表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/19

9

 土曜日、平日の地獄巡りのような登校日が終わり、穂花はリラックスした気持で朝を迎えた。暖かい毛布の中で、穂花が目を覚ましたのは午前十時三十分。

「よく寝たなぁ」

 目覚まし時計を見て、満足気に伸びをすると、穂花は自室を出て居間へと向かった。

 テーブルの上には、六切れの食パンが入った袋が寂しく穂花の席の前に置かれている。自分で焼いて食べろということなのだろう。母親からの見えないメッセージを読み取り、穂花は食パンをトースターの中に入れた。パンが焼けるまでの間に、携帯電話を取りに自室に戻る。その途中、穂花は玄関に両親と直樹の靴がないことに気付いた。

 直樹は毎週土曜日に、都内の病院で診察を受けることになっているので、両親はいつものように弟を連れて、隣の東京都に朝早くから出掛けたようだ。三人が帰ってくるのは、おそらく午後五時過ぎ。それまで家には自分以外の人間はいない。

 穂花は今日、午後一時に最寄りの駅で千秋と会う約束をしていた。

 折角だから千秋を家に呼んで、一緒に昼御飯を食べようか。いや、二人で食べるなら、家の中より開放的な外のほうが良い。よし。

 早速穂花は千秋の携帯電話に電話を掛けることにした。

「どうしたの?穂花」

 コールすると、送話口からすぐに千秋の声が聞こえてきた。

「あ、千秋?まだお昼御飯……」

 穂花はちらりと壁に掛かった時計を目にする。

「食べてないよね?」

「うん、まだだけど……」

「じゃあさ、下校途中通りかかる、真木公園で一緒に御飯食べようよ」

「ううん……。待ち合わせの時間は午後一時だったよね?」

「そうだよ。あ、どうせなら公園で待ち合わせしよっか」

「うん。そうだね。そうしよう」

 明らかに不満そうな声で千秋は答えたが、穂花は気にせず話を進めた。

「よぉし、決まり!一時に公園集合だから、遅れないようにね」

「ねぇ、穂花?」

「何?」

「お昼御飯って、穂花が作ってくれるの?」

「えぇ?私が作る訳ないでしょう!何言ってんの。自分で買ってくるんだよ」

 普段の千秋からは全く想像できない子猫のような発言を聞き、穂花は笑いの発作に襲われた。

「ふふ、ふふふ」

「そんなに笑うことないだろ?」

「千秋、私の手料理が食べたいの?作ってあげよっか?」

「食べたくないよ、ばか」

「千秋が怒ってる。面白い」

 穂花は笑みを浮かべて何度も飛び跳ねた。

「怒ってないよ。そんなことで怒らないよ、僕は」

「千秋はかわいいなぁ。なでなで」

「穂花、男に可愛いとか冗談でも言うなよな」

「慣れてるくせに」

「穂花!」

 穂花は千秋の大声を初めて聞いた。今度ばかりは本当に千秋は怒っているようだ。

「はいはい、解りました。二度と言いませんよぉ」

「……じゃあ、おにぎりでも買って、一時に真木公園で待ってるから、穂花、遅れないようにね」

「あ、ちょっと待って。おにぎりじゃなくて何でも良いからパン買って来てよ。私もパン買うから、半分ずつして食べよ」

「えぇ、何で?」

「色んなモノ食べたほうが楽しいでしょう?それに、一緒にいる人がどんな味の食べ物を食べているのかわからないと、つまらないよ」

「そう。まぁ良いよ。パン買って来るよ。じゃ、またね」

「また二時間後にね」

 穂花は笑顔で携帯電話の電源ボタンを二回押した。顔を真っ赤にして怒る千秋の姿を想像すると、おかしくて思わず吹き出してしまった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