表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
桜子様と桜姫  作者: 白羽湊
不良様のお姫様。
7/21

トラウマと変装

どれくらい何もできずに、固まっとったんか分からへんかった。

一瞬やったのかもしれんし、長かったのかもしれん。

どちらにしても、俺には物凄く長い時間に思えた。

誰も動き出せなくて、視線さえも動かせない。

そんな中、_____ガタッ。

誰かが立ち上がった。

誰かが、やから俺じゃあない。

その人物は、黙って星の座っているソファーの方へやってきた。

何もできないでいる、俺の隣へ…。


「…健、次郎…?」

(あかり)ちゃんの小さく呟かれた声で、漸く人物が分かる。

それと同時に、段々と俺の時間が戻ってくる。

頭の思考、視界、音。

別に無くなってたわけやない。

あくまでも比喩的な表現やけど、それまで全部が止まっとったみたいに、そうじゃなかったらゆっくりとスローで動いとったみたいに、動きも音もなかった所から急に騒々しく、足早な世界に戻ってきた気分だ。

健次郎を呼んだ声も、やっぱり何処か震えているように感じた。

でも、どうして?

何に対して、恐れを抱いているのか…分からへん。

俺は無意識にはあ、と溜息をついた。

星ちゃんの方を見ると、星ちゃんはまだ震えているように見える。

その細い肩を、健次郎が抱きしめていた。

星ちゃんが自分で自分を抱きしめるようにしている上から、そっと。

まるで壊れものでも扱うような、優しい手つき。

俺も盾も、透も馨もただそれをまた黙って見守るくらいしかできなくて、その場にまた沈黙が流れる。

俺は二人を見守り続けたが、星ちゃんも、健次郎も何も言わなかった。

それでも、段々と星ちゃんの表情が和らいできて、震えも小さくなっていくのが分かり、ほっとする。


________「…大丈夫だ。何かあっても絶対守る。」

星ちゃんが平常を取り戻した頃、聞こえてきた声に少し驚いた。

ハッとして自分の隣を見ると、健次郎の星ちゃんを抱きしめていた腕は緩められ、今は両肩にそっと添えてある。

星ちゃんは、言われた言葉に一瞬目を見開いていた。

ソファーに座る星ちゃんに、床に膝をついて目線を合わせた、健次郎。

恋人同士なら、そのままキスでもしそうなくらいの距離。

それに健次郎の言葉も、本当に告白しているのかと思う程に強い思いを感じさせ、慰めているかのように優しい。

普段誰とも関わろうとしない、一匹狼のように捉えていた健次郎が、こんな行動に出るのは俺の想定を軽く超えとった。

この子一人に、ここまで影響されるのもどうしてなのか分からなかった。

…まあ、さっきのジュースの件でも、結構驚いたつもりやったけど、まさかここまでとはなあ。

星ちゃんには、それほど簡単に人を変えてしまえる何かがあるんやろうかねえ。

健次郎と向かい合ったままの星ちゃんを見ながら、一人考える。

星ちゃんは少しの間、目を瞑っとったみたいやったけど、ゆっくり目を開いて漸く口を開いた。

「…うん。…ありがとう」

そう言った、星ちゃんは柔らかい笑顔やった。

「心配かけてごめんなさい。…もう、平気だから。」

単なる言葉の選択の違いかもしれないが、大丈夫やなくて、平気って言ったことに勝手に違和感を覚えた。

聞こうかとも思ったが、今はやめておこう。

今聞いたら恐らく逆効果やろうしな。

それより…。

「っおい、健次郎!いつまでそうやってるつもりだよ!?星はもう大丈夫なら、さっさと離れろ!!」

俺より先に、盾が口を開いたが、何をいうかと思えばそこか。

まあ、大事っちゃあ大事かもしれへんなあ。

盾が特に反論が返ってこないことをいいことに、二人を無理やり引き離した。

健次郎は相変わらずの無表情で、星ちゃんの方は呆気に取られてって感じやなあ。

「全く、勝手にいちゃつくんじゃねえよ!」

えっと、ごめんなさい。

なんて、言わんでええのにね、星ちゃん。

健次郎はそのまま自分の?先程まで座っていたソファーへと戻って行った。

「「星、ジュース飲んだら?」」

「えっ?」

