よだかの星 ~2016 Summer バイオゴリラEdition~
最近人気のガールズアンドパンツァー要素を取り込んでみました。どこにその要素があるか探してみよう。答えはあとがきに!
昔、ある森に、よだかというとても醜い鳥がいました。足はよぼよぼでろくに歩く事も出来ず、くちばしは耳まで裂けています。よだかがこんな姿をしているのは、生物として適切な進化であり、別に卑屈になる必要は無いのですが、その辺は省きます。
とにかく、醜いよだかは鳥の仲間みんなから嫌われ、特に鳥の王者、タカからは一番嫌われていました。タカからすれば、情けないよだかと名前が似ている事が気に入らなかったのでしょう。滅茶苦茶な理屈ですが、世の中というものは大体理不尽なのです。
「おい、よだか、よだかはいるか!」
ある日、その恐ろしいタカが、よだかの住んでいる家を尋ねました。よだかは仕方なくタカの前に姿を現しましたが、タカは激怒していました。自分と名前が似ているよだかに対し、前からしつこく名前を変えろと迫っていたのです。
「おい! お前はまだ名前を変えないのか? 随分と恥知らずな奴だな」
「そう言われましても」
よだかは困りました。よだかという名前は神様から貰った名前なのです。しかし、タカにそんな理屈は通用しません。
「いいか。俺とお前ではまるっきり格が違うんだ。俺はこの力強い翼で昼間の大空を飛びまわり、鋭い爪で他の鳥達を捕まえる。でも、お前は夜中にちょろっと出て、虫を食ったりする程度じゃないか」
どうやらタカには『棲み分け』という概念が分かっていないようです。
「いいか、俺がお前の名前を考えてやったぞ。イチローというんだ。いい名前だろう?」
「タカさん、僕の名前を変えるのは無理です。僕は野球なんかやった事ありませんし」
「いいや出来る。そうしろ。お前が名前を変えるためには、改名の告知をせねばならない。だから明日までに木札に『イチロー』と書いて首からぶら下げるんだ。それで他の鳥の家を訪ねて、『私は今日からイチローになりました』と言って回るんだ。いいな」
「そんな無茶な」
「いいや、絶対にやれ。明日になったら、俺は他の奴にお前が来たか尋ねてまわるぞ。もし一軒でも尋ねていなかったら、この足で絞め殺してやるからな」
タカは一方的にそう言うと、そのまま飛び去っていきました。
よだかは文句を言い返す気力もありませんでした。タカに睨まれては勝ち目など無いのです。
「ああ、名前を変えるなんて嫌だなあ。つらい話だなあ」
辺りはもう薄暗くなっていて、家で悩んでいても仕方が無いので、よだかは外に出る事にしました。しかし、森の中を飛んでいると、この世の理不尽さや惨めさで死にたくなってきました。どちらにせよ、明日までにイチロー宣言をしないと、タカに殺されてしまうのです。
かわいそうなよだかは、山の向こうに沈もうとしている太陽を見つけ、こう頼みました。
「お日様、お日様、どうかわたしをあなたの元に連れて行って下さい。焼けて死んでも構いません。私のような醜い鳥でも、燃えるときには小さな光を放つでしょうから」
必死に懇願しましたが、太陽は「かわいそうになあ。お前は夜の鳥なのだから、星に頼んでごらん」と言い残し去っていきました。もう終業間近だったので、適当にあしらったのかもしれません。
よだかは太陽に言われた通り、色々なお星様に「わたしを連れて行って下さい。燃えて死んでも構いません」と頼みました。ですが、「星になるには金がいる」とか「それ相応の身分でないといけない」とか、適当にあしらわれました。つらいことだなあ。
よだかはもうすっかり力を落とし、羽ばたくのをやめて地に落ちていきました。そして、地面にその弱い足がつく直前、よだかはにわかに身体を振るわせ、空へ飛びあが――そこへバイオゴリラが猛襲!
