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化猫一門  作者: くるねこ
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おバカな犬と調印式

  おバカな犬と調印式


 目が覚めた白灯の体は急に悲鳴を上げた。童子屋敷のあった場所はあの世とこの世の境目、なんていっても鬼は地獄の獄卒が多い。他宗教の存在だが妖怪にもとても住みやすい空間である。それに比べ人間が多い現世の妖気は薄い。妖気の満ちた空間では平気だった体が現世に戻り悲鳴を上げるというのは力の弱い者や力がコントロールできていない白灯には当たり前の事、現に天子も高熱を出した。それを看病するのに化狐一門とそこに泊まっている乙女は大忙しとなった。小鳥も多々良が異変に気が付き稲荷に連れてきた。化猫一門は倒れたのが白灯といつの間にか天狗のもとから戻ってきていた天道の二人。ギギとセンリに看病され学校に復帰したのは事件から一週間後の初夏の陽気となってきたころ。

「おはよう。」

「おはよう白灯君。」

「おはようです。」

いつのも通りの前にギギ、河村、天道、と真子と人子で向かうと天子と乙女、小鳥がいた。だが乙女はなぜかジャージ。

「制服は?」

と聞くと

「ほら」

天子がアパートのあったところを指さす。この一週間で警察の捜査も終わり撤去も済んだそこには大きな水たまりがあった。

「どうしたの?」

乙女は鬼に家を壊されたことを説明する。

「警察は地盤が不安定なのと古い建物と言うことで自然に崩れたのだろうという見解のようです。これから空と家探しです。」

「そうなんだ。」

そのせいだろう今日はジャージという不自然な格好にプラスして傘もない。空も合羽は着ているが傘や長靴ではない。あの日の朝、稲荷に行ったときはまだ寝ていたようで、無理やり着替えさせられ置いて行かれたのだという。

「空もこれの下は買ってきたばっかりの服です。貯金通帳も印鑑も見つかったからよかったものの今新しくしてもらってます。木製の印鑑が地中の水分で変形してしまったのです。」

溜息をつきつつ歩きだす。

「大変だね。あたし達の看病までしてもくれたし」

小鳥も頷く。

「それぐらいは問題ないです。そもそも私と一緒にいることが多いから二人もさらわれてしまう結果だったのですから」

「そしたら元凶は俺だよ。」

という話になるも

「別に誰が悪いかって言ったら女郎蜘蛛ッス。白灯もお前も今回は運が悪かっただけッス。」

「河村君が珍しくまともなことを言った…」

ギギが驚いて見せる。

 そんな話をしながら保育園に着いた。

学校に登校し、教室に入るといつもはいない人物が

神田(かんだ)君…」

天子が気まずい顔をする。

「あ、天子久しぶり」

天子の隣りの席に居たのは小さな男の子。身長は低いが教室にいるのだから同じ中学二年生だろう。

「なんで…」

いるの。そう聞きたそうな天子の様子がおかしいと思い声をかけようとすると

「で、お前が化猫一門の次期長の月影白灯?」

白灯を邪魔するように神田が前まで来た。

「そうだけど、お前は?」

「そんな口聞いていいのかよ。俺は神田ケン()。白龍会貉組の長で犬神一門の長でもある。」

白灯は気にかかることがいくつかこの一文の中に見つけた。一つ目は自分がこいつより格下と思えない事、先輩や教師ならまだしも口のきき方を注意される相手とは思えない。二つ目に貉組に現在長はいない。銀虎がなることにはなっているがまだ席についているわけではない。それにも拘わらず名乗っている辺りは話通り乗っ取るつもりなのだろう。三つ目に一門の長と組の長は兼任できない。できるのならしてほしい。そうすれば自分が一門を継ぐという話は出てこなかったのだから

「あっそ」

白灯はそういうと自分の席に着いた。天子以外は気にすることなく自席に着きカバンを置いた。天子はというと溜息をつきつつ神田の席の隣りに座った。

「天子、我慢です。何を言われても無視ですよ。あんなうるさい躾けのなっていないアホ犬なんてほっておきなさいです。」

「でも……無視すればするほど面倒臭い…」

天子が気まずい顔をしたのは神田が面倒臭い性格だからである。ものすごく

「俺の話を聞け、何様だお前は、組の長だぞ!」

白灯の席まで行って言うも

「天道、消しゴム余分に持ってたりしない?」

「半分に切るから待ってください。」

「ならいいよ…。河村、消しゴム二個ないか、忘れてきた。」

「有りますよ!」

河村に聞いたがギギが持ってきた。

「今日借りる。」

「はい、無い物があったら何でも言ってください。一通り持ってますんで」

と神田を無視して話す。

「だから俺の話を聞け!」

「うるせえんだよ!」

鬼頭が入ってくる。その姿を見ると急いで席に戻った神田だが

「白灯ってなんなんだよ。俺が話しかけてやってんのに無視って、組の長だぞ。天子どう思う?」

その問いに天子は肩が跳ねる。

「そうね。無視はよくないわね。でも白灯君は消しゴムがないって言う重要な問題に直面していたから仕方ないんじゃない。」

と無理やりの笑顔をひきつらせながらいう。

「さすが俺の天子、誰にでも優しいんだな。」

そんな会話を聞いている面々はバカが居ると思っていた。一人違うのが白灯、

「俺の天子ってなんだよ…」

せっかく借りた消しゴムを投げつけてやりたかった。


 昼休み。食事中の妖怪集団に神田は入ってこようとしたが今日は鬼頭に全員呼ばれ空き教室にいた。

「あいつなんなわけ?」

白灯が聞くと半分ほどが苦笑いした。そこに

「あいつはお前と同じ貉組にある犬神一門の次期長で今は長代理のやつだ。」

と鬼頭が説明する。

「次期長で長代理?」

白灯が疑問符を頭に浮かべると

「要するに稲沢とポジションは似たようなものだ。現長はもう長くない。妖怪にも寿命は有るんだよ。それで唯一の血縁、って言ってもすげえ遠いところから神田を連れてきたんだ。次期長としてな。で、現長がもう寝ているだけになったのが二年前の事、長不在はいろいろと厄介だからな。長代理にあのアホ犬が付いたんだ。」

