10 それでも一緒にいたい
とける。暑くて溶ける。
唸りつつイトゥ=エンキはベンチの上で寝返りを打った。町の中というのは一見木陰が多いように見えて、全然だめだ。こんなことを考えたくはないが、ユリャンの鬱蒼と茂った林道が恋しい。
「エンくんエンくんエンくん」
ふいにすぐ近くで女の子の声がした。直後に別の「もようのおにーちゃーん」と呼ばわる男の子の声が聴こえた。何かがズボンの裾を引っ張っている。
「んあー、何だよオマエラー、陽射しの方に引っ張るなって頼むから」
億劫そうに答える。すると子供たちが飛びついてきた。
「ネコ! 落ちそう、たすけて!」
イトゥ=エンキの腹の上で飛び跳ねながら必死に上を指差している。
「猫~?」何気なく目線で探してみると、小さな鈍色の塊が確かに真上の樹の枝からぶら下がっている。あんなにバタバタと余計に暴れたら状況が悪化するだけだ、と思っていても猫には教えてやれない。
「キャッチ! してあげて!」
「マジ? オレびみょ~に猫アレルギーなんだけど。近付くのは平気、一瞬ぐらいなら触れる、でも抱き留めるとなるとやばい」
そう主張しても、子供の耳には入らなかった。
「あー、落ちるー! エンくん早く!」
仕方なくイトゥ=エンキは起き上がりかけた。同時に、毛玉がべちっと顔面に落下してきた。
何だそれ、キャッチも何も無いじゃん――と突っ込んでいる場合ではない。猫の毛がもっさりと目や鼻に入った。手遅れだろうが、それでも引き剥がそうとして――
「ぶえっくしょん!」
子猫の腹にくしゃみをした。それを引き金に、涙と鼻水がだばーっと溢れる。片手の裾で雑に拭った。残った手はまだ猫を引っ掴んでいる。
「ぼくも抱っこしたい」
「くれてやるっていうか早く取ってくれよ。暑苦しいし」
「でもネコちゃんエンくんにべったりだよぅ。好きなんだよきっと!」
「はあ、何? よりによって懐いたっての」
返事をするように子猫はミャー、と甘えた声を出した。