11 ホームメイド
夕方、ラサヴァの役人ルセナンは自宅である料理屋に帰ると、妻がバーカウンターに頬杖ついて何やら唸っていることに驚いた。妻はどちらかといえば楽天家で、悩みもあまり引きずらないタイプだからだ。
「ただいま。どうした、何か悩みか? 珍しいな」
「あらあなた、お帰りなさい。大したことじゃないのよ。自家栽培を増やそうと思ってるんだけど、キノコにしようかヨーグルトにしようか決められなくて」
ほう、と妻はため息を漏らした。
元々ルセナンたちは趣味で自家製の酒を作ったり野菜やハーブを育てたりしていて、うまくできたものは店のメニューに出すこともある。最近で言えば、ハーブ入りクリームパンなどが近所で結構好評だった。
「お前の料理はどっちもよく使うな」
なんだ、本当に大したことじゃなくてよかった、と安心しながらルセナンはスツールに腰をかけた。妻はいつもの癖で夫の肩を揉みに回り込んでくる。
「自家製の味が欲しいのはやっぱキノコよねぇ。でも収穫期を思うと、あんまりモトは取れないかしら」
ちなみにヨーグルトは知り合いの牧場が美味しく作っているので、そこからまとめて買うのが常である。値段も手頃だ。ただ、自分で作って味や食感を実験したいという気持ちはよくわかる。
「試すだけなら別に両方作ればいいんじゃないか? それくらいの余裕はある」
ルセナンは目を閉じて妻の指先が作り出す心地良い圧力に身を委ねた。
「それもそうね。うん、そうしよう」
「おう」
「あ、そういえば今日のお仕事どうだった? それとお腹空いてるなら何か温めるわ」
「そうだな、今日は……」
顔を覗き込まれ、ルセナンはその日の出来事を思い返し始めた。
うんうん、と相槌を打つ妻はすっかり明るい様子に戻っている。




