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第1話 異世界転移

とりあえず爆死w




 男、凱は走っていた。

 鍛え抜かれたその身体を汗まみれにし、日頃走り込んでいるコースをただひたすらに走り続ける。


 はっはっと弾む息。

 身長は190cm近いだろうか。

 明らかに何か武術を修めているであろうその巨躯を自由自在に操りながら、石畳の道を、金属の柱を、木製の柵を、全て乗り越えて進む。


「よっと!」


 壁や柵、建物を乗り越えてひたすら自由に駆け抜ける凱。


 俗に言うフリーランニング。

 パルクールである。

 男性のパルクール実践者であるから「トレーサー」と言うべきか。


「ま、壁やら何やらを勝手に登られて、屋根の上走られりゃ文句の一つも言いたくなるわなあ」


 常識ある皆さんは真似してはいけない。

 ちゃんとルールとマナーを守ってトレーニングしていただきたい。

 迷惑になるから。


「よっと!」


 幅4mはあろうかという水路を走る勢いそのままに飛び越えて、柔道の前回り受け身の要領で転がって衝撃を殺し、何事も無かったかのように立ち上がって走り続ける凱。


 次は、ほぼ垂直に立つ四角い箱形の建物の壁を蹴り、壁の僅かな摩擦力を利用して一気に身体を屋根の上へと引き上げる。


 そして屋根から屋根へ飛び移る。

 その姿はまるで超人。






 事実、凱は超人と言って差し支えない能力と経歴を有していた。


 年齢は26歳。

 生まれは東北の山中の小さな村。

 幼い頃から身体を動かすことを何よりの楽しみとし、空手、柔道、剣道、合気道、その他諸々含め、武道と名のつくものを全て修めてきた。


 自らの肉体のみを武器として、あらゆるモノを倒す。


 それを己が人生の目標として生きてきた男であった。


「人を殺せぬ力に何の意味があるのか」


 そう言って彼が日本を旅立ち、某国の外国人傭兵部隊に飛び込んだのは、凱が20歳の時であった。

 道場破りや非公式の試合、果てはストリートファイトまで。

 強者を求め戦い続けた凱が辿り着いたのは、武の、いや暴力の本質であった。


「命のやり取りを凪の心で出来ねば最強にはほど遠い」


 ただの「試合」に厭いた凱が求めたのは「死合い」であったのだ。


 海外の無法地帯で数々の暴力と戦い続け、勝ち続けた凱。

 近接武器、果ては銃器までを相手に無手を貫いた凱。

 戦場で敵を屠り続けた凱。


 さすがに銃を相手にした時は、自らの手で投げる投擲武器だけは使ったし、戦場では銃の扱いも天才的だった。戦場は「死合い」の場ではなく、効率よく敵を葬り去るための訓練の場だったから。


