7 僕の学園に婚約者が転校してくるなんてことはない!
休み明けの月曜日。
教室に自分の席に座る僕の心は気持ちのいい天気とは裏腹に憂鬱でどんよりと曇っていた。
教室のドアを開けて先生が入ってきた。ざわめいていた教室が一瞬で静かになる。
何故だか先生は額に汗を浮かべ、鬼気迫る表情をしている。
「い、いきなりだが、転校生を紹介する」
静まっていた教室の中が、先生の言葉を聞いた瞬間、再びざわざわし始めた。
「て、転校生だって⁉︎」
「本当いきなりでびっくりだな⁉︎」
「転校生が来るウワサとか聞いてた〜?」
「全然! な〜んにも知らなかったわよ!」
ヒソヒソと周りから声が聞こえる。
(みんな興味津々だな〜。まあ、そんな僕も興味津々だけどね〜)
でも、気になるのは……先生は何であんなに必死な表情をしてるんだろう?
「し、静かに! では入って来て下さ……は、入りなさい」
ん?
聞き間違えたかな?
まあ、どうでもいいか。
そう先生に案内されて入って
来た生徒を見て、僕は驚きのあまり心臓が止まりそうになる。
ビックリして声が出そうになった口を必死に両手でふさいだ。
「す、すっげー可愛い⁉︎⁉︎」
「こ、こんな可愛い子始めて見たー⁉︎⁉︎」
「きゃー⁉︎⁉︎ すっごく可愛い!」
「本当‼ 同じ人間とは思えない!」
(な、何で彼女が⁉︎)
教室に入って来た転校生とは藤咲さんだったのだ。
僕はなるべく彼女と視線がぶつからないようにした。
「そ、それでは、自己紹介してくれるかな?」
なんとなくだが、何で先生の様子がおかしいのか分かる気がする。
「はい! 私の名前は藤村 芽衣子と言います。突然ですがよろしくお願いします」
ぺこりと可愛いらしく挨拶をする藤咲さん。名前の偽名には正直驚くが、まあ………これもなんとなくだが理解できる。というか、もはやなんでもありなんですね。
「先生質問いいっすかー!」
「なっ⁉︎ な、な、何を……」
先生が血相を変える。
「先生………」
そう言って先生の言葉を手で止める。
「構いませんよ。私に答えれる事なら」
ニコニコして藤咲さん言った。
「いきなりなんすけど、彼氏とかいるんすかー!」
「ば、馬鹿⁉︎ 何を聞いとるんだお前は‼︎」
「これぐらい、いいじゃないっすか〜!」
先生は脂汗を滲ませながら藤咲さんの方に視線を送る。
「大丈夫です。はい、許婚がいます」
藤咲さんの言葉を聞いて、騒がしかった教室がシーンと静まり返る。
そして一斉に
「えええぇぇぇ〜〜〜〜〜⁉︎⁉︎」
教室中に絶叫が響きわたる。
もしかしたら、隣のクラスにまで聞こえているかもしれない。
「い、許婚だってええぇ〜〜⁉︎⁉︎」
「嘘〜⁉︎ 何かドラマやアニメみたい⁉︎」
「本当にそんなのって存在するんだ⁉︎」
「その男が羨ましい〜〜!」
「どんな男なんすか?」
「私も興味あるー!」
藤咲さんは顎に人差し指を当て少し考えこみながら
「それはヒミツです!ふふふっ」
そう口にした。
えええぇぇ〜〜⁉︎⁉︎
と残念そうなみんなからの悲鳴が聞こえるが、僕としては心臓に悪いから早くこの時間が過ぎてほしいと思う。
そんな僕の心の声が届いた訳ではないだろうが、先生は静かにしろ!と一喝して藤咲さんの自己紹介は終わる。
ふぅ〜と僕が一息ついたのもつかの間だった。
じゃあ、座ってもらう席はと先生が周りを見渡していると、いきなり藤咲さんは一瞬何かに気付いたような表情をして
「先生すみませんが、後ろの窓際の隣の席をお願いしたいのですが……」
細かく指定して来たのだった。
先生としてはほっとした気持ちがあったのだろうかそんな表情を見せていた。
「じゃあ、座ってもらう席は時任の隣りで……」
そこで先生は一瞬藤咲さんの表情をうかがうようにしていた。
いやらしい! いやらしいよ先生! 大人はいやらしい‼︎
「それで大丈夫です。ありがとうございます!」
こうして藤咲さんは、僕の隣りの席に決定したのだった。
「よろしくね、時任君」
「よ、よろしく」
ニコニコしながら僕に挨拶をしてくる藤咲さんに僕はぎこちなくも何とか挨拶をかわした。
クラス中の男子の視線が僕に突き刺さる。
「おい!これは一体どういう事だ⁉︎」
「俺が聞きたいぜ!どうなってやがる⁉︎」
「まあまあ落ち着けよ、お前達。時任のやつも俺達と同じでモテないメンバーだぜ。何のことはない………藤村さんは、ただ窓際の席の近くに座りたかっただけだろうよ……ふっ」
「さすがたけちゃん!渋いぜ!」
「あぁ、惚れ惚れするぜ!」
「ふっ、あんがとよ!」
「ねえ、お取込み中悪いんだけどさ〜………時任君可愛いって評判で結構モテるよ。それに、学校一の美男子って言われてる坂口君といつも行動してるから注目もされるしね」
「…………………おのれ〜、時任⁉︎許さんぞ〜〜〜‼︎」
「…………たけちゃん、ダサいよ〜」
「あ……あぁ、格好悪いぜ」
うぅ〜、何かすごい悪寒が………ぶるぶる。
授業が始まり出してもそんな僕の心とは裏腹に、藤咲さんは教科書見せてもらえるかな〜と言って机を近づけてきたりするのだった。
「あぁ〜、生きた心地がしない……」