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第6話 トラブルは向こうから




「ガイ、争いの音がする」


 しばらく歩いていたら、ぴんと耳を立てたハクがそう言った。


「争い?」

「そうだ。剣を打ち合う音がする」


 ガイも聴力を更に強化すると、音を聞き取ったらしく大きく頷く。


「行くぞ、ハク」

「分かったのだ!」


 僅か二歩でトップスピードに乗せると、音がする方向へ駆け出す二人。

 一分もかからずにその光景が目に入る。


 一台の馬車が道を外れて草原へ突っ込んでしまっている。

 その周囲を馬に乗って軽装の鎧を身につけて剣を持った男が守っているようだ。


 当然その集団を襲う集団もいる訳で。


「野盗の類いには見えんな」

「そうなのか?」

「ああ。小綺麗すぎる」


 襲う側も革鎧を身につけ、剣や槍で武装している。

 中には馬に乗ったまま弓を構えている男もいる。

 それなりに戦いの心得のある集団のようだ。


「さて、どっちに味方したものか……」

「当然襲われている方だろう!」


 不思議な顔でガイを見るハク。


「まあ、それが順当っちゃ順当なんだがなあ」

「何を悩むのだ?」

「馬車の中身が問題なんだよ。すげえデブの貴族とかだったりしたら助けて後悔しそうだろうがよ?」

「むむむ……」


 腕組みをして悩み始めるハクだった。


「ま、とりあえずもう少し近づいて様子を見るか。今すぐに決着がつきそうな雰囲気でもねえしな」

「分かったのだ!」


 気配を殺してゆっくりと戦闘区域に近づいていく二人。

 背丈の高い草むらを選んで近づいていくと、強化した聴覚に会話が聞こえてきた。


「貴様ら、イザークの手の者だな!」

「恥を知れ!」

「お嬢様を守るんだ!」


 こちらは馬車を守っている男たちの声だ。


「知らんな。オレたちはただの野盗よ」

「上等な馬車に乗った獲物を逃したくないだけさ!」

「殺っちまえ!」


 こちらは馬車を囲んでいる連中だ。


「自分で自分を野盗だって言う野盗がいるかよ」

「お嬢様とか言っていたのだ。馬車の中身は女なのだ」

「そうらしいな。ちょっとやる気出てきた」

「女だからか! ハクがいるだろう!」

「そういう問題じゃねえよ!」


 飛びついてきたハクを引きはがしながらガイが立ち上がる。


「行くぞ、ハク。人助けだ」

「了解なのだ!」


 二人は草むらから出ると、猛スピードで戦闘区域に突入する。

 だいぶ距離が近づいて、ようやく戦闘中の男たちが二人に気付いたようだ。


「新手か!?」

「伏兵か!?」


 同時に叫んだ守備側と襲撃側の男がちらりと顔を見合わせた。

 乱入者がどちらの側でも無いことを悟ったらしく、同時に声を掛けてくる。


「助けてくれ! 襲われている!」

「信じるな! そいつらは犯罪者を隠している! 馬車の中には罪人がいるんだ!」


 これまた同時に叫ぶ両陣営。


「さっき自分たちは野盗って言ってたじゃねえか。お前ら嘘つきだな」

「嘘つきは良くないのだ!」


 ハクがジャンプして戦闘の襲撃者の頭上を飛び越えて弓を構えていた馬上の男の正面に着地する。

 飛び道具を持っているヤツは最優先で処理しろとガイに教わっていたからだ。


「な!」


 信じられない距離をひとっ飛びで跳躍してきたハクに仰天する馬上の男。

 とっさに構えていた弓で狙いを付けようとするが、その瞬間にはもうハクは空中に身を躍らせていた。


「流星脚!!」


 かけ声と共に重力加速度を無視した速度で錐揉みしながら馬上の男に向かって突進するハク。キラキラと光を振りまきながらである。

 どう考えても魔力の無駄遣いだが、仕方ない。

 必殺技には見た目も重要なのだから。