タバコに火を付けながら言った。

「なら一様長なんだ。でも貉の長って言うのは?」

「噂では部下がそう教え込んだらしい。犬神は唯一変化ではない方法で人間になる。貉の中では一風変わった妖怪、この一門の長は組の長でもある。って嘘を責任感や指名感を与えるために言ったんだろうがあいつの性格ではそう受け止められず、自分の好き勝手にしていいんだ。っていうように思い込んでいるみたいだぞ。化猫側からするとえらい迷惑だろうけど無視すれば済むから。まあ、がんばれ。何なら席替えしてやってもいいぞ。」

とまで鬼頭は言った。

「先生って全く関係ないのに詳しいよね。」

白灯はそういうと

「関係なくありませんよ。」

とギギが言った。

「鬼頭先生は白灯様のお父様のご友人でうちの一門にも属してます。抜けるなどのお話はないのでまだ副長の席にいらっしゃいます。」

その言葉に一斉に視線が鬼頭に集中する。小鳥を覗いて

「そうだったの、なんで黙ってたんですか?」

「聞いてこなかったからだ。だがお前の父親が死んじまった時に副長は下りたはずだぞ。もともと無理やりやってたんだからな。」

河村の驚いた顔のまま固まっていた。

 白灯の父親・(びゃ)(っこ)は一時期化猫一門の長に席を置き結婚した。だがその相手とは折が合わず、女性は一門を去り元の一門に戻った。それが犬神一門ではあったが同盟による結婚というわけではないためお互いの長は仕方ないと言うことでまとまった。女性が妊娠していたことを知ったのはそれから数か月後の事、だが彼女は白虎の子供ではないと言い切り一門内で出産して育てたらしいが問題が起きた。産まれた子供が人狼であったのだ。犬神一門にはもちろん狼もいる。だが彼女は長の娘で妖怪犬神、狼ではない。そんな問題から子供が化猫に預けられることになった。父親だと思われる白虎が居たからだ。

 しばらくは問題なく成長した子供だがある日を境にその姿を消した。

 白虎は十分に成長した彼をさほど気にしてはいなかった。それから何十年とたったある日、白虎は銀虎の反対があったため一門から駆け落ちする形で白灯の母親鬼灯(ほおずき)と再婚。その頃前婦が陰陽師にやられたという噂が届いた。

 一門は長の駆け落ち以降は副長の鬼頭が一門を代理でまとめていた。だが、鬼頭にも個人的なことが多くある。こうして教師もしているのだから、そのため前長である銀虎が再び席に戻り鬼頭は副長の座から降りたのだ。

 「そんなっことあったんだ…」

「あの時は大変でした。」

ギギが懐かしそうにいう。

「一番大変だったのはお前だ。」

鬼頭がギギを見ながら言う。

「何があったの?」

「…忘れました……。」

白灯の問いにギギはとぼけるため視線を鬼頭に向ける白灯。

「…こいつは白虎が居ないと死んじゃうとまで言ったんだ。あいつに恩があるのは解るがここで死んでも意味がないだろってなだめるのが大変だった。」

猫又の姿でそんなことを言われるのはすこし厄介だ。人間だったら人間らしいやり方があると思うが猫に人間のやり方が通用するのかもわからない。

「まあ、お前の両親を引き合わせたのは紛れもなくあいつだけどな。」

そう言われギギが遠いところを見ていた。

「どういうこと?」

白灯はギギを見てから鬼頭に視線を戻す。

「柳はもともと鬼灯の家の家主が飼っていた猫だったがそいつが殺されてから人斬りなんて始めた。それがもとで始めは地域の安定を図るため一門で退治に行くことになったのだがまだ小さかった鬼灯に止められ断念。個人的に会いに白虎が行って何があったか知らないが一門に入る事になったんだ。」

鬼頭へ集まっていた視線がギギに向かっている。

「そ、そんな昔の話とっくのとうに忘れてしまいました。それより今は神田君の対処方法です。」

話の中にあったものをいろいろとスルーしたことにこの時は気付いていない。


 放課後になり保育園で園児集団を迎えると

「それじゃあ私はここで、通帳取りに行ってくるです。その後に不動産屋さんにも、夕方ぐらいには帰るです。」

「わかった。でも今日は同盟の調印式があるから白灯君の家に居るんだ。」

「乙女も今日は家着なよ。多分夕飯もこっちになるだろうから」

乙女の目が輝く。

「はい、急いで用事を済ませてお邪魔するです!」

そう言って別れた。

 天子たちと稲荷で別れる時狐たちが天子をなぜか急かしていた。

 白灯も一門に着くなり

「さあ、身支度なさってください!」

と隣からギギが言う。

「何の、調印式には俺達でないんでしょ?」

「何言ってるんですか、お互いの一門の妖怪は全員参加するんですよ。」

今更言われても遅い。

「宿題どうするんだよ?」

現実的なことを言う。

「式までに終わらせてください。」

そういうとばたばたと先に家に上がって行ってしまった。

 この日ばかりはみんな人間に近い姿となる。着物の関係だろう。猫たちは仕方なくあれが礼儀なのか白と青の前掛けをしていた。

 白灯もギギが言うには色紋付という種類の無地の着物を着る。上が白に下はグレーの薄い色、羽織が白から青のグラデーションになった物を着せられた。道着で慣れているが酒呑童子の時着た物を抜くとしっかりとした物を着るのは七五三以来だろう。

