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短編集

わたくしの声はあなたの耳に届いていますか?

作者: 楠木 翡翠

 この話はとある国のお話です。


 この国には春、夏、秋、冬の4人の季節を司る女王様がいました。

 本来ならば、彼女らは決められた期間、塔に交代で住むことになっています。

 しかし、今年の冬はいつもとは違いました。


 なぜならば、冬の女王様が塔から出て来ないため、春の女王様が入れなくなったということが起きてしまったのです。


「これからの食料はどうしよう……」

「もうすぐ燃料が切れてしまうよ……」


 連日のように凍えるような寒さとどんどん減っていく食料や燃料……。

 国民はみな、これからの不安を抱えながら日々の生活を送っているようでした。


 そのような時に王様からそれぞれの家庭やお屋敷にある依頼が封書によって国民に舞い込んできました。


『冬の女王を春の女王と交替させた者には好きな褒美を取らせよう。ただし、冬の女王が次に廻って来られなくなる方法は認めない。

 季節を巡らせることを妨げてはならない。』と――。



 ***



 塔の近くにあるお屋敷にもその知らせは届きました。

 1人の可愛らしい少女と1人の燕尾服を着た青年がなにやら忙しそうに準備をしています。


「今年の冬はいくらなんでも長すぎですわ! ねぇ、レオル、なんとかしてくれないかしら?」

「ユノ様、このことばかりは仕方のないことなのです。急いで、馬車へお乗りください」

「はーい……」


 レオルと呼ばれた青年が慌ただしく外套を身にまとい、ユノと呼ばれた少女は渋々とお屋敷から出ると先ほどまでは雪が降っていたせいか少し積もっていました。

 彼女は彼に誘導され、ゆっくりと馬車に乗り込みました。



 ***



 彼らは今、決して暖かいとは言えない馬車の中にいます。


「まさか、冬の王女様が塔から出て来ないからって全国民に知らせを出す王様も王様よね」

「ユノ様、しかし……」

「しかし?」

「確かに、女王が交替することによって季節が変わることを全国民は存じていらっしゃいますよね?」

「ええ。知らないのはどこぞの旅人程度よ」

「それは私も承知しておりますが、ユノ様はこのようなことに――」

「あの滅多に依頼を出さない王様から好きなものがもらえるのよ? 依頼を断るわけにはいきませんわ!」


 ユノはレオルを遮るように話し始めました。

 彼女のその口調は彼が呆れるくらい熱いものです。


「はぁ……この熱意を普段のレッスンなどに活かさないのはなぜでしょう……」

「レオル、何か言ったかしら?」

「いえ、何も……」


 彼女らが話している間も馬車はパッカパッカと音を立てながら、季節の塔に向かいました。



 ***



 その頃、季節の塔の前では寒い中、たくさんの国民が様々な方法で冬の女王を塔から出てもらえるよう頑張っています。


 楽器の演奏をするプロのオーケストラや美味しい料理を振る舞おうとするシェフ、一発芸をやって笑いを取ろうとするコメディアン……。

 国民は思いついたら、取っ替え引っ替えしながら考えついた方法を披露していきます。


 しかし、どのような方法でも冬の女王は一向に姿を現してくれませんでした。


「いろいろとやっていますわね……」

「どのようにしても冬の女王は出て来られていらっしゃらないのですね?」


 ユノはその光景を見て驚いています。

 国民はどのような方法で試しても出て来ないので、いろいろと諦めていたように感じているようでした。


 手強(てごわ)い冬の女王と彼女を連れだそうと頑張っている国民。


「レオル、行きましょう」

(かしこ)まりました」


 彼女らは人混みの中を潜り抜けながら少しずつ塔へ近づいていきました。



 ***



 彼らは塔の前に立つと、その場にいる国民からの視線が集まってきます。


「ユノ様……」


 レオルが先ほどまではしっかりとつないでいたユノの手をそっと離し、彼女から少し離れたところから見守ります。

 ユノは1度深呼吸をして塔に向かってこう話しかけました。


