ブログ本編100記事達成記念
道端に長いパンが落ちているのを見つけた。
誰かに取られる前に小走りで近付き、それを拾いに行った。雨が振り出す前に見つけられて良かった。濡れたら食べられなくなっていただろう。
踏み潰された端々を千切り落として、残った分をシャツのポケットに入れる。
この大きさのパンなら、アレと分けて食べられそうだ。腹いっぱいになればもしかしたら久しぶりに眠れるかもしれない。減り過ぎると逆に疲れて眠ってしまうけれど、そうすると朝はなかなか起きられない。
起きなければ、次の食糧を探しに行けない。街のゴミ置き場はいつもそれなりに満ちていても、漁るには結構な集中力、体力、根気、そして時間が要る。毎日ゴミ場を漁っても、腹は減り続ける。運がいい日は買い物帰りの人間の荷物から何かしら掠め取れる。しかしどんなに頑張っても何故か長くは満たされない。これならば林に残って狩りをしていた方が良かったのではないか。
生きるということはなんて面倒臭いんだろう――常々そう思わずにはいられない。
「コラ! 拾い食いすんなって言ってんでしょ!」
急な怒鳴り声に、少年ははっと顔を上げた。
自分も、よく母にそんな風に怒られていたからだ。
おそるおそる振り返った。しかしそこに居たのは黒髪黒目の美しい母ではなく、肥えた身体を高価そうな服に包んだ醜い女だった。同じように肥えた息子を叱っていたらしい。
その光景を見て、肥えた親子を妬ましく思う気持ちよりも母が居ないことにどこか落胆している自分に驚く。
親が居たから、村があったから、今までぬくぬくと生きていられたのは子供心ながらに理解している。今更感謝しても後悔しても無駄なのもわかっている。
ただ、皆が居ないのに自分が生き続けることに何の意味があるのか、それだけがわからない。
「ちょっと、そこの子! 何見てんのよ汚らわしい」
高価そうな服を着ていながら口の悪い女は、こちらの視線に気付いて喚いた。
汚らわしいと罵られても、風呂も着替えるアテも無いのだからどうしようもない。
「ママー。何であの子左目が白くてキラキラしてるのー?」
「白っ……呪いの眼! いいから行くわよっ」
母親は息子の手を引いてサッサと行ってしまった。
一人取り残されたゲズゥ・スディルは、ぼーっと地面を見つめていた。
――わからない。何故、自分も一緒に逝けなかったのか。
生き残ってしまった以上は従兄との約束があるので、当面はまだ死ねない。
なんて、面倒臭い。
しかし今は考えても仕方ない。とりあえずは動くのみだ。
ゲズゥはしゃがんで、肥えた息子が拾おうとしていたりんご飴を手に取った。甘酸っぱい香りがする。汚れた部分を切り落とせば、まだ十分食べられる。飴なんて滅多に手に入らないから多少の傷みも気にならない。落ちたばかりなのかまだ蟻も引っ付いていない。
こんなレア物を持って帰ったら喜ぶだろうか、と考えながら、アレの待つ路地裏へ戻った。
ミニげっさん。この頃は背がちょっとだけ高い方のひょろい子供?
2012/08/28掲載。




