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第7話 序盤で貴族はお約束




「さて、と」


 くるりと振り向いて馬車と護衛を見るガイ。


「助力いただき助かった。お礼申し上げる」

「名のある武人とお見受けするが?」


 頭を下げつつも、ガイに対する警戒を緩めたりはしない。

 ピンチを救ってくれた恩人とはいえ、彼らは彼らなりに誇りを持ってこの護衛任務に当たっているのだろう。

 ガイはそう言った任務に対して真摯に向かう軍人は好きであった。


「名はガイ。まだオレの名前を知っている奴らはここではいないだろうな」

「ハク以外はな!」

「お前はちょっと大人しくしてろ。その気絶してる襲撃者を見張っておけ」

「了解なのだ!」


 ハクに気絶しているのか死んでいるのかよく分からない人の山を見張るように命令してから、改めて護衛たちに向き直る。


「改めて、オレはガイ。世界最強になる予定の男だ」

「は?」


 何の気負いも衒いもなく、さらりとそう言い切ったガイに唖然とする護衛たち。

 ただ、先ほどの戦いの様子を見ている限りでは、少なくとも護衛たち全員が束になってかかったところで歯牙にも掛けられないのは明らかだ。


「さて、何が起きたのか聞いてもいいのか?」

「そ、それは……」

「いや、無理に聞かせろと言うつもりもないがな。聞かせられない話なら話さなくて構わん。その代わり、少しオレの質問に答えてくれ」


 一瞬言いよどんだ護衛の気持ちを察したか、手を振りながら日本人的な笑みを浮かべるガイ。数々の国と戦場を渡り歩いてきた男である。対人スキルもそれなりに鍛えられているのだ。


「皆さん、ここは正直に話してしまいましょう」


 その時、馬車の扉が開くと妙齢とおぼしき女性の声が聞こえてきた。


「お嬢様!?」


 慌てる護衛たち。

 自分たちの護衛対象が自ら馬車を降り、姿を晒そうというのである。慌てるのも当然であろう。


「度胸のあるお嬢さんらしいな」

「度胸があるのはいいことなのだ!」


 馬車から降りてきたのは、質の良さそうなシャツと動きやすそうなズボン、そして軽装の革鎧を身につけて鞘に収まったままの長剣を持った短髪の美女であった。

 ぱっと見は大人っぽい装いだが、せいぜい14,5歳と言ったところだろう。


「馬車を降りられては!」

「構いません。その方が私たちを襲うつもりならわざわざ油断させる必要などないでしょう。違いますか?」

「う……」


 黙り込んでしまう護衛たち。

 それでも、ガイ達と美女の間に体を滑り込ませることは忘れない。

 そうすることで気絶しているらしい襲撃者の山からも射線を通さずにいられるからだ。


「若いのに、随分と肝が据わってる」

「お褒めいただき光栄です。ガイ様でしたか。私は、この西方の辺境領を治めている辺境伯家が長女、ウルスラと申します」


 そう言って綺麗な礼を披露する美女ウルスラ。


「これはどうもご丁寧に。オレはただのガイだ。旅の武人だな」

「我はハクなのだ!」


 そう言ってにこやかに手を振るハク。


「コイツはオレの……」

「生涯の伴侶なのだ!」

「うるさい、お前は黙ってろ……。まあ、使い魔でも従魔でも下僕でも舎弟でも弟子でも好きなように呼べ」

「ひどいのだ!?」

「下僕じゃ無いだけマシだろうが!?」


 頭に噛みつかんばかりの勢いで飛びついてきたハクを引きはがそうとするガイを見て、ウルスラが堪えきれないといったように笑い声を上げる。


「笑ってる方がいいぞ?」

「え?」

「どんな世界でも、女、子どもが笑っていられる世界の方がいいに決まってるからな」


 ニカッと笑うガイに、深くにもときめいてしまったウルスラとハクであった。


「ガイも笑ってる方がいいのだ!」

「頬ずりすんな!?」


 そうして、ひとしきり和やかな空気が生まれた後。


「なるほど、良くある話だな」

「ええ、良くある話なのですが……」


 ウルスラの話はこうだ。


 この辺境伯領は、魔の森から万が一魔物が現れた時の最前線となる地である。

 そのため危険ではあるのだが、そのぶん税などの面で優遇されているし、魔の森の浅い領域で採れる各種素材は辺境伯家が優先的に取り扱うことが出来る。それは、辺境伯家にとって大きな収入源でもあった。


「ハクがいた頃は魔物もそうそうヤンチャしなかっただろうから、辺境伯家にとってはいい時期だったな」

「ハクちゃんですか?」

「ああ、気にしなくていい。続けてくれ」


 ウルスラの父である辺境伯オルベアが壮健であった頃は問題なかったのだが、老境に差し掛かり衰えが見えてきたこの頃、長男であるイザークに不穏な動きが見え隠れしてきたのだ。


「兄は、もう一人の兄と共に、魔の森を開拓しようと目論んでいるのです」

「そいつは無謀だな。オレとハクならともかく」

「はい。ここ何年も強大な魔物が森から出てきたことはありません。何を勘違いしているのか、兄たちはそれを好機ととらえているのです。もちろん父は決して首を縦には振りませんが」

「そこで短絡的な手段に出ようとしている訳か」

「はい」


 このところの辺境伯オルベアの衰弱具合がどうも異常な速度であると訝しんだウルスラと家令が中央から薬師を呼ぼうと領主の館を出発してから今日で三日目。


「追っ手が現れたのです」

「追っ手というか、もう完全に刺客だけどな」


 ちらりと襲撃者の山を見るガイ。


「はい。まさかここまで直接的な手段に出てこようとは私も思いませんでした」

「いや、もし本当に毒でも盛っているとしたら今さら後には引けまい。これくらいのことはしてくるだろう」


 黙って俯くウルスラ。

 要するに保守派の父と急進派の息子が対立しているのだ。

 ウルスラは保守寄り……というか、父親に味方しているだけのようだが。


「魔の森を甘く見ちゃダメなのだ! 魔獣たちを怒らせたらこんな辺境の国くらい一晩で滅んでしまうのだ!」

「まあ、国ってのは間違いかもしれんが、わざわざ虎の尾を踏みに行く愚を犯すのは感心出来んなあ」

「全くです。我が兄ながら愚かなことです」


 唇を噛みながらガイを見るウルスラ。


「何にせよ、私たちが助けられたことは事実です。せめてお礼をと思うのですが……」

「ああ、持ち合わせも多くないだろう。後払いでいいさ。それより、ハク」

「?」

「お前、解毒とか回復とかそれ系統の魔法も大丈夫だよな?」

「大丈夫なのだ! 我は万能なのだ!」


 耳をピコピコさせながらハクが偉そうに胸を張る。

 ガイに頼りにされるのが相当嬉しいようだ。


「だとさ。どうする?」


 ニヤリと笑いながらウルスラ達を見るガイ。

 一瞬きょとんとした顔をするウルスラだったが、ガイの言わんとすることを理解すると目を大きく見開いて深々と頭を下げるとこう言った、


「お助け下さいませ!」

「いいぜ。助けてやるよ。イベントは逃しちゃいかんからな」


 そう言ってサムズアップするガイであった。

お読みいただきありがとうございます。

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