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千夜航路~天つ海翔ける星の宙船~  作者: 藤田 暁己
<序>――闇暮(やみにくる)
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(序)

 


 西暦4XXX年。人類は選択の時を迎えた。

 すなわち、手の施しようのない汚濁にまみれた地球に残るか、衛星都市として開発中である〝月〟に移住するか、あるいは未知の可能性を求めて新たな外海へと旅立つか。

 これはその第三の選択をおこなった人々――巨大宇宙艇[まほら]に乗り込み、見果てぬ楽園を目指した千五百人とその子供たちの物語である。


*  *  *


 四十世紀末、地球上の人類は腐りきった頽廃の中に浮遊していた。否、それはむしろ熟成しきった果実が枝から離れ、くずれゆく果肉と耐えがたい臭気を放ってなお、執拗にまとわりつく虫さながらであったに違いない。

 真綿で己が首を絞めることを判りつつ電脳社会の利便を甘受し続けてきた人類は、ある日すべてが崩れ去ることを知った。

 第三次世界大戦である。


 魔の七日間とも呼ばれるそれは、狂信的なテロ組織による核保有国の軍部同時制圧と、全世界に向けた核兵器の使用とで世界の三分の一を壊滅させ、そして収束した。

 すでに宇宙開発技術を確立していた人類が、生き延びる手段を宇宙へと求めたのは、ごく自然な成り行きだったといえよう。


 しかし先進各国共同で月開発が進められ、宇宙ステーションが機能していた世界情勢も、第二の地球を探す航海となれば別である。

 人々の血は交わろうとも、国が国境を交えることはない。まるで北極点の到達を競うかつてを再現するような宇宙艇開発の争いが、世界を席捲した。


 アジア圏からの研究者を数多く雇っていた日本も例外ではなく、日本国籍を持った僅名を除いて外国人を排除。自国民による特別編成チームにより[まほら]の開発にあたった。

 独自の宇宙航空技術を確立していた中国も[崑崙]を、アメリカは[エデン]、ロシアは[ヴァルハラ]、インドは[スメール]。EU連合は共同で多重構造をもつ[エリュシオン]の開発をおこなっていたが、出資面などの問題から一部国が断念。フランス、ドイツを中心とした数カ国の編成となった。


 目指す惑星はそれぞれ――衛星を含めた火星、金星といった太陽系内にある居住可能な星は国連の協定により独占不可能なため、各国は果て無き外宇宙へと理想郷を追い求めた。

 日本船である[まほら]が目指したのは、約三十光年離れた恒星アマテラスの第三惑星トヨアシハラ。

 宇宙艇として初めて亜光速での航行を可能とした[まほら]は、目的地に到達する三倍以上、およそ百年分の燃料を積んで母星を旅立った。


*


 移住を目的とする乗員はその大多数を一般市民が占め、永い、真空の航路を行く宇宙艇は、乗物であると同時に彼らの住居でもある。

 巨大な筒状構造をもつ[まほら]は、筒を横割りにした七つの層に分けられた。


 機首にあたる第1層には船長を中心とした乗務員、第2層には下位の乗務員とその家族。第3層には研究機関、第4層は基幹となる機械がおさめられ、第5層から第6層にかけて一般市民の住居が押し込められる。

 残る第7層――文字通り〝底〟にある宇宙艇の最下層は、船内の汚物処理や廃物リサイクルなどをおこなう船の暗部であった。

 乗員は希望者から選出された他人同士とはいえ、約三分の一世紀ともなる航行の歳月の中でコミュニティは必要である。

 それは当然船長を頂点としたヒエラルキーを構成し、各層には層の名を冠した名前と都市としての機能が備わった。それが、


 一心(ひとうら)

 二羽(ふたつは)

 三風(みつかぜ)

 四辻(よつじ)

 五葉 (いつは)

 六花 (りっか)

 七楽 (ながく)


の七都市である。


 ただし、この最後の七楽市だけは、正式な名前で呼ばれることはほとんどなかった。それは、その立場と表記から〝ナラク〟――奈落。すなわち〝地獄〟と称されていた。

 未来への希望に燃えるはずの宇宙艇内で、地獄とはそぐわない観があるかもしれない。だが人々は、けして幸福とは呼べなかった。


 果てのない暗黒に閉じ込められた限局的な空間と、いつ終わるとも知れぬ楽園への旅路。けして拭い去ることのできぬ不安はゆっくりと人々の中から染み出、奥底へと溜まっていく。

 地球出航よりおよそ五年後。予定到着年数を六分の一ほど消化した頃に、それははっきりと目にわかる形となって現われた。

 人員数を左右する出生率の極端な低下。そして、無目的ともいえるテロの発生である。


 ナムジー=オーア・ソイロ船長は、母国より持参した冷凍精子と卵子の使用を許可し、一人一子孫の法の厳守を言い渡すことで第一の問題を解決しようとしたが、時折乗員のストレスが暴発したような形で起きるテロには、[まほら]警察が遅れがちな対応をするばかりであった。


 しかし、ひとすじの光明があった。

 地球暦末期にして人類は第二の頭脳と言うべき能力の開発に成功し、それは閉鎖空間という特殊な環境ゆえか、ここ[まほら]において飛躍的な発達をみせた。

 いわゆる超能力者――稀人(まれびと)の出現である。

 精神感応を主とするその能力を船内の人々の精神の安定に用いようというのは、単なる思いつきというよりも必然であったとしか言いようがない。

 幼少時より定期的に行なわれる脳波の測定により稀人は検出され、第3層の研究機関で養育される。その多くは幼児期に力を失ってしまうが、いくらかは大人になっても強いまま持続した。


 彼らは人々の心を見張り、各層を越えてテロを未然に阻止するために働く第八の存在――通称〝八部(はちぶ)〟であった。





お読みいただきありがとうございます。

題は「せんやこうろ~あまつうみかけるほしのそらふね~」と読んでいただけたらと。

副題いらない気もするのですが。。。


時折(改)がつくと思いますが、誤字脱字程度の予定です。

先は長いです。お時間が空いたときにお付き合いいただけたら嬉しいです。


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