06 こういう他人を友と呼ぶべきか
「何だ、死んだのか? 天下の大罪人といえども、呆気ないな」
乱暴に揺すり起こされて最初に聴いたのはからかうように笑う若い男の声だった。視界がぼやけて、目の端から熱い涙が勝手にこぼれた。後頭部が鈍く痛む。どうやら気絶していたらしい。
「まさか私がお前を助けることになるとはな。普段と逆だ」
男の靴の踵が、肩に当たっているのがわかる。なるほど、揺すり起こされたというより蹴り起こされたのが正しいのか。
ゲズゥはしばらく黙っていた。起きたばかりなのもあるが、それより男の名前を思い出そうと集中している。確かに最近覚えたはずだ。
「――オルト」
呼ばれた男は返事をする代わりに手を差し伸べた。ゲズゥはその手を凝視するだけで取ろうとしない。
「お前、何か勘違いしているだろう。過信ともいうか」
相変わらず笑っているが、藍色の双眸は珍しくシビアな影をたたえていた。
意味がわからず、ゲズゥは目を細めるだけにした。
「ゲズゥ・スディル、お前は確かに強い。だが、人間だ。一人無茶をし続けていつも生き延びられると思うなよ」
今朝方、単身敵地に乗り込んだことを指しているのだろう。三十人倒したところで、残った何人かに不意をつかれたのだった。その後の記憶が無くて、今に至る。
「別に思ってない」
記憶の断片を繋ぎ合わせてわかったことだが、事実、自分は窮地に陥り、もしかしたら死ぬところだったかもしれない。勝手に助けたのはそちらの方だ。
「ほう、ならば死に急いでいると」
「……誰が」
「違うのなら自覚しろ、己の限界を。あまり心配かけるな」
オルトは口元を歪ませた。まったく心配していた風に見えない。どうせ、ゲズゥが死んだら死んだでその事実をいくらでも利用する計画を立てているような男だ。聴く耳持つだけ無駄。
「さて、この借りはどう返してもらおうか。なんなら恩師と呼べ」
「鬱陶しい」
半ば投げやりに言って、ゲズゥは自力で起き上がった。