「ジュースだよ。」

「さっき健ちゃんが買ってきた。」

「あっ、う、うん。ありがとう。」

双子も星ちゃんへとても気遣っているようだ。

「もう、…大丈夫なんか?」

さりげなく聞いてみた。

星ちゃんは、聞いた少しの間困ったような顔を見せたが、静かに答えてくれる。

「うん。…"平気"だよ。」

…やっぱり、大丈夫だとは言わなかった。

言えないのだろうか?

そこにどんな意味があるのか、俺は知りたかったんやけど、恐らく他の奴らは気にしていないんやろな。

聞くのは別の機会でもええか…。

どうせこれから、関わりを持っていくんやから。

それでも…これは、聞いておくべきだと思った。

本人がどうしてもというなら深くは追求しなくてもいい。

でも、言いたくないなら言いたくないと、本人から聞きたかった。



___「なあ、星ちゃん、聞いてもええか?」

俺がの声が少し真剣になったことに気付いたのだろう、星ちゃんは真っ直ぐに俺を見た。

「…何?私に答えられるものなら。」

はじめほんの少し不安の色が覗いたように見えたが、変わらない口調のまま先を促してきたので、俺も続ける。

「星ちゃんは何で、"変装"してるん?」

見つめる先にある、星ちゃんの目が少しだけ見開かれる。

「「「はああああ!!!」」」

星ちゃんからの返答を聞く前に、周りからの男の驚く声がいくつも重なった。

…健次郎は、気付いていたのか、いなかったのかは分からないが、無表情と無反応を貫いている。

驚いて声をあげているのは、それ以外の奴らだ。

…今更、名前はいらんわなあ。

「「星が変装?!」」

「おい、星!それ本当なのかよ!?」

と、今度は騒ぎ出してしまった。

…煩いわあ。

これやったら、星ちゃんが話せんやん。

「盾、透と馨も、あんま騒ぐと星ちゃんが話しだせんやろ。少し黙っときい。」

呆れながらそういうと、それもそうだな、とそれぞれに納得して黙ってくれた。

「すまんなあ。星ちゃん、ほな話せるんやったら、話してや?」

いきなり静かになっても話しづらいやろうと思い、話をふってみる。

星ちゃんは案の定、静かになったことで何から切り出そうか迷っていたようで、一瞬俺に微笑んだ。

恐らく言いたいことは、ありがとう、なんやろう。

「よく気付いたね。…結構、自分でも自信あったんだけどなあ。」

話し出した星ちゃんは、はにかみ顔。

言い出しは、先ほどのように取り乱さなかった事に、少しだけ安心する。

聞いておきたかったとは言え、話せないと言われるかと思っとったしな。

「尊、いつから気付いてたの?さっきの反応じゃ、他の皆は言われて気づいたみたいだったのに。」

やっぱり尊は人をよく見てるんだね、なんて褒められとるのか、嫌味言われとるのか、微妙な気分。

「最初の違和感は初めて屋上であった時からやで?まあ、あの時は大して気に留めとらんかったんやけど、星ちゃんが気絶して盾と運んだり、手当した時に確信したんよ。一緒に運んで、手当した盾は気付いとるかと思っとったんやけどなあ。」

俺の言葉に星ちゃんは、そうなんだ、と半ば想定出来とったんやろう。

大きな反応は返ってこんやった。

傍の方で盾が、気付くわけねえだろ、とぶつぶつ言っとるのはスルーする。

「普段は私も人と関わらないから、殆どばれたことないと思う。こんな形で指摘されたのは、久々だな。」

「久々ってことは、前にも何度かは指摘されたことあるんやね?」

「まあね、て言っても本当に片手で十分足りる位の人よ。」

星ちゃんが片手の指を折り曲げながら、話す。

「そうなんや。なして変装してるんか、俺らに言えるか?無理にとは言わへんし、言いたくない事があるんなら言わんでええよ。」

「…俺も、お前が話せるなら、理由聞きてえ。」

双子もうんうん、と頷いている。

星ちゃんはそれらをみると、少し微笑んで、

「そうだね。私もいつかはバレるだろうなと思ってたし。…ここまで早いとは思ってなかったけど。これから関わりを持っていくんだって分かってるもの。隠し事みたいな真似したくないよ。皆から聞くだけじゃフェアじゃないよね。…ちゃんと、私も話す。」