 そしてあらゆる手段を講じた。

 命のやり取りに卑怯という言葉はないのである。




「この街もそろそろ移る時期だな」


 最近は中東の危険地帯にほど近い街を根城にしていた凱であったが、戦線が移動し始めたために街そのものが危険に晒される可能性が濃厚になったのだ。


「さすがのオレも、空爆でもされりゃあ敵わねえからな。漫画みてえには行かねえや」


 苦笑する凱。

 その時だった。


「あ?」


 耳慣れない音。

 閃光と轟音。

 爆風と熱が凱を飲み込んだ。


「マジか……」


 凱の意識は途切れた。






「目覚めろ。覚醒できたらご褒美だ」


 そんな声が凱の耳に飛び込んできた。

 低い男の声だ。


「生きてんのか……?」


 ぼんやりとした意識の中で自問自答する。


 あれはおそらく爆撃かミサイル。

 戦争が始まったのだろう。

 間違いなく死んだ。


「オレの勘も、肝心な時に役に立たねえなあ」

「起きろ。というか起きてるだろう」

「ああ?」


 はっきりと耳に飛び込んできた声にはっとして飛び起きる凱。


「おお、起きたのう」

「だから言っただろう。おい、男。こっちを見ろ」


 女と男の声。

 凱は声のした方をじっと見つめる。


「見えとるのか?」

「少なくとも声は聞こえている。見えているなら逸材だ」


 甲高い幼女のような声と、渋い映画俳優のような魅力的な低音。

 ぼんやりとした火の玉のように揺らめく光だったものが、じっと目を凝らすにしたがって人の形を取り始める。


「幼女とチョイ悪?」


 そこにいたのは、フリフリのリボンドレスに身を包んだ金髪の超美幼女と、高級そうなスーツでびしっと固めたオールバックの銀髪イケメンオヤジであった。


「おお、見えとるようじゃぞ?」

「誰がチョイ悪だ、ああ?」

「どう見ても悪そうだろうが!?」


 思わずツッコミ返してしまった凱。


「ほうほう、主にはこのように見えておるのじゃなあ。なかなか可愛いではないか」

「格好いいのは確かだが……」

「良いではないか。わしらを前にしてツッコミができるとは大した肝っ玉よ」


 口元を隠して笑う美幼女。


「ふん。さすがに身も心も鍛え上げた武人は格も違うということだろうな」

「なあ、オレは死んだんじゃないのか?」

「ああ、死んだな」

「うむ。見事に死んだのう」


 イケメンオヤジと美幼女に断言されてしまい、若干ヘコんだ感じの凱。


「そうか。やっぱり死んだのか。ま、あれで死ななかったら人間じゃねえわ」

「随分とさっぱりしておるのう」

「いや、敵に負けたわけじゃねえからな。とは言え、悔しい事は悔しいわ」

「悔しいか」

「ああ、悔しいね」


 イケメンの問いかけに即答する凱。


「人間にはやっぱり限界があるって思い知らされたよ。近代兵器に勝てるような生物になりたかったなあ。漫画みてえなさ」

「なりたいか?」

「なれるもんならなりたいね。っても、死んじまったんじゃなあ」


 肩をすくめる凱。


「ならばなってくるが良いぞ」

「なりたいというなら話は早い。人の身でありながらそこまで自らを鍛え上げ、戦いに全てを捧げた貴様への褒美だ」

「どういうこと?」


 ニヤニヤと笑う美幼女とイケメンに問い返す凱。


「うすうす分かっていよう?」

「これも様式美だそうだからな。貴様が今から行くのは」

「「異世界だ」」


 二人の声が綺麗に重なる。


「はあ!?」


 素っ頓狂な声を上げる凱。


「異世界って、そんな、まさか」

「近代兵器など存在しない、剣と魔法の世界じゃぞ」

「貴様の磨き上げた暴力が存分に振るえよう」

「なに、お主のこれまでの気が遠くなるような研鑽に対しての褒美も取らそう。お主の肉体は更に強くなり、完全な力の化身となれようぞ」

「貴様が異世界に適応できるよう、頭も身体も造りかえておいてやる」


 心底楽しそうに笑う二人。


「あんたら、神様ってヤツか?」

「そう言っても良い」

「間違いではないな。だが、条件があるぞ」

「なんだ?」


 イケメンが人差し指を立てて言う。


「たった一つの条件だ。それは、貴様が『曲げないこと』だ」

「曲げないこと?」


 首を傾げる凱。


「そうじゃ。どのような危険が迫ろうとも、どのような困難が待ち受けようとも、お主自らの心を曲げぬ事じゃ。もしそれが叶わんかったら……」

「安心しろよ。それだけはねえよ」


 美幼女の台詞を遮って凱が言う。


「オレは曲げねえよ。曲がる時は死ぬ時だ」

「よく言うた!」


 笑いながら拍手する美幼女。


「迷い無く言い切る胆力。見上げたものじゃ」

「だって、曲げなくていいって事はさ、要するに『好きに生きろ』ってことだろ。そんな嬉しい話はねえよ」


 そう言ってニカッと歯を見せて笑う凱。

 心底楽しいように見えた。


「好き勝手生きることも最後まで貫ければ立派なものだ。その時にはまた相見えることもあるだろう」

「そうじゃな。主が暴の化身としてココまで登ってくるのを楽しみにしておるぞ?」

「よく分かんねえが、恩に着るよ。あんたらが神様だってんなら、オレの生き様を見といてくれ。退屈はさせねえぜ」

「ははは! 楽しみにしておるよ」

「では行け。新たな世界へ!」


 美幼女とイケメンが揃って指さす方向に扉が出現する。

 その扉が勝手に開くと、凱をもの凄い力で吸い込んでいく。


「うお!?」

「ではさらばだ」

「ではのう! また会うのを楽しみにしておるぞ!」

「ありがとよ、神様たち!」


 扉は凱を吸い込むとバタンと閉じて姿を消した。


「行ったか」

「行ったのう」


 顔を見合わせる美幼女とイケメン。


「どれ、楽しませてくれるかのう」

「好き勝手生きるのも大変だ」

「好き勝手出来るように力を付け足すんじゃろうが?」

「闇堕ちしてどこかで『曲がる』だろうさ」

「それはそれで良かろう。ワシらには何の影響もないじゃろ」

「それはそうだが」

「もしかしたら本当にココまで登ってくるかもしれんじゃろ?」

「だといいがな」


 そう言って美幼女とイケメンは姿を消した。


 さてさて、物語の始まり始まり。


お読みいただきありがとうございます。

良ければランキングのリンクも……(◎_◎;)

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