09 毎年五月には
「なーんでこんな事しなきゃなんないんだよ」
少年トリスティオはぶつくさ文句を言いながら、木製のポールにリボンを取り付ける手を止めた。日が昇って間もない時刻に起こされて、これだ。去年までやらされた広場掃除の方がまだよかった。
大人の前だと大人しく口数の少ない彼だが、今この場には幼馴染の少女、ツェレネしかいない。
「もう、トリスってば文句言わないのっ。祭の準備は皆手分けしてするものなんだから。メイポール・ダンスは五月祭の一番大きなイベントだよ?」
隣で同じ作業に没頭していたツェレネが口を尖らせる。そういう顔をしても可愛いのは、ズルいと思う。
「わかってるって、レネ」
「そんなこと言って、わかってないでしょー」
立ち上がり、彼女は腰に手を当ててトリスティオを覗き込んだ。鮮やかな赤い髪が弾みで揺れる。
「一昨年みたいに事故があったらどうするの。ちゃんとやらなきゃダメなんだからね」
「あー……」
一昨年の五月祭。集落の子供たちがリボンを手に持ってポールを回る踊りの最中、そのリボンが何本か抜けたせいで、転んだ子がいた。転んだ子に足を引っ掛けて更に転ぶ子供もいて、最後にはポールが傾き大騒ぎになった。幸い、誰も大事には至らなかったけれど。
「……わかってるって。ちゃんとやればいいんだろ」
「うんうん」
トリスティオは中断してしまっていた作業に戻った。
もしも自分が手を抜いたら――。
泣きじゃくる小さな子たちを想像すると、何だかやるせない気持ちがこみあげてきて、どうも真面目にやりたくなるのだった。