 一門の妖怪のほとんどが同じような色の物を着ているが雪男を見かけると

「雪男は黄色なんだ。」

着物の色が違った。

「本来なら黄龍会だから」

と言って歩いて行った。次に

「河村は黒か」

これは黒龍会と言うことだろう。ゆきおとこも一様人に扮類さえる。河村は以前に年齢的問題で入れないと言っていた。そこに

「誰かいるか?」

という声、玄関に行くと黄色い着物の裾に鳥の飛んでいる物を着た小鳥に

「先生も?」

「一様な。小鳥はついでだ。酒呑童子の件があるからあいつ等にも声かけてたらどうだ?」

というと勝手に上がって行った。慣れているのだろう。

 獏や園良、多々良にも連絡すると食事につられてくるとのこと

「あ、天道どこ行ったんだろう?」

すっかり忘れていた人物を捜す。

「天道?」

部屋を訪れると

「はい?」

とふすまが開く、そこには私服の彼が勉強していた。

「今日は調印式なんだ。話聞いてるか?」

「知らなかったです…」

やっぱり

「なら着物取ってくるッス。さすがに着られるッスよね?」

「それは問題ない。」

こうして忘れている者はいないかと考える。さすがに陽一は呼べない。

 一門内が慌ただしくなっているときに

「化狐様ですにゃ!」

「化け猫はお迎えに並ぶにゃ!」

と今度は騒がしくなった。いつもは閉まっている門も開かれる。門から家までの間に化け猫が四列、左右に二列ずつ並んでいた。玄関の戸も目一杯開かれた。すると遠くから鈴の音がしてくる。道路を白や赤というか朱色が染める。その中央に居るのが天子だ。

 門をくぐれば化け猫たちがお辞儀をする。

 こうして家に盛大な狐の行列で到着した天子は客間に通されるなり

「つ、疲れた……」

「はは、お疲れ」

お茶を持って白灯とギギが部屋を訪れる。

「同盟も家族になるようなものなのでまるで花嫁道中や花魁道中のようなことになるんです。でもこれを男性がやると意外とシュールなんですよね。」

とギギが言う。

「花魁道中は買われていくから意味が少し違わないか?」

と白灯は思うが

「話を聞いたときは面白そうと思ったんだけど、実際この距離をあの下駄で歩くの辛かった。」

天子の履いていた下駄は厚さ三十センチを超える物だった。

「しばらくはここでお休みください。小鳥さん呼んできますね。」

そう言ってギギが席を外した。開いたふすまの足元から卵が入ってくる。

 天子は朱色と白の振袖の着物に金糸で模様の縫われた着物で重たそうに何重にも着ている。そして

「妖狐ってみんな白いの?」

連れてきた狐もそうだが天子の耳や腰には白いふわふわの狐の耳と尻尾がついている。

「猫みたいにたくさんでは無いけど黒や茶、金の孤もいるよ。」

「そうなんだ。……あ、卵!」

天子が持ってきた風呂敷を開け中から酒を出そうとしていた。

「まあ、良いではないか。良いではないか。」

「よくないよ。それは同盟の証で交換するやつだろ。」

同盟の証に酒が使われるのは信頼を現すのだと銀虎から聞いた。お互いが持ち寄った酒を飲み交わし、信頼を試すのだという。同盟が結ばれたその場ではその酒は一口しか飲まない。両一門はそれを同盟が破棄されるまで保存するのだ。破棄された場合はお互いの一門の前で酒瓶を割る習わしなのだという。

「狐の酒はうまいじゃぞ。」

「それでもだめだ。」

と話していると

「あ、予想よりすごい…」

小鳥が入って来た。

「小鳥の着物可愛い。オナガが飛んでる。」

黄色をベースとした着物の裾には灰色の背中と白い胸、黒い頭い青い尾をした尾の長い鳥が飛んでいた。

「それより髪どうしたの?」

白灯は先ほど見た小鳥と明らかな違いを指摘した。

「月影君のお婆様にしてもらった…。」

センリの趣味だろうか。いつも降ろされている長い髪は耳の少し下の辺りで二つのお団子のように丸められていた。前髪も帯閉めと同じような鳥のピンでななめにふんわりまとめられていた。