そう言って、話し始めた。

「変装して、隠してる理由はね、色々あるけど簡単に言うなら、『変装していれば周りと変わらずにいられるから』かな。周りからの視線を気にしなくて済むし、知らない人から声をかけられる事もなくなるから。普通でいられる。…勿論それがありのままでいられているって事だとは思ってないけど、容姿を隠せば、中身の私は人の目なんて気にせずに"自分"でいられるの。」

「容姿のことで何かあったのか?」

盾、お前ほんまに阿呆やな。

何かあったに決まっとるやろ。

それくらい、聞かずとも察してあげられへんのか?

やれやれ、と頭を抱える。

「うん。…まあ、色々とね。」

ほら見てみい。

星ちゃんの表情が曇るんがはっきり分かるやないか。

「あ、…悪い。」

「「盾、本当気遣い出来ないよね。」」

そう言って揃って盾を責めるのも、気遣いできてへんと、俺は思うけどなあ。

星ちゃんだって、自分に対して気遣われてるって分かったら、星ちゃんも気を落とすんやで?

早々分かりやすく顔には出さへんやろうけど、やっぱり敏感に感じ取るんやと思う。

「星ちゃん、変装は髪と…、眼鏡か?」

話がきれてしまったので、またこちらから話をふった。

「マジかよ。そんだけ変装してたら、本当のお前がどんな奴なのか分からねえじゃねえか。」

盾が落ち込んだような、淋しそうな顔をする。

「出会ったばかりだから仕方ないけどさあ、」

「こんなことにならなかったら僕らはずっと、星の素顔を見れないままだったんだね。」

双子も顔を見合わせて、視線を下げている。

「だけど、それはもういいじゃねえか。____これから一緒にいるために、星も話してくれたんだしよ。」

「「そうだけど。素顔が見れないのは悲しいよ。」」

三人の視線はゆっくりと星ちゃんの方へと向く。

変装していて、今自分たちが見ているのが本当の星ちゃんではないと分かれば、『素顔が見たい』。

本当の星ちゃんを見たいと思うのは、きっと当たり前なんだと思う。

星ちゃんも変装していることを認めると同時に、素顔を見せなくてはいけなくなると分かっていた筈や。

星ちゃんは盾達と目が合うと、眉を下げて笑った。

「正確には、カラーコンタクトもしてるんだ。だからウィッグと、眼鏡、そしてカラコンっていうのが正解よ。」

そう言うと星ちゃんは、ゆっくりと立ち上がった。

俺たちの座っているソファーの周辺から離れ、俯きつつ入り口の方へ数歩歩いてから立ち止まり、ゆっくりとこちらを振り向く。

その時の顔は、凄く印象に残るんだろうと思った。

「私の素顔を見られなくて残念だって、素顔が見たいって思ってもらえて嬉しい。…でも、___多分皆は本当の私をみたらきっと…私のことを嫌いになるよ?____それでも…、どうしても素顔が見たいの?」

泣いているんやない。

笑っているんでもない。

その顔は、何て表現すべきか分からへんかった。

悲しそうで、辛そうで、それなのにどこか諦めたような。

瞳は、カラコンやって言ってた黒い瞳は、ぼうっと遠くを見つめとるみたいで、何かを…いや、素顔を見せることにやはり恐怖を抱いているよう見えた。

この子が素顔を隠すようになるまでに、一体どないなことがあったんか俺には分からんへんけど、それなりの理由があることくらいは分かる。

俺はその顔を見ても見たい!と即答するなんてできへんかった。

他の奴らも同じやったんやと思う。

だって直ぐに口を開けた奴がいなかったんやから。

「ふふふ、私が傷付くんじゃないかみたいなこと思ってる?…平気だよ?私は傷付かない。もう何度も経験してるもん。」

星ちゃんが沈黙の中、自嘲気味に笑った。

経験してるっていうんは、今まで何度も何度もこの状況で傷ついてきたってことなんか?

