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転生して美少女になったと思ったら、おっぱいだった

「ウオオオオオオアアアアアアアーッ!! なんで俺は美少女じゃないんだああぁぁぁあぁぁあぁ!!」


 狭苦しい部屋の中、男が叫んでいた。それは嘆きの慟哭であり、魂の叫びであった。

 男は美少女になりたかった。だが、男だった。

 主人公が美少女になるタイプの本を何冊も読んでいた。しかし男だった。どうしようもなく男であった。


「なんてこった! 三十歳まで童貞でいれば魔法使いになれるって情報だったのに、全くその気配がないぞ!」


 男は、インターネットの与太話である「三十歳まで童貞でいると魔法使いになれる」という事だけを支えに今まで生きてきた。三十歳になり、魔法使いになって魔法で美少女になる。

 その僅かな可能性にかけ、かろうじて人生を三十年間生きて来た。

 だが、現実は無情である。昨日三十歳を迎えたが、男はやはりさえない男のままだった。当たり前である。


「ち、ちくしょう! キャラクターメイキングに失敗した! これはリセットするしかねぇ!」


 言うが早いか、男は美少女抱き枕カバーを取り出し、


「うおおおーーーっ!!」


 おもむろに体を抱き枕カバーにねじ込んだ! 抱き枕カバーは文字通り抱き枕を入れる物だ。人間の男性が入るような設計にはなっていない。事実、抱き枕はピチピチで、ご飯を詰め込み過ぎたいなり寿司みたいになっていた。だが、これこそがこの男の狙いだった。


「俺は人生をやり直す! 美少女の抱き枕を被って死ねば、きっと美少女の皮を被ったまま来世で生まれ変われるはずだ!」


 そうして、抱き枕カバーで男はスタイリッシュ窒息死した。こうしてこの哀れな男は、抱き枕を死体袋にしてこの世を去った。享年三十歳と一日だった。



「ここは……どこだ?」


 気が付くと、男は不思議な空間にいた。どこまでも続く乳白色の空間で、ぼんやりと(もや)のような浮かんでいる場所だった。


「目が覚めたようですね。哀れなる人の子よ」

「だ、誰だ!?」


 男の目の前には、薄布一枚を羽織っただけの女性が立っていた。腰よりも長い銀の髪を持つ、彫刻のように美しい女性であるが、それよりも特徴的なのは、顔と同じくらいの巨乳だった。


「私は乳の神ボインプルン。あなたの魂の叫びが聞こえたので、呼び寄せたのです」

「ボインプルンだと!?」


 ボインプルンと名乗る女性は、男の驚愕に微動だにせず、ただ悲しげな表情で男を見た。


「あなたは来世では美少女になりたいと言ってましたね。残念ですが、それは出来ないのです」

「なんだって!? 何とかならないのか!? 大体、なんで乳の神が俺を呼ぶんだ? そもそも乳の神ってなんだよ!」

「トイレの神様や福の神もいるのですから、乳専門の神がいてもおかしくはないでしょう」

「そうだな」


 男は速攻で納得した。それよりも、美少女になれないという事実がショックだった。


「話を戻しますが、私があなたを呼び寄せたのは、私がせめてもの罪滅ぼしをしたいと思ったからなのです」

「罪滅ぼしだって? あんた、一体何をしたんだ?」

「実は……あなたがおっぱいに縁が無かったのは、私のせいなのです」

「な、なんだと!?」


 聞き捨てならないセリフを聞いてしまい、男は思わずボインプルンに詰め寄る。だが、ボインプルンは申し訳なさそうに目を伏せるだけだ。


「世界のおっぱいには限りがあり、やはり人類を維持していくためには男性全員におっぱいを揉む権利を与えられないのです。残念ながら、あなたは未来永劫おっぱいとは縁のない運命を強いられているのです」

「そ、そんな……そんな馬鹿な!?」

「残念ながら事実なのです。私は所詮ただの乳の神。より上位の全知全能の神には逆らえないのです」

「ば、馬鹿な……じゃあ、俺は一体なんのために生まれて来たんだ……」


 男はがっくりと項垂れ号泣した。今後、世界が終わるまでおっぱいと縁がないという宣告を受けてしまった。という事は、美少女にもなれないし、おっぱいも揉めないのだ。何と恐ろしい宿命だろう。


「その事で私があなたを呼び寄せたのです。あなたはおっぱいを揉む事が出来ない運命の輪の中に生まれました。ですが、私の力を使えば、多少はお手伝いが出来るかもしれません」

「どういう事だ?」

「あなた自身が、おっぱいになる事です」

「俺自身が……おっぱいになるだと!?」


 一体この女は何を言っているのだろう。自分を棚に置いて気が狂っているのではと疑いをかけるが、ボインプルンは真顔である。


「私は乳の神。具体的に言うとおっぱいの大きさを決めたり、おっぱいを通して神力を付与する事が出来るのです。あなたは私の眷属となり、迷える地上の娘達の胸に飛び込むのです」

「そうなると、どうなる?」

「あなたがおっぱいの事を愛せば愛するほど、あなたを触媒にしてその女性に力を与える事が出来るのです」

「なるほど……つまり、俺自身がおっぱいになるってのはそういう事か」

「その通りです。眷属というと聞こえはいいですが、私の部下であり、道具になるという事でもあります。ですが、この方法以外に、あなたがおっぱいに触れる方法は無いのです!」

「よし! 分かった! 俺はあんたの眷属になるぜ!」


 男は即決した。一秒と掛かっていない。


「本当にいいのですか? あなたはおっぱいに飛び込む事は出来ても、揉んだり吸ったりは出来ないのですよ?」

「ああ、構わない。例え一部であれ、美少女になれるなんて最高じゃないか」


 男は破顔した。この男がこれほどの笑みを浮かべるのは、生まれて初めてだろう。


「分かりました。では、この私、ボインプルンの眷属となるのです!」

「よっしゃ! 任せてくれ!」


 こうして契約は履行された。男が叫んだ次の瞬間、乳白色の空間に猛烈な光が溢れる! そして数秒もすると、ボインプルンと同じ銀色の髪をした、美しい天女が立っていた。


「こ、これは!?」

「これであなたは私の眷属となりました。この空間では姿を見る事が出来ますが、あなたはエネルギーの塊。地上に降りればただの光としか認識されないでしょう」

「それでもいい! 今、この瞬間、俺は美少女になったんだ! ありがとうボインプルン様……」


 こうして男は美少女となり、ボインプルンの前に跪いた。それは強要されたものではなく、心の底から溢れ出る感謝による忠誠の表れだった。


「よして下さい。元々は私の力不足が原因なのですから。さて、改めて眷属となったあなたには、何か名前を与えねばなりません。希望があれば言うといいでしょう」

「名前か……では、∞(インフィニティ)でお願いします」

「∞、ですか? それは一体どういう理由で?」

「さっきボインプルン様は、おっぱいを愛する力によって分け与える力も変わると言っていたでしょう? そして、俺のおっぱいに対する愛は無限……つまり、∞(インフィニィティ)……それに、『∞』って記号、よく見るとおっぱいっぽいじゃないですか」


 美しい銀髪の少女――∞がそう言うと、ボインプルンは苦笑した。

 だが、すぐに真顔になる。


「では行くのですインフィニティ! この世の全てのおっぱいを守るため、乳の飢えに苦しむ衆生(しゅじょう)に救済をもたらすのです!」

「了解しました!」


 そう言うと、インフィニティは矢のように乳白色の空間を突き抜け、地上へと旅立った。自分と同じ苦しみを味わう者達を、おっぱいを通して救うために……。


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