「いつもそうしてればいいのに」

天子に言われて少し顔を赤らめる。顔にはいつものマスクの代わりに薄っすら化粧がされていた。

 「ごめんくださいです!」

玄関から声がする。

 白灯は立ち上がり迎えに出る。

「いらっしゃい。みんな一緒だったんだ。」

とそこには乙女以外に空、園良、多々良、獏が居た。

「そこであったです。」

そういう乙女は人では無いのか水色の着物だった。

「乙女も黄色だと思ってたけどなんで水色?」

「私は人では無いからです。空は黄色ですが、一様水・雨の妖怪ですから」

青は青龍会の色のため水色なのだろ教えてくれた。

 そのほか多々良は黄色、獏は白、園良は煙のため分類は違う枠と言うことでこげ茶色を着ていた。

 客室はほとんどが化狐一門の者が使っているため乙女以外は白灯の部屋へ向かった。

「式は何時から?」

「六時過ぎ、日が暮れてからだって」

獏はそれを聞くと白灯のベッドに横になった。

「皺が着くぞ」

「平気平気。」

と言って眠りに落ちた。

「良いのか?」

「妖怪にとって皺なんて埃を払うように直せるから」

園良が言うも説得力がない。何せ男だけの空間。今のところ彼らがしっかり者と言うところを見ていない。

 「空?」

「空いるの?」

軽い足音の後にそういって戸が開いた。真子と人子である。真子は座敷童子で黄色だが人子は生き人形で現代妖怪だが付喪神、緑の着物である。ついでに雲外鏡も緑で他の付喪神たちのほとんどが緑の前掛けをしている。

「遊ぶ。」

「遊び行ってくる。」

と二人がいう物の着物の三人。

「空は乙女に聞いてからな。真子と人子は庭に出るなよ。慣れてるからって今日のは予備がないんだから、汚すようなことはダメだぞ。」

「わかった。」

「行こ。」

そう言って三人は出ていった。

 それからしばらくしてやっと

「調印式を始めます。移動してください。」

とギギが来た。

「真子たち見つけた?」

「はい。天子様のところで遊んでいたので」

あんな着物を着ている天子の近くって危なくなかっただろうか…。

 調印式が行われるのは家の真ん中。ふすまをすべて取り除き、柱だけの大きな空間である。その真ん中に二列の座布団が間を広く開けて並んでいた。

「白灯様と河村君、天道さんは向かって左に、参列者のみなさんは右側の後ろの方になります。」

座布団に座れるのは組の中でも位の高い物、白灯は座れるが河村や天道は座布団の後ろに座る。それも位の高い順。河村は一番後ろの隅、天道もその近くに座った。猫に負ける二人。

 それに比べ参列者は年功序列。若い人ほど遠くなる。白灯はふと視界にはいるのが

「何で乙女がこっち?」

座布団に乙女が、しかも鬼頭の隣りであった。よく見渡せば小鳥も化け猫に混じって座っている。

「白灯さんのお婆様が、家がないならここに住めばいい。と行ってくださったんです。長のお許しも出たのでこちら側に座らせていただいてます。」

「小鳥は俺の連れだ。」

さらっとのろけた。そんなことは置いておき。

「それで帯の色が変わったんだ。」

先程まで淡い緑の帯だったのが今はギギと同じ白と青のグラデーションのものになっている。

「はい。空も一緒なのでよろしくお願いしますです。」

と頭を下げられる。

 向かいの座布団にはイズナ、コン、友孤、聖狐、愛孤と天子の家ではおなじみのメンバーの座る座布団は上座の二つを開けている。

「あれは?」

隣りの鬼頭に聞く。

「あれは稲沢の母親と祖母の分だ。母親は生死も行方も不明、祖母の宝玉はどこかに居るからな。出ないと解っていても開けてあるんだろう。」

そう話していると銀虎が座布団と座布団の間を上座に向かって歩いてきた。

 銀虎が座ったところで天子が歩いてくる。その後ろには二人の狐が紙の筒と酒瓶を持っていた。銀虎の前まで行くとそこで座った。丁度白灯の目の前だ。

「これより貉組化猫一門と同じく貉組化狐一門の同盟を証明する書面の調印及び、化狐一門門長の就任式を行う。」

その声で始まり、狐がかみ筒を広げる。そこにはすでに化狐一門の印が押されていた。ギギが髪を受け取り銀虎の前に置くと化猫一門の印を押した。妖力なのか、印の押された紙はコピーを取ったかのように二枚に分かれ、一枚を銀虎が一枚を天子が受け取った。

「この時を持ち化猫一門と化狐一門の同盟を宣言する。続いて、就任の証明の儀式に入る。」

お酒を朱色の皿に注ぎ天子がそれを飲み込む。

「本日、この刻より化狐一門の長を稲沢天子と私が証明する。」

で終わった。その間一切白灯たちは動かない。

 「宴会に移る。皆の者、着替えて順備じゃ!」

テンションが高い。酒が絡むとテンションが上がるのは妖怪も人間も同じよで、みんな楽しそうだ。

 着替えて、と言うことだったため

「ギギ、着替えていいんだよな?」

いろいろと動いていたギギに聞く。

「はい。お部屋に着物の用意がありますのでそれにお着替えください。」

結局着物のようだ。そう思い着替えに戻った。

 戻ったのは良いが着替え終わるとすぐに

「白灯様大変です!」

と一大事のように入ってきたがその言い方は厄介者が来てしまった。そんな言い方だった。

「どうした?」

「木霊が来ました……。」

なにそれ、という顔を向むける。

 「見て」

「これ見て」

と真子と人子が来た。いつもの着物姿で、だがその手にはなんだこれ、という物

「これが木霊です。困りましたね。」

何が困るのか解らない。木霊は小さく大きさも真子たちの半分ほど

「こんな小さいののどこが困るんだ?」

ギギに聞いたのだが

「大量。」

「大量にいる。」

「家出れない。」

「お庭パンパン。」

それを聞き廊下に出る。そこに確かに庭一面、池の上から縁側の下、木の上、枝の一本一本に座っている半透明の可笑しな生き物。目は大きく鼻はない、口は小さいく耳も見当たらない。髪もない。体はひと筆で描いたような滑らかな曲線で両手足に胴がある。今まで出会った妖怪の中で一番変な妖怪である。