 男は慌てて腕を交差させて防御しようとしたのだが、人の防御力などハクにとっては紙切れ同然、いやティッシュペーパー同然である。


「ぐぼあっ!?」


 メキメキと音を立てながら男が馬ごと打ち倒される。

 間違いなく死んだ。

 というか馬も死んだだろう。巻き添えであった。


「弱いな!」


 すっくと大地に立って笑うハク。

 周りにいた男たちは、ガイを除いて全員呆然としている。

 さもありなん。


「加減しろよー」

「してるのだ! 爆散しないだろう!」

「それもそうか」


 全力で魔の森の魔獣に試した時は消し飛んだから、それを考えれば十分手加減されている。

 それが男たちにとって救いにならないところはご愛敬だ。


「な、なんだ、その出鱈目は!!」

「必殺技なのだ!!」


 ばばーんと効果音が着きそうな態度で胸を張るハク。


「お前らの相手はこっちだろ?」


 無造作に近づいてくるガイを見ると、思い出したように斬りかかってくる襲撃者たち。


「まあまあだな」


 いつの間にか男たちの間をすり抜けたガイの手には、四本の剣が握られていた。

 すれ違いざまにすり取ったのだ。


「な!」

「オレの剣が!?」

「つまらん」


 地面に四本の剣を突き立てると、ローキック一閃、全て折って破壊してしまう。


「馬鹿な……」


 唖然としてその光景を見つめる襲撃者と護衛たち。


「さて、やろうか。武器なんて無粋なもんはいらないぜ?」


 ニヤリと笑いながら手招きするガイ。

 剣をたたき折るパフォーマンスを見せられて逡巡する襲撃者たち。

 もちろん護衛側もそれは同じだ。


「来ないならこっちからいくぜ?」


 ゆらりとガイの身体が揺れたかと思うと、まるで消えたかと思うような速度で襲撃者の懐に入る。

 ドゴンと人が立てていい音ではない音が響くと、襲撃者が一人、地面と水平に吹き飛んでいく。その勢いのまま地面に落下して、ごろんごろんと転がり続けて止まった。


「うわ、これでもダメか。手加減って難しいな」


 ぽりぽりと頬を指でかく仕草。

 明らかにごまかしている。


「撫でるような感じで行けばいいか?」

「う、うわあああああっ!!」


 視線を向けられた襲撃者が叫び声を上げながら突進してくる。


「とち狂ったか?」


 つかみかかってきた男をするりとかわしながら、足を払いつつ後頭部を押し込む。

 空中でくるんと一回転して地面に叩きつけられた男は白目を剥いて気絶したようだ。


「おお、上手くいったぞ」


 満足げに頷くガイを見て、残りの襲撃者たちが一目散に逃げ出していく。


「おいおい、そりゃねえよ」


 ガイが小さく練った闘気弾を指で弾くようにして撃ち出すと、襲撃者たちは次々と倒れていく。

 倒れ伏した襲撃者たちをハクがずるずると引きずって集めてくる。


「生きてるか?」

「当たり所次第なのだ!」


 ハクの言う通り、命中した部位によっては死んでしまった者もいるようだ。


「ま、人の命を狙う以上は自分の命が失われる覚悟くらいあるだろう」


 表情一つ変えないガイ。

 日常的に命のやり取りをしてきたガイだから当然と言えば当然なのだが。


 どさどさと無造作に襲撃者たちを放り投げていくハクを見て、護衛の男たちが唖然とした顔をしている。

 身長こそそれなりに高いが、どう見ても少女にしか見えないハクが鎧まで着けた大の男を軽々と持ち上げ放り投げるのは明らかに異常な光景だからか。


「なんだ。ハクの顔に何か着いてるか?」


 自分が見られているのを察したのか、ハクが護衛たちに問いかける。


「少なくとも耳は着いてるわな。ついでに腰から尻尾も生えてるし」

「確かにそうだな!」


 破顔一笑するハク。

 実に魅力的な笑顔であった。

お読みいただきありがとうございます。

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