13 こうして子供はできる
「次。君たちで最後だな」
設計士は疲れを隠せない声で呼びかけた。呼ばれた二人の少女がおずおずと前に出る。
かつてはウペティギの城だった住居を乗っ取ってから数週間後、城主や残党の処理をようやく終えた設計士とその仲間たちは、今度は城内の奴隷や使用人の身の振り方を検討していた。
「希望があるなら聞こう。使用人として残りたいのか、元居た場所に帰りたいのか、或いは全く別の何かが欲しいのか」
「わ、わたしたち、帰る場所、ない、です。ううん、あんな所、帰りたくないんです」
二人のうちの色素の薄い方の少女が答えた。どちらも十二、十三歳未満に見えるのが痛々しい。
「そうか。ならばどうしたい?」
「わかりません。でも、ここに居させてください」
「それは構わないが……君たちは使用人になりたいのか? 他にも道はあるぞ」
ふと設計士は全ての発端であった、小さな聖女と彼女を救いに来た青年のことを思い返した。関わったのは僅かな時間で、彼らのことを深く知ることもできなかった。だがあの若さで自分の生きる道を掴み取る意志を持っていたのは確かだ。それはとても素晴らしい、できれば目の前の少女たちにも手にして欲しい強さである。
「あ、あなたさまと一緒にいたいです!」
色素の濃い方の少女が耐えかねたように顔を上げ、潤んだ瞳を向けてきた。
「助けてくださった、お、恩師さまのお役に立てるなら何でもやります! 恩師さまの命令通りに!」
「いや、気持ちは有難いが。あと、君たちはもう『命令』を聞く必要がない」
「おねがいします!」
二人の少女が揃って飛び出し、設計士の左右の脚に抱き付いた。
「な――」設計士は硬直した。後ろに控えている協力者たちがクスクス笑いを堪えているのが聴こえる。
「結婚もしていないのに、いきなり娘が二人できたな。よかったじゃないか」
「よかったのかどうかはこれから決める」
ため息混じりに返事をする。これまでにも恩師と呼んで感謝を表した元奴隷は居たが、こんなに直球に感情のままに縋り付いてきたのは初めてだ。この子たちの経歴と年齢を思えば無理もない。
「引き取るのは構わないが、私は君たちに奴隷か使用人としての一生以外にも道があることを知ってもらいたい。ゆえに教育を施す」
「きょう、いく?」
「そうだ、学問だ。明日からビシバシと叩き込んでやるから、ついて来い」
「「はーい!」」
「……その意気だ」
何を言われているのか意味を完全に理解していないであろう少女たちは、未だ抱き付いた脚を離すことなく、新しい保護者に無邪気な笑顔を返した。