「なんかキモいぐらいいる!」

驚き声がそのまま出てしまった。

「申し訳ないのですがこの中から山彦を見つけてください。木霊はそいつの言うことならちゃんと聞くんで」

「見つけるってどうやって?」

その前に山彦って妖怪だったんだ。

「おーい。って言うと返ってくるときがあります。そのあたりに居るはずです。その代り普段は木霊と同じ姿をしているので、間違えて捕まえると遠くに隠れちゃいます。」

「めんどくさいな。」

そう言いながらも

「おーい。」

「おーい。」

「おーい。」

白灯がやると真子と人子は真似をする。

「一緒に言わないと返って来たかわかんないだろ。」

せえの、と言ってもう一回いうも反応はない。

「この辺にはいなみたいですね。それじゃあお願いします。じゃないと明日洗濯物が干せません。」

本音を聞いた気がする。

 その後、何度呼んだところで反応がない。

「何されてるんですか?」

乙女がふすまを開けて出てきた。

「ここって空き部屋だろ。この部屋でいいのか?」

聞いたところで違うことを思い出す。日当たりが悪い。そう思って言ったが

「はい。ジメジメしているのでここにしました。」

やっぱり

「それにしてもすごい木霊ですね。いつからですか?」

「さあ、離れに戻る時にはいなかったからそのあと急にかな。」

「あらまあです。雨を降らすと動き出しますけどやりますか?」

「どういう仕組み⁉」

妖怪について知らないことが未だに多すぎて何が何んだか、どういう仕組みなのかよくわからない。

「木霊は木の精霊妖怪です。木の恵みと言える雨に良く反応するのですが木霊のテンションがあがりすぎて雷を呼ぶんです。そうすると山彦目がけてそれが落ちると聞いたことがあります。」

凄い仕掛け…

「まあ、洗濯ができないって言われたから早く移動してほしいし、頼んでいい?」

「もちろんです。空、いっちょお仕事です。」

部屋から空が出てくる。その手には何時かの乙女の番傘が、そして空も傘をかぶっていた。

 雨乞いの儀式。乙女が泣く以外で雨を降らすのは始めて見るが、それは見える範囲で行うことではないようで

「すぐ戻るです。」

と言って天へ傘片手に空と登って行ってしまった。何故か先ほど着ていた着物を片手に、

 そしてしばらくするとぽつぽつと降ってきた。それはすぐにザーという音を立てて降るようになると乙女が戻ってきた。

「雷までもう少しかかりそうです。」

「そうなの?」

「はい、雷獣がねぐらにいませんでした。ほかのところで雷を落としているか遊びに出てるんだと思います。」

天気に関わる妖怪は、仕事はしっかりするが欲望に忠実。感情に素直である。

 縁側に座って眺めていると確かに木霊が楽しそうによく動く。一匹を目で追うのが難しいぐらいよく動く。

「さっき何で着物持ってたの?」

「一様、上にも私達の生活するスペースはあるんですが地上で生活しているといちいち戻るのが面倒なんです。」

そう話ているそこに、やっと

「あ、来たです!」

雷が鳴る。思ったが乙女でも雷は落とせた気がする白灯はそれを思い出さなかったことにする。

稲光と共に一本の柱が降ってきた。光に目がくらむもその先には

「白灯さん、あれが雷獣です。」

そしてその雷獣の左前足の下には伸びている妖怪が一匹。乙女の傘に入れてもらい雷獣に近寄る。

「久しぶりです。どこ行ってたんですか?」

と話しかけるも返事は獣特融のグルルルと言った音、なのだが

「だから鵺はペットには向かないといったんです。」

雷獣が何か言う。

「拾って世話をしているのなら同じことです。」

何か言っているが解らない。

「置いて行くって、ここにですか、ダメです。ここではないところに」

「何の話?」

白灯はさすがに話に入った。

「ああ、それがですね。少し前にこいつ鵺を拾ったんです。私はすぐに元の場所に戻すように言ったんですが聞かずに育て始めたんです。始めはよかったもののやんちゃが過ぎるとかで、ここに置いて行くっていうんです。」

どこのお母さんだろうか。

「いいんじゃないか?」

別に一匹ぐらいいいじゃないかと家の事情に疎いお父さん風にいう。

「ですよね。ほら返して……ん、いいんですか?」

乙女は言いかけた言葉を止め確かめる。

「鵺ってそんなに問題多いの?」

「いえ、鳴き声から黄泉鳥や地獄鳥、鬼鶫と呼ばれることや見た目が猿や狸や虎のようで、尻尾に蛇が居るため成獣は怖い印象を持つ者も多いですが特に被害報告は少なく。幼獣は困こんなんです。」

