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5. LOVE……再会♡

 俺の思考は、まるでブレーカーが落ちたみたいに、数秒間完全に停止していた。

 俺の恋患いが重度に達した、幻覚じゃ……ねぇよな。


 

 俺の目の前には、ラオンが居た。

 ワインレッドの長い髪を後ろに束ねて、大きな翡翠の綺麗な眼で、俺の事を見ている。


「……あ」


 俺はようやく、そんな意味のない単語を一言だけ洩らした。

 たった今ミルクを呑んだばっかなのに、急激に喉が渇いていた。唾を呑み込もうにも、喉が張り付いて上手く呑み込めない。


 ラオンはそんな俺を見て、ちょっと首をかしげ気味にしながら、にっこりと笑った。


 うわっ、可愛いっ……!

 マジだ、マジで、ラオンが居るっ!


 ようやく覚えたその実感に、俺の心臓がどんどん激しく高鳴っていく。速度を上げた血流に、俺の体が熱を帯びた。


「な、何だ、どうして、ここに?」


 俺の口から、つっけんどんな言葉が飛び出てくる。

 

 俺の馬鹿っ! 何てぶっきらぼうな云い方してんだよ!

 もっと優しく云えよ、優しくさあっ!


 ラオンは、そんな俺の動揺も物云いも全く気にしてない様子で

「ソモルに、会いに来ちゃった」

 俺を大きな眼で真っ直ぐに見詰めながら云った。


 きっと、俺の喜ぶような深い意味はない。けどその一言で、俺は完全にやられてしまった。


 やっべぇ~っ!


 一年半越しの、俺とラオンの再会。

 俺たちくらいの年頃で、一年半のタイムラグはでかい。

 それを今、俺はまざまざと実感した。


 出会った頃のラオンは、完全に『子供』だった。俺もだけど。

 けど再会したラオンは、しっかり女の子に成長していた。


 ラオンは、あの頃からすげぇ可愛いかった。

 今目の前に居るラオンは、相変わらず半端なく可愛い。けどそれは、可愛いの部類があの頃とは違う。


 ……女の子って、一年半でこんなに成長するんだな……。


 カウンターの俺の隣の席に、ラオンはちょこんと座って居た。

 背が少し伸びていた。けど、小柄なのは変わらない。華奢なのも。

 だけど、細いだけだった腕は、何というか、きちんと女の子の腕になっていて……。


 一年半前に出会った、あの日と同じ服装。

 ダボダボだった服も、成長した分ぴったりとして、体の形が微妙に判る。少し、柔らかみを帯びた線……。


 ……成長したな。って、何処見てんだ、俺はっ!


 俺は、赤くなった顔を誤魔化す為にカウンターの正面に向き直ると、頭を冷やすべく残りのミルクを一気に呑んだ。

 のぼせ気味の思考が、僅かにヒートダウンした。


 腹の底からふーっと息を吐き出して、もう一度ラオンの方に向き直る。


 頼む、煩悩! 少しの間だけ静かにしててくれ!


「……もしかして、またこっそり黙って、城抜け出して来たのか?」


 俺は、必死に平常をよそおって訊ねる。

 ラオンの素性は、巨大惑星ジュピターの姫。そう簡単に、マーズの一般庶民である俺のとこなんかに遊びに来れる身分じゃない。以前に出会った時も、ラオンはこっそり城を抜け出して来た。

 誰にも見つからないように、宇宙貨物船に忍び込むのもお手のもので、一年半前に出会った時も、そうやってマーズに辿り着いたらしい。

 

 今回も多分、同じような方法で来たんだろうな。


「うん、けど、今度はちゃんと手紙置いてきたから大丈夫」 

 

 そんな事で、城の人間が納得してくれるとも思えない。

 以前に城を抜け出してきた時なんて、姫様捜索に繰り出してきたジイやたちご一行に散々追い回されて、トラウマになりかねないようなえらい目に合わされた。

 同じような目に合わされるのは、さすがに遠慮したい。


「それに、明後日には父上と母上もマーズに来られる筈だし。僕だけちょっと先に来ちゃったんだ」


 相変わらずラオンは、姫のくせに一人称は『僕』だった。まあそこも、可愛いポイントなんだけど。


「マーズで、何かあんのか?」


「うん、明後日はマーズ王の生誕日だよ。ソモル、知らなかった?」


 えっ?

 云われてみれば、そうだったような気がする。俺、暦とかてんで(うと)いから。


「マーズ王城での祝賀会にお呼ばれしててね、僕も出席するの」


 いつの間に頼んだのか、ラオンの前にマスターが赤ワインを置いた。

 ジュピター人は、子供でも酒を嗜むのは普通らしい。体質的にアルコールに強いのか、どんだけ呑んでもほとんど酔わないらしい。しかも、すげぇ辛口を好む。


 ラオンは早速ワインを一口呑むと、満足そうに上機嫌な笑顔を見せた。そんなちょっとした表情にも、俺の心臓はいちいち跳ね上がってしまう。


 ……また、喉が渇いてきた。もう一杯、ミルク頼もうかな……。

 頭がだいぶ、のぼせている。まだ思考が、ほんの少しおぼつかない。ワイン呑んでるラオンより、俺の方がよっぽど酔っちまってる感じ。


 無理もねぇよな。だってさ、俺の隣に、ラオンが居るんだぜ。

 どうにかなっちまいそうに会いたかった、ラオンが。

 手を伸ばせば、普通に触れられる程すぐ傍に。

 ……肩に触るのも、今の俺のバクバク度合いじゃ無理なんだけど……。


 まだ俺、顔赤いのかな……。


「だから明日は、丸々ソモルと一緒に遊べるよ」

「えっ」


 ラオンの言葉に、俺の心臓と気持ちが同時に跳ね上がった。


                         

                     to be continue



挿絵(By みてみん)


 


次回 8月18日金曜の夜の更新を予定してます。

読んで下さる方々に、心より感謝です!

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