1話 それは、突然の出来事でした。
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僕の名前は神無月那由といいます。
今どきの主人公と呼ばれる人たちとは違い。魔王の血も、魔法も、超能力も持たない正真正銘ただの人間です。
両親も健在で、義妹もいません。
普通すぎるくらい普通の人生を送ってきました。
そんな僕の世界には、オカルトと呼ばれる怪奇現象が実在します。
怪奇。怪談。都市伝説。そう呼ばれるものが実際にあり、またそれにまつわるアイテムの類も世間に認知されています。
初めて現れたのは「口裂け女」。
それから「てけてけ」や「赤ずきん」、「トイレの花子さん」といった有名な怪奇現象が、突然現れたのです。
暦鏡、猿の手、藁人形、呪いの水晶・・・それらは表舞台にいる人たちを闇に引きずり込む呪いではありますが、世間はそれを当然のように使用し、また大勢の人を死に追いやってきました。
さて、今回僕が遭遇したのもまさにそれで。
正確には遭遇したのは僕ではなく、彼女である高崎しぐれなんですけど。
とある休日の昼下がりのことでした。
僕はしぐれとの待ち合わせ場所である公園へ、予定時刻の15分前に到着して、しぐれを待っていました。
「・・・まだかな」
いつもならしぐれも同じくらいにつくはずなのに・・・僕は多少の疑問を抱きながら彼女を待っていました。
数日前、同じ場所で彼女が言った言葉を思い出します。
「『もし私が二人いたら、そして二人の性格が真逆だったら・・・』・・・か」
オカルトが実在するこの世界では、たびたびそういう事件が放送されることがあります。
「カガミムラサキ事件」や「メリーズドール事件」。
もちろん、そういった呪いの類に関して、世間が対策しないわけがなく、解呪のお守りやお札、さらには武器の類まで製造されています。
しかしながら、戦闘経験のない現代人に武器を与えたところでさしたる効果はなく、手軽に携帯できるお守りが人気のようです。
僕の周りにはなぜか呪いの類は姿を現さないので、僕が携帯しているのは効果の薄いお札一枚です。
「「なゆー!!」
思考にふけっていた僕の頭を現実に引き戻したのは、幼い女の子の声でした。
当然のことながら、僕には幼い女の子の友達はいません。妹も高校生なので、その年代の知り合いはいるはずがなく。
知り合いがいないのに、僕の名前を知っているはずもなく。
「・・・??」
振り返り、僕の名前を呼んだ二人の女の子を認識しますが、僕には心あたりがありませんでした。
「えっと・・・?君たちは??」
とりあえず声をかけてみますが、二人は何やら後ろを向いて相談タイムのようです。
ふと、二人の髪を後ろで束ねている髪飾りが目に留まりました。
半分に割れた雪の結晶がデザインされた髪飾り。
それは、僕がしぐれにプレゼントしたものとよく似ていました。
「もしかして・・・しぐれ?」
思わず口にした言葉。それを聞いた二人の幼い女の子は同時に振り返り、
「「やっと気づいた!!」」
笑顔でそういうのでした。