10 僕は親友に応援されたくはない!
「それじゃあ続けるわね。自己紹介の時に言ったけど、私はこの学校では藤村だからそこんとこお願いね。まあ、藤咲って言っても分からないと思うんだけど、お父様が用心深くてね」
面倒くさそうに話す藤崎さんに僕はある疑問が湧いたので聞いてみた。
「どうしてわざわざ偽名まで使ってこの学校に転校して来たの?」
僕の質問に元々大きくパッチリとした目を、より一層大きく見開く藤咲さん。
「えっ⁉︎ 嘘! ほ、本当に理由が分からないの?」
「う、うん。分からない」
藤崎さんはそんな僕の答えを寂しさと悲しさの入り混じった表情で聞いている。
「そんなの……」
え? 藤崎の目尻に光るものが見えた気がした。
「そんなの………俊一君と同じ学校に通いたいからに決まってるじゃない」
いつもの強気な声じゃなく、消え入りそうなくらいの小声が藤崎さんの口からもれる。
そんな藤崎さんの可愛い姿に僕の胸がドキッと高鳴った。
「…………で、それももちろんあると思うが……他にも理由あるんじゃねーの?」
さっきからの僕らのやり取りを静観していた健が口を挟んだ。
健の言葉に藤崎さんの表情が一変する。
「もちろん、俊一君が浮気しないか確認する為よ!」
えーっ! さっき居たはずの可愛い藤崎さんは何処に行ったんだ⁉︎
今、僕の前にいる悪魔のような表情をした藤崎さんを見て思う。
「そうね〜、もしも浮気現場を見たら、もう………」
藤咲さんはそう言いながら僕の食べてる最中の箸を奪い取る。
「ちょ、ちょっと僕の箸……」
「こうしてあげるわ‼︎」
両手で箸を持ち真っ二つにへし折った。
「ひいっ⁉︎」
それを見た健は僕の肩にポンと手を置き一言添えた。
「頑張れよ、応援してるぜ」
…………これほど応援されるのを嫌だと思った事は僕の過去の記憶を掘りおこしてもないと思う。