17 無学なおまえたちが哀れに思えて
「だあああああっ!」
何かに耐えかねたように、少年が両手を宙に放り投げる。
一緒になって放り投げられた薄っぺらい一冊の本を、隣の少年が片手で捕まえた。二人は顔形が良く似ていて、一目に一卵性双生児だと知れる。
「ジェルーチ……うるさい……」
乱暴に扱われた哀れな本を膝の上で広げ直しながら、陰鬱そうな雰囲気の方の少年が文句を言う。
「しょーがねーじゃん、読めないんだもんよ。文字ってよくわかんねー。なあジェルーゾ、違う遊びしようぜ、なあ」
「ルゾは……ものがたり……きょうみ、ある。がんばれば、きっと……」
口を尖らせる兄弟を肘で押しのけて、ジェルーゾと呼ばれた少年は古びた本のページを鼻に近付けた。近付けたところで、本自体が逆さになっていることに、彼らは気付かない。
二人はまともに読み書きを覚えないまま故郷を去ったのだが、そうでなくとも、文字があまり普及していない里だった。大人の識字率ですら二割に満たなかったことだろう。
今は教えてくれる相手がいることにはいる。が、どうにも身に付かないのである。
『何の騒ぎだ』
するとその男が洞窟の闇の中からぬうっと現れた。
「あ、ヤンー。ヤンが『ひまつぶしに』つってくれたこの本、ぜんぜん読めないんだよぅ」
さまざまな動物の部位を交ぜ合わせた姿をしているその化け物は、右腕が蛇となっており左腕は巨大な百足だ。いっそ頭部から尾の先に至るまでにひどく歪な異形であるのだが、双子は彼を保護者代わりとして長く馴染んできたため、相対したくらいで恐怖を感じたりしない。
『幼児向けの絵本だぞ。文ですらないのに、読めないとはどういうことだ。教えたはずだ』
ヤンは呆れて、足代わりの触手を使って本をひったくった。
「ごほん……よんで……?」
「えっなに、読んでくれんの!? ヤンもたまにはひまなんだな!」
自分ではわけがわからないからと短気を起こしたジェルーチが、打って変わって興味津々な顔をする。彼は苦労がしたくないだけで、物語は気になるのである。
『暇と言うな。おれは無学なおまえたちが哀れに思えてだな』
蛇の形をした腕が、それぞれの後頭部に軽く牙を当てた。「いてっ!」「……いたい……」 と、それぞれが抗議する。
『いいから、よく聴け。むかしむかし、あるところに――』
昔語りが始まった途端、洞窟はいつになく静かになったのであった。




