33 僕は何故かイライラしてしまうのだった。
「ど、どうしてここに⁉︎」
今度は藤咲さん達が僕の言葉に驚き返してくる。
「どうしてって……ねえ?」
藤咲さんは媚びるように男に寄り添いながら話しかけている。それを見ているだけで何故かイラっとしてくる。
「はははっ……君は面白い事を言うな〜。映画を見に来たに決まってるだろう? それとも僕達は映画を見に来たら駄目なのかい? はははっ」
男の人の馬鹿にするような視線と声が僕に向けられる。
「くっ⁉︎」
「それよりも……いいのかい? 君の連れの子が心配しているよ?」
立花さんは僕達を見てオロオロしていた。
「ご、ごめん⁉︎ 立花さん!」
「う、ううん⁉︎ そ、それよりも俊一君。この男の人がこの前たかちゃんを連れて行った人なの?」
不安そうに僕に聞いてくる。
「そ、そうだよ。この男の人だよ。ま、まあ藤咲さんも自分の方からついて行ったような気もするけどね」
藤咲さんに視線を送ると、こちらも男の人と同じように馬鹿にするような視線を僕に向けてくる。
「ふんっ⁉︎ こんな男なんてほっといてさっさと行きましょう」
「ふふふっ、そうだね。……行こうか」
そして藤咲さんの腰に手を回し寄り添い歩いて行こうとする。
「ま、待て!」
ピタっと足を止めて男が振り返る。
「何かな〜、話しがあるんならさっさとしてくれないかな〜?」
「あ……」
喋ろうとしていた所に
「し、俊一君⁉︎」
立花さんが焦るように僕の服を引っ張ってくる。
「ど、どうしたの……うわっ⁉︎」
周りには人だかりができていた。
「何かやってるぞ⁉︎」
「えっ⁉︎ なになに!」
や、やばい⁉︎ ど、どうしよう。情けない事に混乱してしまった僕は次の言葉が出てこない。すると、横から立花さんが
「あの〜、良かったら4人でご飯でも食べに行きませんか?」
そう誘ったのだった。
「私はチーズバーガーセットで俊一君はどーする?」
カウンターの前に立ち、迷う事なく注文する立花さん。
「…………」
「俊一君!」
「……何?」
「店員さんがいるんだから、そんなムスッとした顔してないで早く注文しないと……ね?」
困ったような表情をしながら、僕の注文を待っている店員さん。正直何か食べたい気分じゃないのだが、しかたなく注文する。
「たかちゃん達はどうする?」
顔を突き合わせて考えている藤咲さんと男の人。
「わ、私はあかちゃんと同じでいいわ!」
「ぼ、僕も彼と同じで大丈夫だ!」
二人ともどうしたのか? どこかおかしい。
混み合う中、何とか席を確保する。僕の隣に立花さん、僕の向かい側に藤咲さんとその隣に男の人が座る。
「…………」
僕はさっきから不満を持っていた。
(どうして藤咲さん達を誘ったんだよ!)
