の透き通った、暗がりではほとんど色の判別がつかない瞳を見て少し、たじろいだようだった。

それはあまりにも、少女があり得ないという調子だったからだ。

「あんまり、人から好かれない蛍を、陸の星なんてすてきな言葉でたとえる人が、そんな悪い人じゃない気がするし、自衛だったら少しはできるよ。それにここから衛兵の詰め所までは結構近いから、わたしが叫んだら衛兵が飛んでくるもの。何かあったら、もっとほかに、反撃の対処法も持ってるんだ」

それが何か、はあえて言わなかった少女だったが、彼はバスケットの中身をちらりと見て言った。

「閃光と爆音でしられた、すらの玉なんて言う物まで用意してあるのか」

確かにそこまで持っていれば、身の危険からは免れるだろう、と視線が納得していた。

そして、クラウスは自分のクッションに座り、カップを差し出す。

「……」

受け取ろうとし、彼はカップが二つない事に気づいたらしい。

少女に問いかけてきたので、クラウスはにこりと笑った。

「一人でみるつもりだったから、カップ一つしかないの。あなたの方がいっぱい動いてきたみたいだから、飲むものいると思うんだ」

それを聞いたプローポスが、カップを押しつけようとする。

自分だけ飲むのは気が引けるらしい。

しばし譲り合いをした結果。

「一口ずつ、交代でのもう、ね!」


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