13 僕は美少女メイドさんに恐怖している訳ではない!
「はい、もしもし……」
『…………もしもし』
女性の声、それも最近どこかで聞いた事のあるような声だった。
「えっと……あの、すみませんがどちら……様ですか?」
『私です。……香川です』
「あ! 香川さんですか〜、何だ知らない番号だから焦りましたよ。…………香川さん…………って⁉︎ 藤崎さんのところの……メイドさんの……香川鈴さん……ですか!」
『とりあえず落ちついて下さい。深呼吸して』
「は、はい」
『吸って〜〜』
「すぅ〜」
『吐いて〜〜』
「はぁ〜」
『吸って〜〜』
「すぅ〜」
『吐いて〜〜』
「はぁ〜」
「……す、すみません落ちつきました。ところで、どうして僕の番号を知ってるんですか?」
『そんな事貴方が知る必要ありません!』
「す、すみません!」
何故か香川さんの機嫌がすこぶる悪いように感じられる。
『……可愛いらしい女の方ですね〜』
「はい?」
いきなり何を言ってるんだろう? 可愛い女の子?
僕は訳が分からず首を傾げた。
『そんなに首を傾げないでもいいでしょう?』
「えっ? えっ⁉︎」
『あはははははっ……時任様は面白いですね〜。そんなにキョロキョロしないで下さい』
な、何⁉︎ ど、どこからか見てるって事⁉︎
「あ、あの……どこからか見てるんですか?」
『はい、もちろん見てますよ〜。先程お嬢様を怒らせた事も……それから、お嬢様の後に出ていった彼女に鼻の下を伸ばしてた事も……ね。あっ! そうそう、一人事を喋りながら一人で悶えてましたよね? あれ、気持ち悪かったです! あはっ』
ぐはっ⁉︎ あぁ〜、何て所を目撃されてしまったんだぁ〜〜〜‼︎⁉︎
『まあ、私にとっては貴方が誰に鼻の下を伸ばそうが興味はありません。というか、貴方という人間にまったく興味がありません!』
ぐさっ‼︎⁉︎ う、うぅ〜、い、痛すぎる。
『一番重要な事は貴方がお嬢様を悲しませた事です‼︎ もしも泣かせるような事があれば…………』
「……えっ⁉︎」
パンッと言う音がしたので、後ろを振り返ると屋上の壁に穴が空いていた。
え? な、何……ま、まさか銃弾?
……は……はは。
『ふふふっ……時任様。これは警告です。もしも、泣かせるような事があれば……当てますので。ふふふふふふっ』
「ひいっ⁉︎⁉︎」
『それでは、また』
電話が切れても僕は固まり、携帯を握りしめて立ちつくしたままだった。