08 チームワーク
「――獣の臭い」
ゲズゥが口にしたら、先を歩いていた黒髪の男が静止した。
そうしてエンは鼻をスンスンと鳴らして午後の山の空気を嗅いだ。
「山猫か。よく臭いに気付いたな」
「どうする」
問いつつ、ゲズゥは未だに眠り続ける少女を背中から下ろして地面にそっと寝かせた。
「やり過ごすのがベストだな。下手に殺して血の臭いを広げるのはマズイ。奴ら縄張り意識は強いけど、これまで襲ってこなかったってことは今んとこやる気が無いのかも。幸い、山猫は群れない動物だ」
振り返りざまにエンが答えた。
的確な判断だ。ゲズゥは頷いて同意を示した。
前方の巨岩の上に、それぞれ全長7フィート以上の黄褐色の塊が二つ現れた。二匹の山猫はしなやかな動きで岩を登り、真っ直ぐこちらを見据えている。
「げ、番だった……。ちなみにお前、投擲の腕に自信は?」
僅かに怯んだエンが、訊ねる。
「皆無だが」
質問の意味はすぐにわかった。直接やり合わずに追い払いたいなら、遠距離から牽制するのが一番だろう。
「そーか。オレもあんま得意な方じゃないんだよなぁ。うーん、じゃあ、こうするか」
エンは山猫から目を離さずに、後退った。
「そこら辺の石拾ってこっちに投げてくれたら、オレが鎖ぶつけて飛ばす。狙いは定まんないけど、ただ投げるよりは距離稼げると思うぜ」
「なるほど、悪くない」
「だろ? 合図するから、頼むよ。あ、あと万が一アイツらが逆上して襲ってきたら、雄はお前が倒せよ。オレ小さい方にする」
きしし、とエンが左頬の模様を歪ませて笑う。
ゲズゥは返事の代わりに身を屈めて石を拾った。