平気だよなんていいながら、目は泣きそうになっとるって気付いとる?

「仕方ないなあ、見せるよ。……だから____お願い、嫌わないで。」

冗談ぽく切り出したのに、最後の方は聞き取れない程の小さな声やった。

せやから、多分星ちゃんはそう言ったんやと思う。

「「星!無理しないで?!」」

我慢できへんかったのか、双子の悲痛さを感じさせる声が響く。

「そうだ、星!俺らもお前を苦しませたいわけじゃねえ。無理言って悪かった。_____けどな、これだけは言っとく、本当のお前がどんな奴だろうと俺も皆もお前を嫌ったりしねえ。絶対だ!」

星ちゃんの目が見開かれるのが分かった。

「うん、ありがとう。」

直ぐに穏やかな笑顔になって、そう言った。






_______「じゃあ、ちょっと待っててくれる?」

星がそう言って、生徒会室だったらしいこの部屋を出て行って暫く経った。

変装をときに行っただけにしては、はっきり言って時間が掛かっている。

「…ま、仕方ないよな。」

俺は一人でに呟いた。

今までだって数えるくらいの奴にしか素顔を見せた事がない程、あいつは自分の素顔にトラウマがある。

ましてや、そのせいで過去にも色々遭ったのなら、変装を解くことに恐怖心があったって当たり前だと言える。

きっと不安も大きいはずだ。

「星ちゃん、遅いな。」

「「そうだね。大丈夫かなあ?」」

尊と双子がお互いを見あう。

あいつなら大丈夫だ、そう言おうと口を開いたと同時にこの部屋の扉が開く音がした。

俺を含め、皆揃ってそちらを振り向いた。


「…って星、何だよそれ。」

思わず呆れ半分にツッコミを入れてしまった。

「ほんまや星ちゃん、何しとるん?」

俺に続いて尊も突っ込む。

「「星ー、何で暗幕被ってるのさあ!?」」

そう、星は変装を解いて来たたらしいが、その上からすっぽりと暗幕を被っていた。

「折角変装解いとるのに見えへんやないの。」

「だ、だって、やっぱりこわくて…。」

やはりそう簡単にはトラウマのある壁は越えられない。

何となく予想はしていたから、大きく落胆はしなかった。

寧ろ一応変装は解いてきたのだから、いい方だ。

「まあ、上出来だな。」

そういいながら、星の方へ近づく。

「星、よく出来ました、だな。」

「えっ?」

星の声はきょとんとして何のことを言われているのか分かっていないようだ。

「おい、盾お前何する気や?!」

尊が俺のやろうとしている事に気が付いたのだろう、慌てて制止を促す。

でも、もう遅い。

「何するって…勿論、_________こうでしょ!」

星の被っていた暗幕をぱっと、取り去る。


周りの奴の息を呑むのがわかった。

そして、俺の瞳は驚いて大きくなった星の瞳とぶつかった。

さっきまでと違う。

_____綺麗な碧い瞳。







投稿にかなり時間が掛かってしまいました。

二ヶ月弱でしょうか?

夏休みはここまで仕上げるぞと意気込んでいたもののあっさりと夏休みが終わってしまいました。

このところ雨続きで夜は肌寒ささえ覚えるようになり、ああ、もう秋なのかと思うこの頃ですwww

時間をかけていた割には投稿は普段と変わらない量で、内容を推敲しているわけでもありません。

単に小説執筆にかけられる時間そのものがなかっただけで…。


さてさて、これからは気を取り直して活動再開といきたいと思いますので、今後ともよろしくお願いします( ´ ▽ ` )ノ

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