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 神様って意地悪だよね。

 何?もしかして僕のこと言ってるの?

 千秋の冗談は本当につまらない。



 真っ暗闇の自室の中で、一人穂花は目を閉じて、机に突っ伏していた。

 唐突に、頭の中で声がした。その声は、聞き慣れた少年と少女の声だった。

―ごめんごめん。真面目に答えると、神様は意地悪ではないよ。

―どうしてそう思うの?

―神様が実在して、人間を作ったのなら、神様は天才だよ。人に苦しみを与えたんだから。

―それのどこが天才なの?

―僕は苦しみがあるからこそ、人は幸せを感じると思うんだ。時折、お腹や頭なんかが痛くなるから、どこも痛くない時にも幸せを感じることができる。なんか、良い例えが他に浮かばないけど、そんな具合に、人は苦しみによって生かされていると思わないかな?

―ふぅん。そうだね。でもお腹が痛くないだけで幸せを感じるのは千秋くらいじゃないの?

―悪かったね。そんなことで幸せ感じて。

―あ、でも神様が想像上の存在だったら、その理屈は当て嵌まらないよね。

―まぁ、そうなるね。

―神様が、人が作り出したものだったら、やっぱり意地悪なんだろうね。

―え?何で?

―人間が意地悪だからだよ。

―ううん。そうかな?穂花は神様が空想の産物だとしたら、そもそもどうして神様は生まれたと思う?

―行き着くところは死ぬのが怖かったからじゃないかな

―うん。僕もそう思う。でも、仮に神様が空想の存在だったとしても、意地悪にはならないと思うよ。

―どうして?

―死んだら生物はどうなるのか。そのことを死んだ人間は教えてくれないから、どこにでも死を恐れる人はいるよね。きっと先人達も、死ぬのが怖くて、楽になりたくて、純粋に死を恐れる気持から神様を作ったんだよ。そんな純粋な気持で作られた神様が、純粋な心を持っていない訳がない。人間と同じように、残酷ではあっても、神様は意地悪ではない筈だよ。

―残酷?

―そう、残酷。意地悪な人間なんて、本来存在しないんだ。人は皆、純粋で残酷なだけ。

―それだけでも、私は十分救いようのない生物のように思えるけど。

―そんなことないよ。人は誰もが純粋な優しさも持っている。優しさがある限り、人は誰とでも親しくなれる可能性を秘めている。だから、穂花はストーカーさんと仲良くなることもできないことはないんだよ。

―どうでも良いよ、あんな人。てか、思い出させないでよ。

―じゃあ、穂花は誰と親しくなりたいの?

―え?私は、千秋ともっと、親しくなりたいかな。

―えぇ?何で僕なの。気持悪。

―はぁ?なっ、もう。千秋のバカ!アホ!帰れ!

―へへへ。そんなこと言っても、不思議なことに、僕と穂花もいつかはわかりあえる可能性を持っているんだよ。じゃあね。また明日。

―千秋のバカ。

―え?何?

―はいはい、また明日ね。さようなら。面白い話してくれてありがとう。

 机に突っ伏した状態から、目を開け、顔を素早く上げた。

 視線の先には教材や辞書が並んでいるだけで、意地悪な千秋の幻は見えなかった。が、穂花は彼の言葉と優しく、柔らかな笑顔を思い出し、弱々しい笑みを浮かべた。

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