バイオゴリラとは、バイオゴリラ細胞を埋め込まれたゴリラの事である。六本の剛腕と、緑の瞳を持つ恐るべき獣で、ジャングルを暴力で傷つける物に対しては、それ以上の暴力をもって制裁する。
たまにそうでない者も理由なく制裁する。これ以上知りたい場合は、「バイオゴリラ bot」などで検索するのが吉である。
「トリ ウマソウ! イタダキマス!」
「ひいっ!?」
よだかは先ほどまでの疲労も絶望も忘れ、バイオゴリラの手の平の中で震えあがりました。
「ま、待って下さい! 嫌だ! 死にたくない!」
「オマエ ウソツキ シノウトシタ!」
そう、よだかは確かに嘘つきでした。よだかは死にたいという気持ちはありました。しかし、本当は「死にたい」ではなく「生きていたくない」のでした。
タカなんか赤ん坊に見える程の圧倒的脅威を目の前にし、よだかは本能的に「死にたくない!」と思ったのでした。命あるものには全て、最後まで懸命に生きようとする魂があるのです。
「違うんです! 僕が死のうとしたのは深い訳がありまして」
「ハナシテミロ」
バイオゴリラに促され、よだかは無茶苦茶な要求をされ、それに応えなければ明日タカに殺されてしまうという事を説明しました。それを聞いたバイオゴリラの怒りが爆発!
「ウホオオオオオオオオオオーーーーーッ!!」
バイオゴリラの咆哮が森中に響き、鳥達は恐怖に震えあがりました。
◆◇◆◇◆
「くそっ、何だったんだ昨日の声は……オオカミでもクマでもなかったぞ」
翌朝、タカはいらいらしながらよだかの家へ向かいました。昨夜聞こえてきた怪物の叫び声が恐ろしくて、一睡も出来なかったのです。
もしかしたら夢だったのかもしれない。そう考えたタカは、よだかをいじめて憂さ晴らしをしようと思いつきました。名前を変えた姿を笑ってもいいし、奴を絞め殺してもいい。そうすれば多少は気が晴れる。そう考えていたからです。
「おい! よだか、よだかはいるか!」
タカはよだかの家に無遠慮に入りこみました。すると、そこにはいつも通りの、しょぼくれたよだかが座っていました。いつもと違っているのは、首から木札をぶら下げている事です。
「そうかそうか。やっと名前を変える気になったか。ちゃんとイチローと書いたか? どれどれ……ええと、バ、イ、オ、ゴ、リ、ラ?」
タカが木札の文字を読み終えた瞬間、よだかの体積が爆発的に増加する!
「な、なんだっ!?」
タカは仰天しました。あんなによぼよぼのよだかの姿が、みるみるうちに変化し、はち切れんばかりの筋肉と、六本の腕を持つ悪魔みたいなゴリラになったのです!
「なんだ!? メガシンカか!?」
違う! これは……バイオゴリラの擬態だ! ジャングルで生き延びるため、バイオゴリラは己の姿をある程度変化させる事が出来るのだ! タカは慌てて逃げようとしましたが、超音速で繰り出された腕が傲慢なタカを鷲掴みにする!
「ジャングル タンパクシツ キチョウヒン! ムダニスルヤツ ユルサナイ!」
バイオゴリラ大激怒! ジャングルで食える物を確保するのはとても大変なのだ。それを、たかが名前が気に食わない程度で無駄に殺すなど言語道断! 許すまじ!
「は、離せバケモノ!」
鳥の王者タカも必死で抵抗しますが、ティッシュを丸めるようにポルシェティーガーを握りつぶすバイオゴリラ握力の前ではあまりに無力!
「トリ タンパクシツホウフ イタダキマス!」
「うっぎゃああああああああ!!」
バイオゴリラがタカをそのまま丸のみにする! タカは断末魔の悲鳴を上げ、バイオゴリラに一瞬で食い殺された!
こうして森の王者であるタカはあっけなく死んだ。鳥達はタカに怯えずに済むようになり、ほっと胸を撫で下ろした。
だが、頂点捕食者であるタカの代わりに、超捕食者バイオゴリラになっただけで、別に鳥たちの生活は変化が無かった。
なお、よだかはあの夜に食われた模様。
鳥の王者であろうが、醜いよだかであろうが、バイオゴリラの前ではただのタンパク質に過ぎないのです。そう、一秒だろうが四十六億年だろうが、無限に流れる刻の中では、どちらも同じであるように……。
仲が悪かったタカとよだかは、今では仲良くバイオゴリラの血肉となって生き続けています。今も熱エネルギーとして燃えています。
――ありがとう、バイオゴリラ。
答え:ポルシェティーガー