「冬の女王様、わたくしの声はあなたの耳に届いていますか? もし届いていたら返事をしてください!」

「はい」


 彼女の問いに対して、冬の女王らしき女性の声が(かす)かに聞こえてきました。

 これには国民はもちろんのこと、レオルも驚いています。


「今からいくつか質問しますが、いいですか?」

「どうぞ」

「女王様の名前を教えてください!」

「わたしの名前はユキです」

「誕生日を教えてください!」

「1月20日です」

「好きな音楽はなんですか?」

「クラシック音楽が好きです」


 ユノからの質問にユキと呼ばれた冬の女王は淡々と答えていきました。


「えっと……少し変な質問をしてもいいですか?」

「ええ」

「あなたはこの塔に居続けているのはなぜですか?」

「………………………………」


 その問いを聞いた途端、国民の表情は氷のように凍りつきました。

 レオルは「なぜ、あなたはそのような質問をしているのでしょう?」と疑問に思っていましたが、ユキの答えを待ちます。

 しかし、彼女の答えは返ってきません。


「わたくしの質問がよろしくなかったのかしら……」


 少し離れたところにいたレオルががっくりと方を落としているユノに近づき、「いいえ」と答えました。


「ユノ様の問いがよろしくなかったのではなく、冬の女王様であるユキ様がこの塔から出る覚悟を決めたのではないでしょうか?」

「塔から出る覚悟?」

「左様でございます。ユノ様の質問のおかげでユキ様が春の女王様に塔を引き継ぐ準備をしているのだと、私は思うのです」


 レオルがこう言うと、彼らの後ろにいる国民がこのように続けます。


「そうだぞ!」

「お嬢ちゃん、さすがだ!」

「お嬢ちゃん、ありがとう!」


 その時、ユノは気がつきました。

 自分が質問し始めたことがきっかけでユキの心を開いて、それに対して答えてくれたのだと――。


 彼女がそう思っている間に1人の女性がゆっくりとした足取りで国民の前に姿を現しました。

 彼女は白銀の艶やかな髪に淡い蒼い瞳、透き通った色白の肌、パステルカラーの青いドレスに身をまとっています。


「みなさま、大変ご迷惑をおかけしました。冬の女王のユキと申します」


 ユキが自己紹介をしたと同時に、「本当に困った女王ですよ。ユキは」と弾むような声の女性が彼女に話しかけました。

 おそらくその女性が春の女王となる人でしょう。


「ハナ……?」

「ええ、そうですよ」

「ハナ、ごめんなさい…………みなさま、ごめんなさい…………」

「ユキ、泣かないでください。国民のみなさまが見ていますよ?」


 ユキが泣いているとハナと呼ばれた春の女王は彼女と一緒にその場にいる国民全員の顔を見回しました。


「……本当だ……」

「だから、笑わなければなりません。そして、最後の質問に答えなければなりませんからね!」

「はい。先ほどは「あなたはこの塔に居続けているのはなぜですか?」という質問の答えがまだでしたので、答えます」


 ユノやレオルはもちろんのこと、国民の視線が一気にユキの方へ向けられます。


「恥ずかしい……実は(ここ)から出るのが申し訳なかったから。雪が降ったらみなさん雪かきが大変だったと思いますが、雪だるまとか作ったり、雪合戦をして遊んでいる姿を見ていたらもっと喜ばせたいと思っていたのです。それが裏腹に逆効果みたいでしたので、謝らさせていただきます。本当に多大なご迷惑をおかけしてすみませんでした」


 ユキが恥ずかしがりながらこう言うと、ユノが「わたくしの質問に答えていただき、ありがとうございました!」と彼女にお礼を言い、国民全員で拍手をし、ユキもすっきりした表情でハナに塔を引き継ぎ終え、彼女は季節の塔から姿を消しました。


 こうして、冬の女王から春の女王へ交替し、この国の長い長い冬が終わり、季節が進み春になりました。

最終的にはユノは王様から好きな洋服を何枚かいただきました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 優しい女王様なんですね。 しかし、その優しさが裏目に出た…… 童話らしいですね。
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