雷獣が口でくわえていた物を乙女が受け取る。それは確かに猿の顔にモコモコの体、大きな手足は虎のようで尻尾は蛇。だがどこか可愛らしい見た目である。

「河村でさえちゃんと一門の一員としてなりたってんだから平気だろ。預かっちゃえ」

「懐が広いところも好きですが……仕方ないですね。雷獣、もうむやみやたらに変な生き物を飼いたいなんて言うんじゃないですよ。」

そういうと帰って行った。依然、山彦は伸びている。

 山彦を起こし明日の朝までには移動することを約束させる。さもないとまた潰すと言って、鵺はというと真子と人子に大人気である。

「ふかふか」

「モコモコ」

今では腹を出して撫でられ捲っている。

 「鵺なんて珍しい妖怪よく見つけたのう。」

「雷獣はいろんなところへ出かけますからその時拾ったみたいです。もうすぐ梅雨ですね。」

銀虎と乙女が宴会後のお茶を啜っていた。この場に未成年という規定を守ったのは白灯のみである。

「乙女ちゃん、制服用意できたわよ。」

何故センリが用意できるのかが疑問だが

「ありがとうです!」

これでジャージ生活も終わりだと言って取りに行った。



 それから一カ月梅雨の間は乙女のテンションは高い。それは河村も同じで雨の中傘も差さずに歩き登校早々に鬼頭に怒られていた。そして家に返ってくるなり濡れた体に鵺のタックルを喰らうのだ。何故か解らない。だが、鵺が河村になついた。白灯の近くには大抵卵が居る。鵺は卵が嫌いのようで会うたびに毛を逆立てている。卵も被害を減らすために白灯の肩に乗っている。なれればだんだん重く感じなくなってくる白灯。そして鵺はギギや河村、天道、乙女の肩や頭に乗って遊んでいる。

 それは学校に行くまで続く。一行が家を出ると鵺は卵を構うことは無くなるらしい。鵺は随分と人懐っこい生物のようで卵以外には毛を逆立てることはない。

 そんな鵺が朝見当たらない日があった。特に気にすることなくカバンを持って朝食へ、みんなで保育園へ行き園児集団を預けるも背を向け歩き出す白灯の背中をなぜか真子と人子に見えなくなるまで見られていた。それを気にしつつ登校、いつも通り

「白灯、今日開いてるだろ。俺が出かけるのにお供することを許可してやってもいいぞ。」

という神田を無視してカバンを開ける。開ける。…開けた中に

「え⁉」

すぐ閉めた。

「どうしました?」

すぐ後ろの席から天道が聞く。

「大問題かもしれない…」

「忘れ物なら貸しますよ。」

「そんなレベルじゃない!」

そういってカバンを少し開けて中身を見せると

「大問題じゃないですか!」

天道の声に小鳥も

「どうしたの?」

と来たため中身を見せる。

「どうするの…?」

その様子に天子と乙女が来るためどうしようか聞く。

「これは先生に相談ですね。」

 白灯はカバンを抱きかかえ職員室に

「失礼します。鬼頭先生いますか?」

天子が声をかける。

「どうした?」

そう言って歩いてきた。

「大問題です。」

小鳥が言うと鬼頭も何があったのか気になる顔をする。

「鵺がついてきちゃいました。」

白灯からカバンを受け取り鬼頭に見せる。

「……廊下出ろ。」

職員室からも離れた校舎の端で

「どういうことだ?」

白灯の頭に満足げに登って休む鵺を見ながらいう。

「朝いないと思ったんスよね。」

主に世話係の河村が言うと鬼頭が殴った。

「お前が確認していればここに居ないってことだろ。反省しろ」

「そんなこと言われたって困るッス。」

勝手に困っていろ。そんな視線を送りつつ

「だから先生、家に電話してもらっていい。迎え来てもらう。」

「それが良いな。」

 職員室に戻る鬼頭を見送って数分。職員室内が騒がしい。さすがに他の教師にも事情が説明されたのだろうと思って白灯たちは職員室前で待っていたがなかなか鬼頭は出てこない。

「どうしたんだろう?」

「そうですね。携帯で電話した方が早かったですね。」

乙女が電話しようとするとドアが開いた。

「これから集団下校だ。お前ら全員月影の家に行け」

鬼頭は出てくるなりそういうも全員ポカーンと意味が解らないという顔をする。

「稲沢の家は大丈夫みたいだが小鳥や多々良の住んでるアパートが倒壊した。園良のマンションや夢野の家には放火されたらしい。」

ポカーンとした顔があんぐりと口を開く。

「どういうこと⁉」

白灯は聞き返すも

「まだよくわかってない。俺の家もコウモリたちが言うにはもうダメらしい。」

学校の近くを救急車や消防車、パトカーが通って行ったのかサイレンが聞こえる。

「今から俺も行くから真子たち迎えに行くぞ。」

 話では町中で事件が多発しているらしい。火事に家の倒壊、殺傷事件に強盗。学校もそんな連絡をされたら生徒を帰すほかない。

 そのほか校内で兄妹が奇石保育園に通ている生徒を呼び出し迎えに行った。

「なんか来る。」

「なんか来てる。」

真子と人子は会うなりそう言った。

「どういうこと?」

「わかんない。」

「でも変なのいる。」

「来てる。」

「でも遠い。」

時々よくわからないことをいう二人だが今日は一段と解らない。

「あと鵺が」

「ついて来てる。」

「それ知ってんなら早く言ってよ!」

「内緒。」

「空と鵺と内緒。」

空も知っているようだ。そう思って視線を移すと

「どうしたんですか?」

乙女に抱きつく空が居た。

「空どうしたんですか。言わないと解らないです。」

聞いたところで乙女のスカートを強く握るだけである。乙女はカバンと傘を小鳥に預け空に合羽を着せると抱き上げた。少し雲行きが怪しい。

 集団での帰り道、稲荷の前に来ると

「稲沢天子さんですね。ご家族は月影さんのところに避難されてます。ここは警察が警備しますので」

お賽銭や重要文化財級の物が置かれている稲荷神社は千年の歴史がある。この町では重要な観光地、事件の多発により警備が付いたようだ。

「よろしくお願いします。」

心配そうに足元からコンとイズナが見上げる。

 月影家には狐姿の稲荷の者たちが普通に掃除の手伝いをせっせとこなしていた。

「なんか予想より普通…」

「非難したって言うから本当に一大事かと…」

白灯と天子が声を出すと

「一大事じゃよ。」

銀虎が来た。

「何が起きてんだ?」

一同は銀虎の部屋に通された。部屋の中央の机には白い封筒。封筒と言っても古いタイプのもので三つ折りの中に手紙が入っており紙の上下がおり返されている。どういう形式名があるのか白灯は知らないが古いタイプの手紙で有るのは確かである。

