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00:00 半宵



 空飛ぶバイクで近くのコンビニまでやってきて、その明かりに照らされるバイクを改めて見た時に、わたしは新たな発見をした。

 このバイク、よく見たら金色でメーカーのロゴマークが描いてあったんだ。


 ロゴの形は、某スポーツブランドの某猫科動物みたいにのびのびジャンプしようとしてる、某鹿科動物のシルエット。

 トナカイバイク……!


 どこからどこまでがジョークなのかわかんなくて温い笑みが浮かんじゃう。とりあえずデザインは素敵。



「いいか、店内に入ったらお前はいないものとして扱うからな。聞いてんのか」

「あっはいはい。わかったけど、どうしてわたしは普通の人には見えないのにあんたは見えるの? ていうか見えてるなら空飛ぶバイクはやばくない?」

「俺は調節出来んだよ」

「なにそれずるい」

「ずるかねえ」


 奢りの肉まんの魅力に浮かれながら、すたすた歩くチンピラサンタの後を追っかけて、コンビニに入った。

 サンタは真っ直ぐホットドリンクのコーナーへいって、コーヒーを手に取る。

「あっココア、ココア飲みたい」

 わたしの横槍に、黙ってココアも手に取った。

「あとね、肉まん、特製のやつがいい。ちょっと高いやつ」

 あれあれ、と保温器の中のちょっと大きいのを指差す。

 サンタはちらりと保温器を確認して、レジに向かった。


 コンビニの店員はちゃんとサンタが見えてるらしい。ホットの缶をぴっぴと通し、チンピラサンタの「特製肉まん」ってだけの横柄な台詞にも快く返事をして、トングを手にしている。


 なんとはなしに支払いの様子を見ていて、ふっと目についたものがあった。

 チンピラサンタのやっぱり真っ黒な財布から、ちらりと見えた──免許証。

 思わず噴き出して、それからわたしは姿も声も誰にもわからないことを思い出したから、こらえるのをやめた。

「さんた……! サンタだからさんたって、偽名にしてももうちょっと、あは、はは!」


 免許証の名前欄にかいてあった氏名。


 黒須 三太。


 三太 黒須。


 サンタクロース。


 ネーミングセンスが駄洒落、親父ギャグレベル。

 黒尽くめ三白眼のチンピラの名前がダジャレ。だめおなかよじれる。

「あはは、あは、あはははは!」


 爆笑するわたしを、見えないものとして扱わなきゃいけないサンタは、こめかみをひくひくさせながら普通っぽい顔でお釣りを受け取った。

 だめ面白い、後が怖いけど普通っぽい顔が面白い!!


 ビニール袋を引っ提げてコンビニの外へ向かうサンタを追いかけながら、おなか抱えてひーひー笑った。


 真っ黒バイクのところまで戻ってきたサンタは、三白眼でわたしをぎろりと睨む。

「どうやら肉まんはいらねえみてえだな」

「やだやだいるいる、ごめ……っぷ」

「そうかいらないか」

「いるうー! ごめんー!」

 やっばいやっぱりお怒りだ。面白い。


「だいたいてめえは人のこと笑える立場じゃねえはずだが」

 ビニール袋からがさがさと自分のコーヒーを取り出して、残りを袋ごとわたしに押し付ける。

「なんのこと?」

 いそいそ肉まんを取り出しながら聞いた。なんにも心当たりないけど。

「サンタクロースってのはなあ、子供のことはよーく知ってんだよ。どんな願いを持ってるか、どこに住んでいるか、ちゃんといい子にしてるかどうか。もちろん名前も知ってる」


 ……なんか怖いこと言ってる。いい子にしてるかどうか、とか。


「仲居かのと」

 さらっとサンタが言ったことに驚愕した。

 肉まんにかぶりつこうとしていた口があんぐりの形のまま固まる。

 それわたしの名前!!!


「今はあれだろ、かのと仲居。なあ?」

 そう言って、チンピラサンタはわたしの鼻の頭を摘まんだ。

 サンタの印で赤く光ってるらしい、わたしの鼻を。


 かのと なかい。


 彼のトナカイ──って

「やめてえええええかっこ悪いー!」

 鼻を摘まむサンタの手をばしばし叩いて外した。


 親父ギャグでコンボとかさいてーだ!


 サンタはふんと鼻で笑ってコーヒーを啜る。

「早く喰え、まだ仕事が残ってるんだからな」

「さっき邪魔したふへにーっ!」

 あっおいしい。特製肉まんおいしい。

 そういえばお昼ごはんから後はなんにも食べてないんだった。

 おいしい。


 じゅわっと広がる肉汁に、たけのこのしゃっきりした歯ざわり、しいたけの匂いが薫る。

 なによりほかほか、あったまる。


 夢中でもぐもぐしてたら、コーヒーを一口飲んだサンタがぼそっと口にした。

「──一度お前を家に帰したほうがいいな」

「なんで?」

「親がうるせえだろう」

「ああ……別に、大丈夫だよ」

 サンタに捕まる前に見たメールを思い出す。

 肉まん、最後のひとくち、飲み込みにくかった。

「たぶん誰もいないし。行くだけ、無駄かも」

 包み紙をくしゃくしゃ丸めて、ビニール袋に突っ込んだ。

 一週間顔を合わせなかったこともあるし。

 風邪引いて、治るまでひとりだった時もある。

 だから、どうでもいいんだ。


「……なら、このまま続けるぞ。ゴミ寄越せ、捨ててくる」

「ありがと……」

 サンタはわたしの手からビニール袋を取り上げて、コンビニのゴミ箱目指して歩いていった。


 ──最初はなんでって思ってたけど、まあ、よかったかな。

 ひとりより、ずっとまし。




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