04 当然のように知っている
聖堂の掃除を手伝っていたら、ベンチの下に何かメモのようなものが落ちているのを見つけた。ミスリアはかかんでそれを拾い、目を通した。殴り書きなのでいまいち読めないけれど、ミョレンの国語で書かれているのはわかる。
(もしかしたら、誰かに取って重要なノートだったりするのかしら?)
ミスリアは首を傾げた。残念ながら、ミョレン国の言葉は理解できない。カイルか神父アーヴォスに読んでもらうしかないだろう。
とはいえ、よく見れば文字自体は南の共通語と似通っていた。南の共通語は表記文字や音節文字ではなく、アルファベットを用いる。もしも文字体系が同じならば、意味がわからなくとも、声に出すことぐらいは出来る――はずだった。
試しに声に出して読んでみた。慣れない音の組み合わせばかりだった。
(聴いた事ある言葉が一個も無いわ……)
肩を落としかけ、メモを置いて掃除に戻ろうとした時。それまで静かにベンチに横になっていたゲズゥが、口をあけた。
「最初のが『クソ親父。オレの休みを返せ』」
「え?」
「返事を書いた奴が――『親なんて死ねばいいよな。典礼とかクソつまんねー』」
「そ、そんなことが書いてあるんですか?」
驚いて、ミスリアは聞き返した。
「お前が今読み上げたのは、そんな具合だったと思うが」
「ミョレンの国語がわかるんですか?」
「……大して解らん。が、大体どこの国に行っても共通して最初に学ぶのは罵詈雑言の吐き方だ」
さもそれが世の常識であるかのように彼は断言した。
「あははは、否定はできないね」
いつの間にか入り口に、カイルが立っていた。
「今の訳は本当ですか?」
「うん。大体あってたと思うよ? 思春期っていうか反抗期の子が親に引きずられていやいや休日を返上したって愚痴を、友達に漏らしていたような」
カイルは明るく笑ってそう言うけれど、ミスリアは苦笑した。