「果たし状ですか?」

表も見ていないのにギギが聞いた。

「何でそう思うんだよ?」

ただの妖怪間での手紙かもしれないのに

「着物の衿と同じです。普通は右前で、左前は縁起が悪かったり行儀が失礼だったりするんです。」

封筒なんてこのご時世自分で作ることなんてないため知らなかった。

「そうなんじゃ。犬神のガキからで貉組の長を決める合戦をするとのことじゃ。」

手紙を広げる。だがそこには汚い字で殴り書きされた字が並んでいた。

「猫の字に一本多い…」

そんなところにばかり目が付く。

 果たし状。そんな書きだしであった。

 『犬神一問が長を務める貉組の長の権利を勝ってに使っていることイカンに思う。だが犬神一問はそれをバッすることはしない。ウツワがでかいからだ。だがこのまま見すごすわけにはいかない。そこでカッセンをしてやろう。勝った物が負けた物の言うことを聞く。もちろん勝つのはおれだ。カッセンのルールはおってレンラクする。同メイをリヨウするのはイッコウニカマワない。ケッセンは夏休みのさいごの周だ。』

 解らない漢字を平仮名やカタカナで書きつつ漢字を間違えている辺りは実に神田らしい読みにくいものだった。誰か翻訳機を持っていないか本気で考えるほどに

「面倒くせえ」

そもそも二カ月も先の予定を何勝手に立ててんだ。宿題終わってなかったらどうするんだよ。と思いながら紙を置く。

「で、これどうするの?」

一先ず銀虎に聞く。

「ガキの喧嘩にわしが首を突っ込むわけなかろう。長とは仲は良いが床に臥せてからは気付かって見舞いにも言ってないからな。わしを見るとすぐに酒を出させるしな。」

確かに病人には悪い。

「今はそんなことより、町の事件です。」

乙女が話を主線に運ぶ

「ああ、それはおそらく犬神だろう。あいつ等酒呑童子の件以来天狗の目が厳しいことに気付いとらんようだな。化猫を脅しているつもりなんだろうがアホじゃのう。主戦力といえる狼どもが動いておる。」

犬神一門はおバカなようだ。


 夕方になり鬼頭も一門に来た。コウモリにより荷物は事前に運び出されていたらしく火事の被害を受けなかった。それを見て

「良いなあ」

「ずるい」

「これからどうしよう…」

園良に獏、小鳥が困った声を上げる。多々良はさほど困っていないのか真子たちと鵺で遊んでいる。

「小鳥も入ったらどうだ?」

鬼頭は聞く。それには白灯も驚く。

「自分で身を守るのは難しいんだし、ここなら猫の目がある。前から思ってたんだけどよ。」

猫の目とは外で何かあっても野良猫たちからその情報が一門に届けるのだ。相手は野良猫のため横丁に入ってしまうとその目からは外れてしまうが横丁にも一門の妖怪は多い。

「……そうしようかな?」

小鳥が白灯を見る。ちなみに、家の荷物が事前に運び出されているのは鬼頭以外に小鳥もであると聞き本人は安堵し、待遇が羨ましいと周りに言われる。鬼頭の気まぐれなのだから仕方ないというのに

「俺は全然かまわないよ。乙女の時もそうだったけど家捜すのも大変だろうし、みんなもどう?」

白灯が聞くなり園良に飛びかかられた。

「マジ助かる。一門って入るタイミング逃すと独り者が定着するから」

そうなんだ。と思っているとさらに重みが加わる。多々良も加わったようだが白灯からは見えない。

「三食個室付きとか嬉しすぎる。」

 銀虎から許可を取り部屋を決める。小鳥の部屋に関して鬼頭は口うるさく言うため端の部屋で尚且つと隣はギギ、周りは空室のところに決まった。

「なんか面倒かけてごめんね。」

鬼頭のいなくなった後頃で小鳥に言われる。

「いいって、鬼頭がそうする理由はわかるし」

白灯自身天子がこれだけ大人数の男と同時にこの家に住むという話が出たらそうしていただろう。可能性は際寝て低いが

「それよりも犬神って何が目的なんだろうね。」

「さあ、動きが全く読めない分、何も考えていないのか、それとも巧妙な作戦の元動いているのか。どっちにしろ普通な思考を持った俺たちには厄介だよ。」

鬼頭が戻ってくる足音に白灯は話を切り上げその場を離れた。



 翌日。学校は休みだが事件はぱったりと収まった。それでも忙しそうに警察や消防車は走っている。学校が再開したのは三日後の事、神田の姿はなかった。

「殴りたかったのに」

「同感です。」

白灯の意見にギギが同意する。ギギは家に鬼頭が居ることが慣れないらしい。猫又の時から嫌われていたと鬼頭は言うが嫌うというより何かを警戒しているようだった。

 それからしばらく、季節が夏本番になっても神田が来ることは無く平和な学校生活であった。唯一気がかりなのは合戦のルールという物だ。手紙が来ることも無く七月も半分近く過ぎた。少し外にでているだけで汗がにじみ出てくる。

