15 同志であるから
出会ったその日から、気に食わないと思っていた。
いつも変な草ばっかり吸っていて臭いし、うるさい上に卑屈だし、決闘を挑んでもちょこまかと逃げ回って鬱陶しい奴である。小柄な体型も、中途半端な長さの髪も、女々しくて鬱陶しい。あの男を好きか嫌いかで分類するなら、間違いなく「嫌い」に入っている。
生活習慣から話し方やみだしなみに至るまでに、とにかくことあるごとに衝突しては大喧嘩に発展し、主たる聖女レティカを困らせたものだ。
ただ一つだけ認めざるを得ない事実がある――
「エンリオ!」
前方では、異形に四肢を拘束されつつある小柄な男の姿がある。
レティカを安全圏に送り届けた後、結界の傍に残って彼女を守るべきか否かで迷った。それが、自分でも意外な決断をした。
レイは魔物を次々と薙ぎ払って駆けた。ずっと疎んでいた相手を救わんとして。
「死ぬな! 何故なら私たちは――」
――同志であるから!
周囲の乱闘と喧噪によって、叫びはかき消された。進んでいるつもりなのに、ちっとも距離は縮まらない。それでもレイは諦めずに剣を振るった。そうするしかなかった。
エンリオとは生まれ育った境遇に違いはあれど、聖女レティカという一点に道が交錯した。護衛になってからは、人生をつまらないと思わなくなったのは、奴も一緒だったはずだ。日頃いがみ合う度に、そう感じる部分が心の中に大きくなった。
今ならわかる。対抗心が生じるのは、愛する相手が一緒だからだ。その人の気を引きたいだけなのだ。
たとえ護衛としては間違った判断だったとしても、レイにはエンリオを見捨てることができなかった。それは自分の存在をも否定してしまうような気がするからだ。主を失うのは目を失うようなものなのだろう。唯一の同志を失うのはきっと、片腕を失うようなものだ。
突然、死角から側頭部に強い打撃を受けた。体格に恵まれたレイでも宙を飛ぶほどの威力だ。
受け身を取る間も無く地に落ちた。打ち所が悪いのか、下半身の感覚が急に途絶えた。視界も安定しない。忽ち何かが鎧に吸い付き、恐ろしい力で引き剥がしている。見えない敵を殴りつけようと腕を振り上げたら、激痛が走った。巻き付いてきた何かが、腕をあらぬ方向に曲げたのだ。
私もここまでか、と心が沈みかけた時。
「どう、か……あな、たの――願いを、りそう、を……かなえて――」
よく知った声が囁くのを聴いた。レイは俄かに安堵に似た感情を覚えた。身体を襲う痛みも少しの間忘れていられた。
――ああ、そうだ。やはり私たちは同志だ。同じ女性を慕い、守る為に命を賭す覚悟を決めていた。だから私も、最期の瞬間にはお前と同じ祈りを抱いて眠ろう。
エンリオと舌戦を繰り広げる時を除けばあまり喋るのが得意と言えないレイは、巧い言葉が思い浮かばなかった。だから短い一言に精一杯の気持ちを込める。
「レティカ様、頑張って下さい」
精一杯の笑顔を添えて彼女は逝った。