こんな最悪の状況で美味しく食べれる訳がない。
確かに、あんな場所でトラブルを起こしてしまい、あんは状況を作ってしまった僕が言える事ではないけど、それでもそう考えずにはいられなかった。
もちろんそれは僕だけの筈がないと思うんだけど……。
「う、美味い⁉︎ これが噂に聞くハンバーガーというやつか⁉︎」
違ったようだった。
男は興奮しながら大口を開けてハンバーガーを食べている。端正な顔立ちからは想像がつかない食べ方をする。
「なっ⁉︎ も、もしかして食った事ないの⁉︎」
思わず声を出してしまう。
「まあね。食べてみたいとは常日頃から思っていたけど、中々食べる機会がなくてね。いやあ〜中々いけるよ! 安い、うまい、早い! これほどとは思わなかったよ!」
驚いた〜。まさかファーストフードが初めての人間がいるなんて……。
「まあ、私は結構食べてるけどね」
藤咲さんが会話に混じってくる。
「君はこういったジャンクフードが好きだからね〜」
「まあ、私は好きになったらどんな事でも夢中になっちゃうから……」
と、ちらりとこちらを見て藤咲さんが話してくる。
(ん? 何でこっちを?」
「あはは……でも、今はそれよりも貴方に夢中になっているわ」
「はっはっは……それは当然だね」
二人は見つめあい、そして顔を近づけて…………ドンっ⁉︎
僕はテーブルを殴りつけてしまった。
「き、君らは馬鹿か⁉︎ ここをどこだと思ってるんだよ⁉︎」
な、何を考えてんだ⁉︎ 藤咲さん! よ、よりにもよって僕の目の前でそんは事をするつもりだったのかよ。
テーブルの上に置いてあった食べ物や飲み物がひっくり返ってしまった。
「し、俊一君⁉︎」
「…………え?」
立花さんは慌てて、僕の名前を呼んでくる。何かと思い周囲を見てみると、テーブルを殴った音にびっくりして、周りのテーブルに座って食べていた人達が一斉にこちらを見ていた。
「あっ⁉︎ す、すみません!」
急に血の気が引いていき、冷静さを取り戻し周りの人達に謝る。
「あ〜ん、服が汚れちゃったじゃない! どうしてくれるのよ!」
藤咲さんがそう言って文句を言ってくる。
「ご、ごめん!」
「ふんっ⁉︎ 馬っ鹿じゃないの⁉︎ 何を嫉妬なんてしてるんだか、みっともない! ごめん、化粧室に行ってくるわね」
「あっ⁉︎ たかちゃん私も一緒に……俊一君、少し席外すね」
くそっ⁉︎ 僕が嫉妬してるだって! 冗談言うなよ。何でそうなるんだよ! 僕はイライラしながら椅子に座り直した。
「くっくっくっ……」
僕の斜め向かいに座っている男が口元を歪ませながら、嫌らしい笑みを浮かべている。
「な、何だよ⁉︎」
「まあ、そう声を荒げるなよ。ふっ、みっともないぞ」
「なっ⁉︎」
歯を食いしばりながら何とか怒りを抑える。
「それとも、そんなに彼女の事が好きなのかな?」
「はっ? そ、そんな訳ないだろう?」
それを聞いた男はニタァと嫌な笑みを見せる。
「それは良かった! それならもう遠慮は要らないね。彼女の事は好きにさせてもらうよ!」
「…………それってどういう事だよ!」
思わずテーブルから身を乗り出してしまう。
「おいおい⁉︎ 何を興奮してるんだい? 彼女の事はどうでもいいんだろ?」
試すように言ってくる。
「くっ⁉︎」
「面白い男だな〜、君は。……そうだ! これを君にあげよう。ふっふっふっ、これは来月の24日……丁度クリスマスに行なわれるパーティーのチケットだ。その日に彼女を完全に僕の物にしようと思ってる。くっくっくっ……今ピンと思いついたが、何故か君の目の前で彼女を物にする事が一番興奮するんじゃないかと思ってね」
こ、このゲス野郎が〜〜⁉︎
も、もう我慢ならない⁉︎
僕は彼の胸倉を掴みにかかる。
「こ、この野郎⁉︎」
そのまま殴りつけようとした
のだが……このタイミングで藤咲さんと立花さんが戻って来てしまった。
「な、何をしてるのよ⁉︎」
するどく藤咲さんの声が突き刺さる。
「し、俊一君⁉︎ 駄目!」
立花さんの悲鳴にも近い声が耳に届く。
「ちっ⁉︎」
仕方なく振り下ろそうとしていた拳を下げる。そして、今度は藤咲さんが僕の胸倉を掴んできて、そして……パンッ⁉︎ と僕の頬を叩いてきた。あの時と同じように……。
「あ、あんたとんでもない屑野郎ね⁉︎ だ、大丈夫⁉︎」
藤咲さんは男に優しくいたわるように声をかけている。その光景を僕はぼ〜っと見ていると、寂しさや悲しみがこみあげてきて、何だかとても自分が惨めになってくる。
「ねえ、俊一君。一体どうしたの?」
立花さんは、悲しそうに僕を見てくる。
(そんな悲しそうな眼で僕を見ないでくれ!)
周囲の人達からは、好奇の目や侮蔑の目が浴びせられる。
まったく、ピエロだ。
僕は負け犬のように店を後にした。後ろからは、僕を呼ぶ立花さんの声が聞こえたが、振り返る事はできなかった。