 一門から学校へ行く集団が大きな塊となった。そこには雪男の姿もある。教師である鬼頭に出てくるように言われほぼムリくり登校している。雪男は夏の熱気に『溶けそうだ。』と口を開くたびに言う。だが、彼のおかげで化猫一門のメンバーは周りほど熱く感じていない。ゆきおとこの冷気が汗と共に出ているのだ。唯一乙女だけが離れている。乙女は主に水のためそこまで熱くないらしい。

 授業のプールでは河村と並んでイキイキとしている、。二人とも水中はテリトリーなのだ。河村は家に帰っても池に入ってはいるが、皆がプールに入っている横でギギが一人プールサイドで見学しているのはいつものことである。



 あと一日、学校に来れば夏休み。そんなこの日、白灯たちが登校すると机にまた、あの封筒が乗っていた。

「やっとかよ。」

だが、教室には神田の姿はない。登校したなら授業に出なくてはならない。犬神ではない人物が置いて行ったのだろう。その証拠に封筒の表は無地だが裏にはキチンと差出人が書かれていた。

「やっと着たみたいッスね。」

「本人はいないようですが…」

河村と天道が白灯の持つ封筒を覗く。

「差出人は神田じゃないからな。」

虎太郎。そう書かれていた。

「虎太郎…!」

ギギが近寄り手紙を見た瞬間驚きの声を出す。

「誰、知り合い?」

「知り合いも何も白灯様のお兄様です!」

話は聞いていたが名前までは聞いていなかった白灯の顔を驚きの色を隠せない。急いで手紙を見る。

 『公平に審議をいたすため両者の中立の者である我、虎太郎が審判を務めるものとする。』

と一行目に書かれていた。

「合戦に審判っているの?」

聞いてみるもみんなが頭上の疑問符を浮かべる。

 『対戦のルールを以下とする。』

「合戦でも決戦でもないじゃん!」

神田の手紙に比べ丁寧に書かれていることからこっちが本当なのだろうと思いつつも

「祖父ちゃんと合戦だと思って話進めてたじゃん…」

「まあ、まだ日付よりだいぶありますから、この手紙を持って帰ってから決めましょう。」

ギギも少し疲れた目をしていった。

 「どうしたの?」

白灯の席に集まるのは鬼頭の忘れ物を職員室に届けに行っていた小鳥と付添の天子と乙女。

「手紙来たんだよ。」

「ラブレターですか⁉」

「合戦のルール。対戦だけどね。」

一瞬ギギと乙女の視線がかち合うもすぐにもとに戻った。一緒に住むようになっても犬猿の仲のようだ。

 手紙の続きを読む。

『一つ、大将一人、副将二人、中堅二人、次鋒二人、先鋒二人の計九人を決めよ。』

「剣道? 柔道?」

「どっちにしても人数がおかしいです。」

小鳥の疑問に乙女が答える。

『一つ、猫又一門からの怪石中学校、犬神一門からは一名を除き山城中学の在学生徒のみ参加できるものとする。』

「何で生徒?」

「年齢じゃ決めにくいからね。」

園良と獏も話に入る。多々良が白灯の上から手紙を覗きこむ。

『一つ、そのほかの者の乱入があった場合、負けとしペナルティをかす。』

『一つ、もし相打ちとなった場合は審判が決めた者同士で再戦を明日に行う。』

『一つ、各対戦は対戦相手のリタイア、棄権、審判による判断以外では死亡もしくは消失以外終了させることはできない。』

『一つ、仲間からの手出しは禁止とし、もし行われた場合、即、対戦は終了。審判により各対戦を無効をとする処置の後、勝者を発表するものとする。』

「死んだら負け…」

白灯の顔が険しくなる。それに乱入と手出しの違いとはなんだろうか?

「白灯さんはもう少し仲間を信頼されてもいいと思うです。」

乙女が言った。

「ここに居る全員、白灯さんが思っている以上に強いんですよ。」

白灯の肩に手が乗る。

「そうだぞ。酒呑童子だって簡単に片付けたじゃんか。大丈夫だよ。」

「そうッスよ。」

「お前何もしてないじゃん。」

皆が笑う。

 ホームルーム後鬼頭を呼び止める。

「そうか、解ってるだろうな。」

これは気を付けろ。とか、頑張れよ。とかではなく、小鳥を出すような真似をしてみろ、どうなるか解ってるよな? という意味だろう。

「その辺は心配しないで、でも、戦えそうなのが足りないかも。」

「なら明日集まるよう言っておく。」

誰か当てがあるのだろう。鬼頭はそういって自分の授業の順備に入る。


 帰宅後、白灯はまっすぐ銀虎のもとへ向かった。

「どうした?」

「合戦のルールが届いた。対戦だったけど」

そういいながら手紙を渡す。

「ん、虎太郎じゃと!」

「そうなんだよ。」

銀子は黙って手紙を読む。

 読み終わった手紙を置き、

「白灯、わかっておるだろうな。覚悟を決めるんじゃぞ。」

「ああ、わかってる。足りないメンバーを先生が探してくれることになってるから、天子ちゃんや小鳥に出てもらうわけにはいかないし」

「そうじゃのう。まだ若い長が出るには力不足じゃろう。」

と銀虎は言いつつ人数が足りないという話に首をかしげる。


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